~悲しい知らせ~

昼休み、クラスの中で唯一友達と言える千翔くんは、たぶん理人と愛衣と食べるだろうと思い、一人教室で外の景色を見ながら昼食をとっていると、






「あの、一緒に食べていいですか?」

「え」






口に入れようとしていた玉子焼きが、ぽろっと箸から落ちた。

嘘でしょ!?千翔くんが自分から誘ってくるなんて・・・。






「理人と愛衣と食べるんじゃないの?」

「いえ。二人きりにさせたいので」






二人きり・・・って、まさか・・・。

その次に言うであろう言葉は予想がつく。






「二人は恋人同士なんです。なので、二人が付き合い始めた時から、僕は一人で食べています」






・・・やっぱり。

できるだけ、聞きたくなかった。でも、遅かれ早かれいつかはわかることだし・・・。






「そ・・・っか」






平常心、平常心。千翔くんもいるんだから。

しっかりしろ、私。






そう思っても、心の中はざわついて、まるで津波が起こってるみたい。






「大丈夫ですか?藤宮さん」

「う・・・ん。だい・・・じょう・・・ぶ」






あれ、息ができない。

私、いつもどうやって呼吸してたっけ。






「藤宮さん___!」






最後に見たのは、千翔くんの驚いたような、焦ったような、心配しているような・・・複雑な顔だった。






ああ・・・千翔くん、そんな顔もできるんだ。

て、私、呑気なこと言ってる場合じゃないのかな。






私の意識は、奥深くに沈んでいった。







意識が浮上する。

目を覚ますと、強い光が飛び込んできた。






まぶし・・・。






体を起こし、今自分がどこにいるのか確認する。






・・・保健室か。

私、やっぱり倒れたんだ。






「はあ・・・」






溜まっていたものを吐き出すかのようにため息をつくと、






「あら、起きた?」






保健室の先生がカーテンを開けて顔を出す。






「はい。なんか、すいません。私、倒れたみたいで・・・」

「ああ、眼鏡をかけた男の子が運んできてくれたのよ。誰かわかる?」






千翔くんだ・・・。

運んだ、って・・・。






「はい」

「じゃあ、後でお礼言っときなさいね。もう放課後だから、自分の好きな時に帰りなさい」






先生はそれだけ言い、保健室から出ていった。







情けない・・・。理人と愛衣が付き合ってるのを知っただけで倒れるなんて。

どんだけ心が弱かったんだ、私。






「八年も好きなんだけどなあ・・・」






しばらくそのまま放心していると、ドタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。

直後、バンっと勢いよく保健室のドアが開く。






「鈴音!」

「倒れたって本当!?」






やってきたのは理人と愛衣。

やっぱり、常に一緒にいるんだな。






二人は付き合っている。それを思い出して、少し厭わしい気持ちになる。

でも、顔に出さないように飲み込む。






「バタバタ慌てすぎでしょ・・・」

「だって!千翔くんが・・・」

「倒れたって言ってたから」






今日の朝初めて話したばかりなのに、心配しすぎだよ・・・。






「大丈夫だよ。今日朝ごはん食べてなかったから、貧血かな?」






もちろん嘘。家を出る一時間前には起きて、しっかり食べてきた。

でも、二人が付き合ってるのを知って倒れた、なんて、言えるわけがない。






「そっか、朝はちゃんと食べてよ?」

「めちゃくちゃ心配したぜ・・・」

「あはは・・・ごめんね」






私は笑顔を無理やり作る。ちゃんと笑えてるだろうか。






「よし。俺らは部活に行くけど、鈴音はどうする?」

「あー・・・今日は帰ろうかな。ちゃんと家で休むよ」

「そっか、お大事に。また明日ね!」






仲良さげに去っていく二人を見送って、私も帰ろうとベッドから出ようとすると、またガラッとドアが開いた。






「千翔くん・・・」






見ると、二つの鞄を持った千翔くんだった。

そのうちの一つは、見覚えのあるストラップが。私のだ。






「具合はどうですか?」

「あ・・・うん!もう大丈夫!それより、鞄ありがとね!教室に行く手間が省けたよー」






私は悟られないように明るく言葉をかける。

けど、






「強がってませんか?」






千翔くんの言葉に、身構える。






「いいや、どうして?」

「嘘つかないでください。全然笑えてませんよ」






私たちの間に、緊張感が漂う。

うわあ・・・普通にバレてるし。千翔くん、敏感だもんな。






「私、笑えてない?」

「はい」

「そっか。でも、全然大丈夫だから」

「大丈夫なら倒れたりしません」

「うっ・・・」






こいつ・・・しつこいな。

どうしよう。






「僕、藤宮さんには心から笑っててほしいんです。お節介かもしれませんけど・・・」






私は、驚きのあまり声が出てこなかった。

まさか、千翔くんがそんなこと言ってくれるなんて、思ってもみなかったから。






「・・・私、八年間好きな人がいるんだー」

「え・・・?」






千翔くんは目を見開いている。

そんな驚くことかな。






「それがさ、理人なんだよねー。でも、愛衣と付き合ってることを知った」

「すいません!僕が無神経に教えたりしなければ・・・」






自分が悪いと思ったのか、必死な顔で謝ってくる。






「どうしてあんたが謝んのよ。千翔くんが教えてくれてなくても、どうせいつかは知ることだったと思うし。だったら早い方がいいでしょ」

「・・・」






千翔くんを見ると、私以上に悲しい顔をしていた。






「もー・・・そんな顔しないでよ。倒れたのは千翔くんのせいじゃない。それに、諦めたわけじゃないから。二人が付き合ってるからって、理人を嫌いになれるわけないし。とりあえず、このまま好きでいようと思う。愛衣がいるけど、あわよくば振り向かせたいなあ・・・なんてね!さ、帰ろっか!」






千翔くんから鞄を受け取り、腕を引っ張って帰路につく。






私は、この時気づかなかった。

千翔くんが悲しい顔をしていたのは、別の意味だったということを。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る