月の光に金の海。

日前みかん

月猫妖怪ルナシャの異空旅。〔1話完〕

にゃッ!?。

・・・・・。


にゃにゃにゃ。

にゃあああ~。


主が死んだにゃ。

ウチは犯人の顔に爪を立てたにゃ。

呪いを込めたにゃ。

この男は数年で死ぬにゃ。

・・・でも、でも優しい主は帰って来ないにゃ。


1ヶ月して犯人は捕まったにゃ。

ウチが付けた傷から落ちた血で犯人が特定されたにゃ。

ざまあみろにゃん。

奴は檻の中で死ぬ事に成るにゃ。


・・・虚しいにゃ。

それでも優しい主は帰って来ないのにゃ。



今宵の月は紺色に充ちてるにゃ。

遠回りして帰るにゃ。

・・・ああ、帰る所が無いにゃ。

忘れてたにゃ。

主はこの世にいないにゃ。


それならずっと、ずっと、遠回りして帰るにゃ。

ウチは異空間旅に出たにゃ~ん。



名猫ルナシャにゃん。

ウチは今異世界の街並みを歩いているのにゃん。

可愛い少女や、優しい大人に撫でられると嬉しいにゃ。

蹴ろうとする奴は嫌いにゃ。

あと男の子は少し乱暴に触ったり、抱えたりするので逃げるにゃ。

・・・何故に、こいつは包丁を持ってるにゃあ~?。


ハッハッ・・・猫を喰おうとするんじゃ無いにゃ。

自慢じゃ無いけど多分ウチは不味いにゃ。

前の世界では誰も猫なんか食おうとしなかったにゃん。

お隣の半島とか大陸はヤバいけどもにゃあぁ。

だから彼処には行かないにゃ。



この街は少し気を付けるにゃぅん。

ピクッ!!。

しまった、後ろから抱えられたみゃッ。

つっ捕まったにゃーん。


「ほら、沢山お食べ」

「可愛いねえ」

「うちで飼ってもいい」

「シロが死んじゃったからね、代わりに黒が来たのかもね」

「やったあー」


優しい家に暫く厄介に、かにゃ。

10歳ぐらいの少女と、3つぐらい上の男の子と二十歳前の男の子それに、両親がいるにゃ。

とても優しい一家にゃ~ん。



「はよ返せちゅーとんじゃ、われ」

「いや、まだ期月と違いますよ」

「なんじゃ、知るかいアホンダラ。うちはあそことちゃうちゅーねん」

「そんな無茶な、それに金額高過ぎ・・・」

男は主人の胸ぐらを掴み上げ、「あん、うちの金利じゃ文句有るんかいわれ」と恐喝している。

「明日また来るわ、金用意でけんかったらどうなるか・・・わかっとろうのう、なぁ可愛いお嬢ちゃん」

「くっ・・・」

男達は去って行った。



うぎゃあー!。

バキィー、ゴロン。

「わっわ、止めろ、なんだこの猫は、化け物か!?」

今度は死なせ無いにゃ。

何としてもウチが守るにゃ。

「ギャアアアー」

こんな力を持ちながら・・・何故あの時。

この金貸しの奴ら親玉もろとも、18人が死屍累々と成った。

ルナシャには妖術が有り、それは実は神獣に匹敵している。

それなのに優しい主を守れ無かった事に、ルナシャはやるせなかった。



猫は借用書を全て焼いた一つを除いて。

これで全ての借金はパアだ。

だけど彼女はミスをおかした。

返り血を拭うのを忘れてたのだ。


血まみれのこの家の借金の書類をくわえた黒猫は、一家に恐れられてしまったのだ。


黒猫は消えた。

少女は涙を流して探し回ったが、それはもうこの世界にはいない。

「ごめんね。クロちゃんごめんね。帰って来てクロちゃん」

それをルナシャは異空間から眺めていたが、体を反転させると異空間ヘ消えた。



ここは別の世界の村。

二十歳半ばの女性のスカートの上でルナシャは撫で撫でされていた。

川原の草地で日の光が心地好い季節だ。

ゴロゴロみゃあ~ぁん。

撫で撫で。

撫で撫で。

みゃあーん。

ゴロゴロ。

ウチは幸せだなにゃあぁ。

ウチはチミを離さないにゃ。

ルナシャは手で鼻を擦ってみた。

「クシュッ」

「あらあら、お家に帰りましょうね。ミャアちゃん風邪惹いたら大変だもんね~」

はあ~これだから野良は辞められないにゃあ。

追い立てたり蹴って来る人もいるけど、猫好きはとことん優しい。

あっ、弓を射った奴は攻撃したぎゃに。

死なない程度にゃ。


主が怯える顔は見たく無いにゃ。

あれは悲しいにゃ。

厄災はいちゃいけ無いにゃ。


この世界ではもう少しおとなしくするにゃ。

この人いいひとにゃ。


これがこの人の夫かにゃ!?。

「酒はどこだバカヤロー」

「無いわよ」

「だったら買ってこい!。」

男は女の人の髪を掴み投げ飛ばした。

酷いにゃ、髪が抜けてるにゃ。

猫は男に飛び掛かった。

引っ掻かれた男は慌てて、近くに有った鉈を振り回した。

ルナシャは完全に頭に血が昇ってしまったのが、大きな間違いだった。

ギャオオォー!。

氷の鋭い円柱が20本男に突き刺さった為に、男はその場で絶命した。

「あなたっ!!」

「あなたしっかりして、起きてあなた。あなたーああぁ!!」

「この化け猫!、よくもうちの人を。死ねぇー。」

「!!、何で?何でにゃ」

「にゃあにゃあうるさいわ!!。大事な大事なうちの人をよくもー」

猫はあまりの事に恐怖を感じ、つい土の槍を地面から出してしまった。

あんなに優しかったのににゃ。

何でかにゃ。

何でこんな男の為にかにゃ。

そこには土の槍で空中にぶら下がる女の姿が有った。

猫は泣いた。

涙を流して泣いた。

「殺しちゃった。殺しちゃったよおー。ヒック・・・うわわあーん」

あんなに優しく撫でてくれたのに何でかにゃああアァー。


ルナシャは違う世界の森を彷徨った。

人に会わぬ様。

人に撫でられぬ様。



広い草原に出た暫くガサガサと草原を行く。

そのガサガサが良く無かった。

ひょい!。

「みゃッ!?」

なんでうちは後ろからの攻撃に弱いかにゃ。

違うにゃ。

この子殺意も悪意も無い為だにゃ。

そういうのには気が付かない為だからにゃ。

愛情や優しさには妖気が反応しないんだにゃ。

「可愛いー」

15歳ぐらいの少女にうちはすりすりされてるにゃ。

ああ、やっぱり気持ちいいにゃ。

猫又でも元家猫にゃ。

もう諦めたにゃ。



僅かの隙だった。

少女はチンピラ達に拉致された。

ウチが駆け付けた時には、少女は服を剥ぎ取られ、顔は殴られアザが出来ていた。股間から出血していた。かなり多いので、膣内破裂の可能性がある。

なりふり構わぬ、もう遅い。

猫は妖怪へと変化した。

「許さないにゃ」

「お前ら死ねぇーぇ!!」

「猫が喋った」

「何だこのでかい猫は」

その二言だけでチンピラは口をきけなく成った。

3人のチンピラは頭を潰されたからだ。

猫は少女に治癒魔法をかけた。

そうしないと出血多量で死んでしまうから。

心に施す治癒は無いかにゃ。

そんな魔法が・・・。

─『そんな魔法が欲しいか?』─

・・・「にゃ!?」

『そんな魔法が欲しいか?』

「・・・欲しいにゃ」



にゃあぁ。

少女は猫を撫でている。

猫の名前はルナシャ。

猫が少女にそう言ったのだ。

この少女との別れは、きっと少女が天寿を全うする時になる。

猫は確信している。

何せ自分が身体も心も治癒したのだから。

この地の神である自分が治癒したのだから。

ウチらは、ヘルスオンと言う地で暮らしている。

ウチは上の神から、この地の神に任命された。

少女は遥か北の海辺の村で、この国の王様がやっている雑貨屋で買ったお菓子を、美味しそうに食べている。

「旨いかにゃ。」

「うん、凄く美味しい。ルナシャはそれ美味しい?」


「もちチュール最高にゃあーん」







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月の光に金の海。 日前みかん @hikumamikan

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