~波乱の部活動~

「飴、おいしかったよ。私、あの味すごく好き」






今は放課後。私と千翔は、体育館に向かってる。






「それはよかったです」

「意外に飴だけでも二時間過ごせるんだね。お腹鳴らなくて安心した」






千翔から貰った飴の話で盛り上がっていると、






「あ!鈴音ー!今日は部活に来るのー?」






理人と愛衣が二人仲良く歩いていた。






「うん。今日こそは、ね」

「はい」






結局、四人で向かうことになった。






「鈴音さん、大丈夫ですか?」






千翔が小さな声で耳打ちしてきた。

大丈夫って、理人と愛衣のことだよね?






「大丈夫だよ。ありがとね、心配してくれて」






私も、前の二人に聞こえないくらいの小さな声で返した。







体育館に入って最初にしたのは、やっぱり自己紹介。

理人と愛衣は部活見学で来てるだけあって、もう先輩たちとは仲が良かった。






「いやー、マネージャーうちだけやったからほんま助かるわ!うちは三年の東條美奈や!よろしくな!」






独特な関西弁とその言葉遣いで、男勝りな性格なんだと思った。






「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

「愛衣ちゃんと・・・えーっと、鈴音ちゃん、であってるよね?」

「はい」

「部活見学で来てたのは愛衣ちゃんだけやったから、まさか仮入部で一人増えると思わんかったわ」

「あー・・・行こうと思ってたんですけど、ちょっと時間が合わなくて・・・」

「そっか、そっか!じゃあ、まずは仮入部ってことやから、マネージャーの仕事を説明して、少しやってもらおっかな!」






それからは、美奈先輩の丁寧な説明のおかげで、仕事内容は完璧に覚えた。

ただ一つ気になったのは愛衣。

中学でもやってて知ってるからか、説明はほとんどうわの空で聞いていた。

美奈先輩が問いかけても反応が少し遅れたり、チラチラ理人の方を見てたり。

まあ、できるならいいんだけど・・・。それでもちゃんと聞くのが礼儀ってもんじゃないの?






「じゃあ、実際にやってもらおっかな!」

「はい!」

「あっ、はい!」






ここでも少し遅れた愛衣。美奈先輩も気にしていたのか、ちょっと苦笑いしている。






「ドリンクはどうやって作るんだったでしょう!」






美奈先輩が、問題形式で出してくる。






「専用の粉を入れて、水で混ぜる・・・でしたよね?」

「うん!簡単やったね!水の量は、線引いてるからそこまで入れたらいい感じになるよ!」

「あ、ほんとだ」

「粉は一本につきこのスプーン二杯分やから」

「え、二杯なんですか?わたしの中学では三杯でしたけど」






愛衣が美奈先輩のやり方を否定した。

なんでそういう空気が悪くなるようなこと言うのかな・・・。






「ま、まあ・・・学校によってやり方が違うのは仕方ないんじゃないかな?」






私は必死に、この悪い空気を元に戻そうとする。

が、






「でも、わたしは三杯でやってきたから癖がついちゃってるんだよ?」

「それはそうかもしれないけど・・・」






愛衣ってこんなはっきり言うタイプだったの!?

愛衣の強引さに驚いて、しどろもどろになっていると、






「愛衣ちゃん、中学ではそうだったかもしれへんけど、あなたはもう高校生やで?中学でルールがあったように、ここでもルールがあるんや。過去のルールを持ち込まんといてくれへん?それに癖がついちゃってるって言うたけど、知らんわ。そうならないように努力するのが当たり前やろ?」






美奈先輩がバシッと言った。

かっこいい・・・。けど、ちょっと怖い。愛衣も固まってるし、私は怒らせないようにしよう。






「す、すいません・・・」

「ん?ええんよ?ちゃんとやってくれるんやったらな」






うわあ・・・。なんで初日からこんなトラブルに巻き込まれなきゃいけないの・・・。






「よし!気を取り直して、ドリンク作ろっか!」






美奈先輩の声掛けに、三人でドリンクを作った。

けど、やっぱり愛衣は手が自然と動くのか、時々三杯のもできてしまっていた。

全て作り終え、かごに入れて体育館に戻る。






「あ、美奈先輩。持ちます」






私は、ドリンクが入ったかご二つ分を受け取った。






「ありがとう!うわあ、鈴音ちゃん力持ちやん!」

「いえいえ。力だけは人並み以上あるんで、これは任せてください」

「すごいね、鈴音!わたし、ほんと力ないから重いもの持てないよー」






体育館に入ると、みんなは休憩時間に入ろうとしてた頃だった。






「あ、ちょうどいい頃やったね。休憩時間になったらドリンクと、あそこに畳んであるタオルを部員たちに渡していくんよ。さ、行こか!」






美奈先輩がそう言った瞬間、






「理人にはわたしが渡してくるね!」

「あっ!愛衣ちゃん!?」






なんて自己中心的な・・・。






「理人と愛衣は、まあ、特別な関係なんで・・・」

「ふーん。付き合ってるんやね」

「え・・・っと」

「大丈夫やって!わざわざ言いふらしたりはせえへんから!でも、理人君ばっかり特別扱いしてたらまた怒るけど」

「そう、ですよねー・・・あはは」

「さあ!みんな疲れてるから、さっさと渡そう!」

「はい!」






まず、自己紹介でキャプテンだと知った谷先輩の元に。






「谷先輩!どうぞ!」

「お、ありがとな。そういや、もうマネージャーの仕事は覚えた?」

「はい。美奈先輩が丁寧に教えてくれたので」

「へえ。でも、一回で覚えられる君もすごいよ。名前、なんだっけ」

「藤宮鈴音です」

「良い名前じゃん」






そう言った谷先輩は、ふにゃりと笑う。意外に可愛い笑顔だな。






「なんて呼べばいい?」

「へ!?な、ななななんでも・・・」






相手から「呼び方を決めて」なんて言われたのは初めてだったから、変な反応をしてしまった。






「ははっ!じゃあ、鈴音ちゃんで」

「あ、はい」

「ん、他の奴らにも渡しておいで」






そう言われ、谷先輩の元から離れた。

茶髪でピアスをしてるから、チャラそうに見えたけど、そうでもなかった。

普通に、良い人。

ただ、なんていうんだろう。女の子の扱い方をよく知ってそう。

どういうことを言ったらきゅんとするか、とか。

でも、私の周りにいる人って、顔の偏差値高くない?理人のしろ千翔にしろ谷先輩にしろ・・・。

私は、他の先輩にもドリンクとタオルを渡し、部員たちを見まわしていると、






「あ」






千翔に渡ってない!影薄いから気づかれなかったんだ!






「はい、千翔」






私は急いで千翔に渡す。でも、千翔は意外に息が上がっていない。






「ありがとうございます」

「どう?」

「どう・・・とは?」

「ついていけるかって聞いてんの!」






全部言わんとわからんのか!






「大丈夫ですよ」

「ふーん。ならいいけど。・・・ねえ、意外に息切れてないよね。あんたって、そんなに体力あったの?」

「僕_____」






その時、休憩終了の合図が出た。






「あ、私も戻らないと。じゃあ」






私は美奈先輩のところに戻る。

愛衣は、理人にドリンクを渡してずっとそのまま喋ってたみたいだ。

何を考えてるんだか・・・。






「美奈先輩、次は・・・」

「えっと、タオル洗おっか!」

「はい」

「はい!」






私たちがタオルを洗いに行こうとすると、






「あ、美奈!」






谷先輩が呼び止めた。






「これから試合するんだけど、審判やってくんね?」

「はあ?これから?なんでや」

「一年の実力を図るためにな」

「え、理人たちと先輩たちでやるんですか!?」






愛衣が声を上げる。






「ああ。理人と、あと、えーっと、誰だったかな。ゆき・・・ゆき・・・」

「千翔君のことですか!?」

「そう!そいつ。理人と千翔は、一年の中でもダントツで上手い」






私は、先輩の口から千翔の名前まで出てきたことに、驚きを隠せなかった。理人は小学校五年の時からバスケやってるって言ってたから、そうとう上手いんだろうとは思ってたけど・・・。






「んー・・・。やったら、愛衣ちゃん、してくれへん?経験者やし、わかるやろ?うちは鈴音ちゃんに教えんといけんから」

「わかりました!」






理人のことを見れるからか、愛衣は顔を明るくした。






「ついでにスコアもとってくれると嬉しい」

「了解しました!」

「ほな、行こっか」

「あ、はい」






愛衣に仕事を預け、私たちはタオルを洗いに向かった。

美奈先輩に教えてもらいながら、話題に出てくるのはやっぱり愛衣のこと。






「愛衣ちゃんってさ、ちょっと自己中やね」

「あー・・・まあ、仕事はちゃんとしてほしいですね」

「鈴音ちゃんは、愛衣ちゃんと仲ええん?」

「一応、女子の中では初めて話した子ですけど、そこまで仲いいかって言われると・・・。ただ、最初の印象はいい子だな、と・・・」

「いい子?」

「はい。私、昨日倒れちゃったんですけど、保健室まで駆けつけてくれたんです。その時、まだ一回しか喋ってなかったのにすっごく心配してくれて・・・。だから、私も今びっくりしてます」

「へえ・・・。愛衣ちゃんは、理人君と付き合ってるんよね?」

「はい」

「てことは、自分の意見を主張したがりで、誰よりも恋人を優先するってだけなんかな?普段は普通にいい子なんかもしれん」

「あー・・・そうかもですね」






私は、そうであってほしいと願う。






「ところでさ、さっき“女子の中では”って言うたやんか?てことは、本当の一番は男子って事やんな?」






美奈先輩がなぜその話題を出したのかわからなかった。






「そうですけど・・・」

「誰!?」






うおっ・・・すごい食いつき・・・。






「千翔です。さっき、谷先輩が言っていた、一年の中でもすごく上手い奴のうちの一人。名前を忘れられていた・・・」

「えっ!?くっそー・・・ちゃんと見てなかった」

「たぶん、影薄いんでよく見ないとわからないですよ。ちなみに理人の双子の兄です」

「へえ、理人君の・・・。ちゃんと見とくわ。で、鈴音ちゃんはその千翔君のこと好きなの!?」

「ぶふっ!」






そっか、なるほど。美奈先輩は恋バナが好きなんだ。

いきなりすぎて吹いちゃったよ!






「いや、そういうのは全然・・・。普通に男友達です」

「むー・・・。でも、これから進展していくことも・・・」

「ないです」






私が即答すると、美奈先輩は明らかに残念そうな顔をした。






「まあ、もし恋愛に困ったらうちに言いんさい!アドバイスくらいはできると思うで」






そう言われ、頭の中に理人の顔が浮かんだが、振り払った。






「はは・・・。ありがとうございます」

「よし!終わった~!洗い方はわかった?」

「はい、大丈夫です」

「ほな、戻ろっか!」






洗ったタオルを乾燥機にかけ、体育館に戻ると、






「理人ー!いけー!」






愛衣がはしゃいでいた。

一応得点板はしているみたいだが、スコア帳はベンチの上にほったらかしである。






「あーあ・・・」

「はあ・・・。予想はしてたわ。まあ、得点板してるだけましやな。鈴音ちゃんにスコアの書き方教えとくわ」

「はい」






私は、美奈先輩にスコアの書き方も教えてもらい、途中からだけど今やっている一年対先輩の試合を書き留めておこうとコートに目を移すと、






「すっご・・・」






目を奪われた。

バスケは素人だけど、それでもわかるくらいすごかった。一年が先輩を押しているのだ。

それだけでも衝撃だったのに、一年の得点のほとんどは理人と・・・そして千翔のゴール。

私は信じられなかった。ドリンクを渡した時、「大丈夫」って言ってたけど、本当は無理してるんじゃないかと、心配していた。

その千翔が、理人と連携してゴールを決めている。百発百中ではないけども。

理人も、想像してたよりかなり上手い。完璧だった。

谷先輩が言っていた通り、二人は特別ずば抜けている。上手さでいうと理人が上。意外性でいうと、千翔かな。

・・・かっこいいなあ。






え・・・。今、自分なんて・・・。

“かっこいい”?誰が?

まさか、千翔にかっこいい、なんて。






私は軽くパニックになっていた。千翔は男友達で、それ以上でも以下でもない。

理人だよ。理人に決まってる。そうじゃないと、いやだ。

八年間も好きなんだよ?

強制的に結論を出し、考えるのをやめる。

その直後、試合終了のブザーが鳴った。

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