~二人きりの時間、そして噂~

昨日、ずっと千翔がおかしかった理由を考えてたけど、まったくわかんなかった。

なんか・・・無駄な思考を使った感じ。

その時、






「すーずね!」

「へ・・・うわあああああ!?」






急に目の前に理人の顔がドアップで映り込んできた。






「なにぼーっとしてんだ?」

「え、ああ・・・いや、なんでもないよ」

「そうか?あ、昨日は一人で大丈夫だったか?」

「昨日・・・?ああ!」






一瞬何のことかわからなかったけど、きっと倒れたことを言ってるんだ。






「うん!帰りは千翔が送ってくれたし、ちゃんと家で休んだし、もう大丈夫!今日の朝は食べてきたよ!」

「ははっ、そっかそっか。鈴音は、千翔と仲いいよな」

「あ、まあ・・・。同じクラスだし」

「でもよ、千翔は鈴音のこと“藤宮さん”って呼んでなかったか?」






そう言われて気づく。

確かに、あいつ自分のことは呼び捨てでって言っときながら・・・。






「ははっ、そうだねえ。ていうか、今日は千翔と愛衣は?一緒じゃないの?」

「ああ・・・。常に一緒ってわけじゃねえから」

「そっか。あのさ、理人は中学の時もバスケ部だったの?」

「おう。バスケ自体は小学校・・・確か五年の時からだな」






じゃあ、転校していった先の学校でやり始めたんだ。

・・・会話終了。

お互い何かあったってわけじゃないけど、なんとなく気まずい。

いや、気まずいなんて思ってるのは私だけかもしれない。

私は理人のこと好きだけど、理人は私のことなんてきっとなんとも思ってない。

それが、すごく苦しい。

二人きりで話せて嬉しいはずなのに、今の距離に満足していない自分がいる。






「あの・・・さ、理人は愛衣と付き合ってるんだよね?」

「千翔から聞いたのか?」

「うん」






なんでこんなことを言ったのかわからない。

話題なんて、考えればいくらでもあるのに・・・。自分で自分の首を絞めているようなものだ。






「そうだよ。愛衣とは中二の時から付き合ってる。で、愛衣は中学からバスケ部のマネージャーやってた」

「そ・・・っか。長いね」

「長いか?まだ二年目だぞ?」

「二年目・・・。じゃあまだまだこれからだね」

「ははっ、どっちだよ!」






そう言って笑った理人の笑顔に、きゅんとする。

もう・・・大好き。






「あ、そういえば、今日から仮入部だったよね?」

「そうだけど、来るのか?」

「うん。たぶん、千翔も行くと思うよ」

「ああ、昨日言ってた」

「そうなんだ。でもね、私、千翔がバスケ部に入るって言った時、びっくりしたの。まさか運動部に入るとは思ってなかったから。帰宅部か、何かに入るにしても研究部かと思ってた」

「・・・ま、今の千翔を見たらそう思うのが普通だろ」






そう言った理人は、少し悲しそうだった。






「え、どういうこと?」






私は、その言葉が気になったので素直に聞いてみた。

けど、






「いや、なんでもねえ。気にするな」






ぽん、と頭の上に何かが乗った。

それが理人の手だとわかるのに、そう時間はかからなかった。






「・・・っ」






途端に顔が熱くなっていくのが自分でもわかる。






「じゃ、部活でな」






気づいたらもう教室の前で、少し離れがたい気持ちになったが、仕方がない。






「うん。また後で」






手を振ってくれている理人にまたきゅんとなりながらも、自分の気持ちが止まらなくなるため、教室に入る。

その途端、まるで待っていたかのようにクラスの人たちが私の周りにどっと集まってきた。

ほとんどが女子だが、その中にはちらほら男子もいて・・・。






「え、な、なに!?」






怖いんだけど!

私は、その次に発せられた誰かの言葉に、この騒動が納得できた。






「ねえ!藤宮さんって、白崎千翔君と付き合ってるの!?」






・・・あー。これは本当に誤解されてるやつだ。あれだな。昨日の保健室まで運んだやつだ。やっぱり見られてた。






「ち、違うよ!」

「えー?でも昨日お姫様抱っこされてたじゃん!」






すぐに反論したが、私一人の言葉は飲み込まれる。

なんで他人の恋愛話に興味があるのかな。本当、めんどくさい。

まだ千翔が来ていないのをいいことに、好き勝手言ってくる。それに、一人ひとり持っている音色が違うから、こういっぺんに集まると、正直頭が痛くなる。






「それは、私が倒れちゃって仕方なくやったことだと思うし・・・」

「でもよ、普通周りにいる女子が運ぶじゃん。なのに白崎が、“僕が運ぶ”って言って自分からしたんだぜ?」






・・・え?

私は、その男子が言った言葉に耳を疑った。






「やっぱり、嫌いだったらそんなことしないよねー?」

「まじかー!俺、藤宮のこと狙ってたのによお・・・」






皆の会話なんて、もう頭に入ってこなかった。

自分から・・・?

まさか、あの千翔に限ってそんなことないよね。






「千翔がどういう気持ちで私を運んだのかはわからない。けど、私と千翔は付き合ってないよ。それだけは本当」






私の言葉に、女子は残念そうな、男子は嬉しそうな顔をした。

女子はほんと、恋バナが好きだな・・・。

男子は何に喜んでるのかまったくわからない。






「あ、白崎が来たぞ」






その声で、教室の入り口の方を見ると、千翔が立っていた。

けど、今偶然来たような感じじゃない。もしかして、ずっと聞いていた?

クラスの人たちも、やっと離れていく。






「おはよう!」






私は何気なく千翔に挨拶をした。

が、






「・・・」






千翔は何も言わず、自分の席に着いた。

聞こえなかったのかな・・・。いや、十分大きな声で言った。






・・・無視された?






私はもう一度声をかけようとしたが、先生が来てしまい、仕方なく断念した。

その後も、休み時間の度に話そうと試みたが、すべて失敗に終わった。


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