~すれ違い、そして和解~
「もう・・・なんなんだよお・・・。私、何かしたっけ」
無視され続けて、私の心の中は悲しさ半分怒り半分。
ここまでくると、逆に何が何でも振り向かせてやる!という謎の使命感が出てきた。
昼休みになって、さっそく千翔のところに行く。
「ねえ、今日も一緒に___って、ちょっ!」
「一緒に食べよう」。
そう言い終わる前に千翔は私を見た瞬間逃亡。
慌てて私も追いかける。
何をそんなに逃げる必要があるのか、言ってくれないとわからない。
「待って!いや、止まれ!」
まあ、そんなこと言っても止まらないよね。
「おい、止まれって!」
だんだん本音が出て口調が荒くなり、周りにいる人も何事かとじっと見てくる。
「おい!___千翔!」
名前を呼んだ瞬間、ずっと走っていた千翔が止まった。
「え・・・ぶふっ!」
急だったから、私はブレーキをかけれず、そのまま千翔の背中にダイブ。
「あんた・・・急に止まんないでよ!もー、痛い・・・」
「なんで、追いかけてくるんですか・・・」
今にも泣きだしそうな、とても弱々しい声だった。
そんな声出されたら、怒る気が失せたじゃないか。
「じゃあ、なんで逃げるの?」
「・・・」
また無視か・・・。
「あのさ、言ってくれないとわかんないよ?」
しばらくお互い何も言わなかったけど、やっと千翔が口を開いた。
「だって、いやでしょう。僕と藤宮さんが付き合ってる、なんて噂。藤宮さんは理人が好きなのに・・・」
「あ、やっぱり聞いてたんだ」
「はい。ほとんど最初から」
「そっか・・・」
「だから、あまり一緒にいない方がいいと思って。なのに、どんなに無視して避けても、話しかけてきて・・・」
千翔は千翔なりに考えてたんだ・・・。
「ふふっ。私はしつこいよ?いつまでも、追いかけてやる」
「怖いです」
「ははっ。・・・ねえ、千翔?確かに私は理人が好き。でも、一つ勘違いしてる」
そう言っても、千翔はわからないようで、首を傾げた。
「あんたと付き合ってる噂が流れても、別に嫌じゃないし。まあ、そう思われても仕方ないよね。そういう行動を取っちゃったんだから。でも、千翔は私を心配して運んでくれたんでしょ?」
「まあ・・・はい」
「普通に嬉しいんだけど」
私が言うと、千翔は照れたように口元を手で隠した。
「藤宮さんは、いつも安心する言葉をくれますね」
「そう?」
「はい。実はちょっと不安だったんです。保健室まで運んだこと、本当はいやだったらどうしようって・・・」
小心者だなあ。
「あっはは!そんなこと気にしてたの?ていうか、気になってるんだけど、その“藤宮さん”っての、やめない?私だけ呼び捨てってなんか不公平」
「えっ・・・!」
千翔は、まさかそんなことを言われると思ってなかったのか、声を上げた。
「じー・・・」
「・・・なんですか、その目は」
「呼んでくれないのー?」
私は、千翔の顔を覗き込んだ。
「っ!・・・あんまりそういうことしないほうがいいですよ」
「そういうこと?」
「・・・はあ」
千翔はなぜかため息をついた。
「あなたはいろいろな男子に狙われてるんですよ。相手が僕だからいいものの、期待を持たせるような行動をとらないでください」
「狙う・・・って、まっさかー!ないない!だって私、あんた以外の男子とは全然喋ってないもん!好意を持たせるような行動以前の問題だよー」
私がそう言うと、千翔は何かを考えるような素振りをした。
その時、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「えっ!?もうそんな時間!?って、ああああああ!」
「どうかしましたか?」
「弁当、食べてない!」
「・・・そんなことですか」
そんなこと!?
「あんた、昼食べずにこれからを過ごすわけ!?死んじゃうよ!」
「一食分抜いたからって死にはしません」
「まじめに答えないでくれる!?死ぬほど辛いってことよ!」
「そんなこと言っても、もう五時限目始まりますよ」
「んー・・・」
千翔は賛成しないだろうけど、ダメもとで言ってみるか。
「サボる?」
「何言ってるんですか、ダメに決まってるでしょう」
だよねー・・・。逆に「いいですよ」って言ったらこっちがびっくりする。
「まあ、お腹がすいているのはわかります」
千翔はそう言いながら、制服のポケットに手を突っ込んだ。
「これしかないですけど、どうぞ」
そこから出てきたのは、飴だった。
私はそれを受け取る。
「ありがと!」
「いいえ。それで鈴音さんのお腹が満足するとは思いませんけど」
千翔は、教室の方に戻りながらそう言った。
“鈴音さん”______。
「ふふっ」
下の名前にさん付けで呼ばれたことなんてなかったから、新鮮で嬉しいと思うのと同時に、なんだかくすぐったい。
この後の授業も頑張れそうだ。
私は、千翔に貰った飴を口の中に放り込む。
「すっぱ・・・」
それは、レモン味だった。
この時、私たちは気づかなかった。
今までの様子を、あの人に聞かれていたことを・・・。
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