~瓢箪から駒が出る~

一日目の仮入部から数日が経ち、今日から本格的な部活動が始まる。

理人はいつも通り完璧。

千翔は少しずつ感覚が戻ってきたようで、初日よりもずいぶんと上達していた。

それでも理人には勝てないみたいだけど・・・。

愛衣はやはり部活の時は自己中で、私と美奈先輩は苦労している。まあ、ドリンクは私担当になったから、美奈先輩に相談して一人ひとり好みの濃さで作るという工夫をした。これが部員達には高評価。

ちなみに千翔は薄めがいいということだったから、粉は一杯。

タオルは美奈先輩で、時々手が空いた時、私も手伝うという状態になっている。

スコアを書くのや、朝練がある時のカギ当番も、私と美奈先輩が交互にやっている。

もうわかるだろう。

愛衣は仕事をほとんどやっていない。やるのはドリンクとタオルを理人に渡すことと、応援。

もちろん、美奈先輩は何度も注意をしたし、キャプテンの谷先輩も愛衣が仕事をサボっていることには気づいていて何回か怒っていた。

けど、やはり愛衣は理人のことしか見えていないようで・・・。

今では誰も愛衣のことをあてにしていない。強制退部にするという話も少しは出ているようだけど、美奈先輩が引退した時、私一人になるからという理由で、それはあまりしたくないらしい。

といっても、そもそも強制退部は最終兵器みたいなもので、顧問と校長の許しがなければいくらキャプテンが言おうができない。






本当に悪い子なら私も嫌いになれるんだけど、普段はとってもいい子だからなあ・・・。






気になってるのはそれだけじゃない。

愛衣と理人の様子だ。なんだかよそよそしい、というか、変。

二人ともお互い仲よさそうに話していたのに、今では一緒にいても全然話はしてないし、そればかりか空気が重い気がする。

というより、愛衣は話しかけようとしてるけど、理人がそれをさせないオーラを出してる感じ。

何かあったんだろうか・・・。

それ以外は特に何もなく、高校生活はうまくいっている。

そう思ってたんだけど、






「ごめん。ちょっと、話があるんだけど」






今は昼休み。いつものように千翔と一緒に弁当を食べようとすると、そこにクラスの男子が割って入ってきた。






「え・・・っと、千翔に用?」

「いや、藤宮さんに」

「うえっ!?私!?」






まさか私に用だとは思わなかったから、喉の奥から変な声が出た。

男子が私に何の用があると言うんだ!はっ!まさか、リンチ!?さらば私の平穏な日々・・・。






「・・・わかった。千翔、ごめんけど先食べてて」

「あ、はい」






千翔を一人で食べさせるのはちょっと心苦しいけど、仕方ない。

男子に連れられ、やってきたのは裏庭。

ここなら、集団リンチもありえるな。あの木の後ろに隠れてるのかも。あ、あそこにも隠れるスペースがあるな・・・。

と、いつでも逃げられるように、敵の人数をできるだけ把握していると、






「あの!」

「は、はい!」






くる・・・!

私は身構える。






「好きです!」

「・・・は?」






何が起こっている。

すき?すきって、どのすきだ。

スキ・・・隙・・・好き・・・。

もしかして恋の好き!?






「入学式の時、あなたを見た瞬間から好きでした!付き合ってください!」






ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってよ・・・。

パニックになっている私を余所に、彼は顔を真っ赤にしながら告白とやらをしてくる。






「私のどこがいいと思ったの?」

「え・・・っと、雰囲気というか、自分の意見をまっすぐ言えるというか、凛々しいというか___」

「ちょっと、はっきりしてくれない?」






ちょっと厳しめに言うと、彼はうっと言葉に詰まった。






「はあ・・・。私と付き合いたいなら、まず精神面を鍛えな。ていうか、こういうはっきり言うところに惹かれたんじゃないの?」

「それは・・・」






私がそう言っても、彼は何も言わなかった。

言い返してくれたら、好感度上がってたんだけどなあ。

どうせ、顔目当てなんでしょ。






「まあ、私はあなたとは付き合う気ないから。ごめんね」






それだけ言って、私は教室に戻った。

とりあえず、リンチじゃなくてよかった。






「おかえりなさい」

「ただいま」






千翔はもうすでに食べ終わっていて、待ってくれていたようだ。

私もさっさと食べないと。

その時、ふわっと甘酸っぱい匂いがした。






「千翔、飴食べてる?レモン味の」

「よくわかりましたね」

「まあ・・・。その味好きだったし」

「いります?」

「あ、じゃあ貰う。ありがとう」

「ところで、呼び出し何だったんですか?」

「ああ・・・告白、だと思う」






聞かれたのでそう答えると、千翔は顔を強張らせた。






「どうかした?」

「い、いえ。で、OKしたんですか?」

「・・・それは本気で言ってる?」






千翔の言葉に、少しの不快感が私を襲う。

私が誰を好きか、知ってるくせに。






「すいません・・・」






千翔はわかってくれたようで、謝った。






「ていうか、同じクラスだけど私、あの人の名前も曖昧だし。川・・・川・・・」

「川下君ですよ。それより、これでわかったでしょう。あなたはモテるんです。黙っていれば」

「んー・・・って、何よ!黙っていればって!」

「そのまんまの意味です」






なんか、最近千翔がいい意味で辛辣になってきてる気がする。

それほど心を開いてくれるようになったなら、私は嬉しい。

弁当も食べ終わり、それと同時に昼休み終了の合図が鳴る。






ふう・・・今日の部活も大変だろうなー。

ていうか、胸がざわざわする。

悪いことが起きなければいいけど。






私は、胸に忍び寄る黒い雲には気づかないふりをし、午後の授業を迎えた。


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