~巻き添えのクラス委員長 2~

パチン___パチン___。






ホッチキスの音だけが、教室内に響く。

き、気まずい・・・。何か話さないと。

口を開くが、話の内容が思いつかず口を閉じて。

それを繰り返していると、自分鯉みたいだなと思い始めてきて、一人笑いをこらえる。

先に沈黙を破ったのは千翔くんだった。






「なんで僕がこんなことを・・・」






あれ、怒ってる?そりゃそうか。千翔くんの気持ちを無視して、勝手にクラス委員長にさせたんだから。

音色が・・・怖い。






「ごめん。・・・でも、私が千翔くんとしたかったの」

「・・・僕と?」






千翔くんは眉を寄せる。






「うん。だって、私まだあんたとしか喋ってないし。知らない奴とやるなんて、無理」

「そう・・・ですか」






やっと千翔くんの顔が柔らかくなった。音色も、ふわりと優しくなる。






「ていうか、あんたが最初断ったのには驚いた。てっきり、そういうのには立候補するのかと・・・」

「人の役に立つのは好きです。でも、自分の勉強時間が削られるのは嫌いなので。今日だって、あのまま帰ってれば、今頃家で勉強してたんですよ」

「それは、悪かったね」






ほんと、勉強しかしてないんだな・・・。






「好きなの?勉強」






何気なく、聞いてみた。






「理人に勝てることと言ったら、それくらいですから」






あ・・・まただ。

昨日と同じ、何を考えてるかわからない、無表情な顔。

でも、少し悲しそう・・・?

私は、何も言えなかった。何か、心が軽くなるような言葉をかけてあげたいのに、呪いがかかったように口が動かない。






「・・・すいません。空気が重くなってしまいましたね」

「いや!そんなこと!全然!・・・」






どうしよう。無理やり中断したような、収まりの悪い空気が残る。

教室内が、鉛のように重苦しい。






「僕、藤宮さんが二位だなんて、びっくりしました」

「え・・・」






さっきまでとは全然違う話題。天と地の差だ。

千翔くんは、この陰湿な空気を元に戻そうとしてくれてるんだ。

やっぱり、優しい人だな。






「ああ・・・意外でしょ?よく馬鹿っぽいって言われるんだよね」

「はい。そう見えます」






おまっ!

あっさり肯定したことに腹が立つ。

まあ、落ち着け、私。彼は素直なだけなんだ。

ふうー・・・。






「で、私の話はいいんだよ。あのさ、聞いていい?」

「はい」






私は一呼吸おいて、その名を口にした。






「理人くん・・・ってさ、何部に入るのかな。やっぱり、バスケ部?あの時言ってたし」

「・・・」






あ、勘付かれたかな。急に名前出すのはまずかったかも。






「理人がどうかしたんですか?」






ギクッ






「いや?ただ、私、白崎双子とはあんたとしか喋ってないからさ。正反対って言うから少し気になって・・・。ていうか、どっちが兄でどっちが弟なの?」

「・・・」






うわあ。なんか、心を見透かされそうな目だ。じいっと見つめてくる。

心の内側に小さな波が立つ。

こわっ・・・。これ、いつか私が理人くんのこと好きってバレるんじゃない?






「理人は、たぶんバスケ部だと思います。中学でもそうでしたし。あと、兄が僕で、弟が理人です」






千翔くんは、心理戦をやめたのか、ふいっと視線を外して私が質問したことに答えてくれる。

ていうか、千翔くんが兄なんだ・・・。ちょっと意外。

そっかあ。バスケ部か・・・。せめて同じクラスとかだったら話せてたかもしれないのに。話してるのは兄の千翔くんばっか。

いや、千翔くんと話すのも楽しいよ?でも本命は理人くんなわけで・・・。

バスケ部に入れば少しは関われるかな?






「終わりました」

「え、ああ・・・って、ええ!?」






机の上を見ると、すでに全部綴じられていた。






「ごめん、ほんと・・・。私全然やってない・・・」

「良いですよ。勉強時間は削られましたけど、藤宮さんと喋りながらだったので、楽しかったです」

「あ、それはどうも・・・」






ほんと、優しいなあ。優しすぎるよ。

その後は、綴じたプリントを先生に渡して、今日も一緒に帰った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る