~あの音色の持ち主~
ただ長いだけの退屈な入学式は終わり、周りは帰宅する人と部活見学をする人で溢れかえっている。私も、前者の仲間になる予定だったが、一つすることができたんだ。
私は、まだ必要最低限の物しか入っていない、自分の鞄を持って、学校中を駆け回る。
いる・・・!いるんだ!この学校に!
入学式の時はっきり聴こえた。あの人の音色が・・・!
こんなに全速力で長い時間走ったのは初めてかもしれない。けど、一向に見つからない。
帰っちゃったのかな・・・。
私は膝に手をつく。無理もない。必ず部活見学しろとは言われてないし。
私も帰ろう。そう思った時、
_____っ!
聴こえる・・・。近くに、いる!
私は顔を上げ、また走り出す。進んでいくうちに、だんだん音が大きくなっていく。
そして、曲がり角を曲がろうとした時、人影が見えた。
案の定、少し経ってドンっと小さな衝撃があり、倒れる・・・!と思い、目を瞑ったが、一向に痛みはやってこない。
おそるおそる目を開けると、
「危ないですよ。廊下は走らないように」
あんたかよ・・・。
また、あの影の薄い美青年。ていうか、今時生徒で「廊下を走るな」なんて言う人いるんだ。
「ありがとうございました!」
私は、一応助けてくれた彼に一言だけ言い、まだ聴こえる音色の方へ走ろうとした。
が、
「待ってください!」
彼の声と同時にぐいんと戻る自分の体。
え・・・。
気づくと、私は彼の腕の中に。
「ちょっ・・・!なにやって___!」
いくら好きじゃない奴といっても相手は男。一気に顔が熱くなる。けど、肝心の彼はそんなの気にしないといった様子でぱっと私を離す。
こいつ・・・!ていうか、私この人の名前も知らない。
「すいません。けど、またあんなに走ったら今度こそ転びますよ」
んなっ!なんなの、ほんと。今日が初対面なのに!
でもまあ、この人なりに心配してくれたのかな。
「それはご指摘ありがとうございます!」
私が嫌味たっぷりに言うと、その後すぐに聞こえてきた声。
「理人は何部に入るの?」
「あ?あー・・・やっぱバスケかな」
「だよねー、じゃあわたしマネージャーとして一緒にいたいな!」
_____あ・・・。あの人の音色だ。間違えるはずがない。
私は、その音色の持ち主を見る。
とても、綺麗な顔立ちをしている。少し盛られた黒髪に、左目の下にあるほくろが印象的。笑顔が似合う、いかにもやんちゃ坊主って感じ。
でも、誰かにそっくりなような。誰だっけ・・・。
「あ、千翔!」
“ゆきと”・・・?
その人はこっちに近づいてくる。
え・・・ちょっと待って・・・。急にドキドキしてきた・・・。
と思ったら私を通り越して、あの影の薄い美青年の元に。
え、まさかの知り合い?全然タイプ違う感じなのに。
「あー!千翔君!全然会わなかったから心配してたんだよ?」
「すいません。理人たちは、部活見学して帰るんですか?」
「おう。てか、お前いい加減敬語やめろよ・・・」
「これは癖なんで仕方ありません」
私も近くにいるというのに進んでいく会話。
ここまで気づいてもらえないと、無視されてるって思っちゃうよね。
ただ、さっきから気になってるのは、理人くん?と千翔くん?って似てる・・・。瓜二つかってくらいに。
まさか・・・まさかね。
「癖っつってもよお、俺ら双子だぜ?」
私はその“双子”という言葉に驚愕した。
「うっそおおおおおおおお!!!!!」
・・・あ。やってしまった。
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