~悲しい知らせ~
昼休み、クラスの中で唯一友達と言える千翔くんは、たぶん理人と愛衣と食べるだろうと思い、一人教室で外の景色を見ながら昼食をとっていると、
「あの、一緒に食べていいですか?」
「え」
口に入れようとしていた玉子焼きが、ぽろっと箸から落ちた。
嘘でしょ!?千翔くんが自分から誘ってくるなんて・・・。
「理人と愛衣と食べるんじゃないの?」
「いえ。二人きりにさせたいので」
二人きり・・・って、まさか・・・。
その次に言うであろう言葉は予想がつく。
「二人は恋人同士なんです。なので、二人が付き合い始めた時から、僕は一人で食べています」
・・・やっぱり。
できるだけ、聞きたくなかった。でも、遅かれ早かれいつかはわかることだし・・・。
「そ・・・っか」
平常心、平常心。千翔くんもいるんだから。
しっかりしろ、私。
そう思っても、心の中はざわついて、まるで津波が起こってるみたい。
「大丈夫ですか?藤宮さん」
「う・・・ん。だい・・・じょう・・・ぶ」
あれ、息ができない。
私、いつもどうやって呼吸してたっけ。
「藤宮さん___!」
最後に見たのは、千翔くんの驚いたような、焦ったような、心配しているような・・・複雑な顔だった。
ああ・・・千翔くん、そんな顔もできるんだ。
て、私、呑気なこと言ってる場合じゃないのかな。
私の意識は、奥深くに沈んでいった。
*
意識が浮上する。
目を覚ますと、強い光が飛び込んできた。
まぶし・・・。
体を起こし、今自分がどこにいるのか確認する。
・・・保健室か。
私、やっぱり倒れたんだ。
「はあ・・・」
溜まっていたものを吐き出すかのようにため息をつくと、
「あら、起きた?」
保健室の先生がカーテンを開けて顔を出す。
「はい。なんか、すいません。私、倒れたみたいで・・・」
「ああ、眼鏡をかけた男の子が運んできてくれたのよ。誰かわかる?」
千翔くんだ・・・。
運んだ、って・・・。
「はい」
「じゃあ、後でお礼言っときなさいね。もう放課後だから、自分の好きな時に帰りなさい」
先生はそれだけ言い、保健室から出ていった。
情けない・・・。理人と愛衣が付き合ってるのを知っただけで倒れるなんて。
どんだけ心が弱かったんだ、私。
「八年も好きなんだけどなあ・・・」
しばらくそのまま放心していると、ドタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。
直後、バンっと勢いよく保健室のドアが開く。
「鈴音!」
「倒れたって本当!?」
やってきたのは理人と愛衣。
やっぱり、常に一緒にいるんだな。
二人は付き合っている。それを思い出して、少し厭わしい気持ちになる。
でも、顔に出さないように飲み込む。
「バタバタ慌てすぎでしょ・・・」
「だって!千翔くんが・・・」
「倒れたって言ってたから」
今日の朝初めて話したばかりなのに、心配しすぎだよ・・・。
「大丈夫だよ。今日朝ごはん食べてなかったから、貧血かな?」
もちろん嘘。家を出る一時間前には起きて、しっかり食べてきた。
でも、二人が付き合ってるのを知って倒れた、なんて、言えるわけがない。
「そっか、朝はちゃんと食べてよ?」
「めちゃくちゃ心配したぜ・・・」
「あはは・・・ごめんね」
私は笑顔を無理やり作る。ちゃんと笑えてるだろうか。
「よし。俺らは部活に行くけど、鈴音はどうする?」
「あー・・・今日は帰ろうかな。ちゃんと家で休むよ」
「そっか、お大事に。また明日ね!」
仲良さげに去っていく二人を見送って、私も帰ろうとベッドから出ようとすると、またガラッとドアが開いた。
「千翔くん・・・」
見ると、二つの鞄を持った千翔くんだった。
そのうちの一つは、見覚えのあるストラップが。私のだ。
「具合はどうですか?」
「あ・・・うん!もう大丈夫!それより、鞄ありがとね!教室に行く手間が省けたよー」
私は悟られないように明るく言葉をかける。
けど、
「強がってませんか?」
千翔くんの言葉に、身構える。
「いいや、どうして?」
「嘘つかないでください。全然笑えてませんよ」
私たちの間に、緊張感が漂う。
うわあ・・・普通にバレてるし。千翔くん、敏感だもんな。
「私、笑えてない?」
「はい」
「そっか。でも、全然大丈夫だから」
「大丈夫なら倒れたりしません」
「うっ・・・」
こいつ・・・しつこいな。
どうしよう。
「僕、藤宮さんには心から笑っててほしいんです。お節介かもしれませんけど・・・」
私は、驚きのあまり声が出てこなかった。
まさか、千翔くんがそんなこと言ってくれるなんて、思ってもみなかったから。
「・・・私、八年間好きな人がいるんだー」
「え・・・?」
千翔くんは目を見開いている。
そんな驚くことかな。
「それがさ、理人なんだよねー。でも、愛衣と付き合ってることを知った」
「すいません!僕が無神経に教えたりしなければ・・・」
自分が悪いと思ったのか、必死な顔で謝ってくる。
「どうしてあんたが謝んのよ。千翔くんが教えてくれてなくても、どうせいつかは知ることだったと思うし。だったら早い方がいいでしょ」
「・・・」
千翔くんを見ると、私以上に悲しい顔をしていた。
「もー・・・そんな顔しないでよ。倒れたのは千翔くんのせいじゃない。それに、諦めたわけじゃないから。二人が付き合ってるからって、理人を嫌いになれるわけないし。とりあえず、このまま好きでいようと思う。愛衣がいるけど、あわよくば振り向かせたいなあ・・・なんてね!さ、帰ろっか!」
千翔くんから鞄を受け取り、腕を引っ張って帰路につく。
私は、この時気づかなかった。
千翔くんが悲しい顔をしていたのは、別の意味だったということを。
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