~くすぐったい名前呼び~

家までの道のりは案外ギクシャクしていなかった。

あんなことを話してしまったから、気まづくなると思ってたんだけど。

理人が好き、なんてこと、言うつもりはなかった。

けど、一人で抱え込むよりはよかったかもしれない。






「あ、千翔くん、保健室まで運んでくれてありがとね。重かったでしょ?」






ていうか、運んだってことはもしかして・・・クラスの子たちに見られた!?

まじか・・・最悪・・・。あの時倒れた私を恨みたい。






「いえ。むしろもっと食べてください。軽すぎて驚きました」

「ああ・・・お世辞をありがとう。ほんと、千翔くん優しいね」

「お世辞なんかではありませんけど・・・」






千翔くんを見ると、少し照れたように頬を染めた。

え、どこに照れる要素あった!?






「そういえば、千翔くんは何か部活に入るの?」

「バスケ部です」






・・・は。






「いやいやいやいや!ちょっと待って!マジで言ってるの!?」

「はい」

「失礼だと思うんだけど、千翔くんって運動できるの?」

「本当に失礼ですね。できますよ」






いや、だってそう思うでしょ!年がら年中病で倒れてそうな美青年だよ!?

練習にもついていけないんじゃないの?






「まあ、やりたいなら否定はしないけど、大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

「そう・・・いつ決めたの?」

「さっきです。藤宮さんが心配なので」

「私?」

「はい」






ああ・・・理人と愛衣のことか。大丈夫なのに・・・。






「それより・・・」






千翔くんは、それまで普通に歩いていた足を止めた。






「ん?」






私もつられて止まる。






「その・・・僕のことも千翔で構いません」

「え?呼んでるじゃない。千翔くんって下の名前で」






一瞬何のことかわからなかった。






「違います。馬鹿ですか。呼び捨てでいいということですよ」

「ふえっ!?」






急にどうしてだろう・・・と考えた。






「なるほどー・・・理人と愛衣が羨ましいとか思っちゃった?もー、可愛いんだか___」

「そうですよ」






・・・は?

私は冗談で言ったつもりが、あっさり肯定され、こっちが逆に動揺する。






「え・・・っと」

「すいません。自分らしくないかもしれませんが、僕だけ呼び方が違うというのは、なんかいい気がしません」






ほんと、千翔くんらしくないな。






「まあ、別にいいよ。・・・千翔」






理人と愛衣の時はそんなに気にしなかったのに、なぜか、小っ恥ずかしくなった。

私がそう呼ぶと、彼はふわりと優しく笑う。






「じゃ、ばいばい」

「はい、また明日」






千翔に手を振って、家に入る。

今日の千翔、おかしかったな。


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