シティリアント

エリー.ファー

シティリアント

 統計の話をしよう。

 それが正解であるかということではない。

 まずは事実であること、そして哲学的であること。これを確認するべきだ。

 下がってはいけない。これもまた大切なことである。劣っている限りは、成長は約束されたも同然だ。気にしてはいけない。

 という言葉に騙されるな。

 君は間違いなく後方にいる。今から先頭に躍り出るには何か大きな賭けをしなければならない。しかし、決してリスクの大きい賭けをする必要は全くない。できる限り、君のその聡明な頭脳を使った、ある種ずる賢い方法を選んでくれて構わない。

 大丈夫だ。

 持ち込むことで、速度が落ちるのなら、どこかに落としてもいいし、誰かに擦り付けてもいい。それを速度に変えられる算段があるのならそのままでもいい。こだわりは持つべきだ。しかし、そのこだわりが君の中で完結しているのなら、持つべきではない。共有できるこだわりにするべきだ。それは誰かが食いつくための分かりやすい餌になる。

 余り、王道だと思わせるな。

 センスがないと思われる。

 僅かに外せ。

 そして。

 王道であることの大切さを理解しろ。理解した上で否定しろ。

 それが一番だ。




 聞いていたのか。

 あれを信じてはいけない。

 今の創作論だろう。

 あんなものは役に立たない。幻だよ。理想を詰め込んだ妄想の創作論。全くの中身がない、間の抜けた凡人のつぶやき。

 気が付いていただろう。

 言葉に覇気がない。

 努力だよ。大切なのは努力だ。積み重ねた時間だけが、人を前に前にと進ませる。

 書くしかないのだ。そうしていくうちに見えてくる景色がある。不思議なものだろう。それが今の私を作りだしたのだ。




 役に立つ言葉なんて、最初からなかっただろう。

 全く、ああいうヤツらはごまんといる。私だって、そういう者たちと会ってきたんだ。君の苦労はよく分かるよ。

 でも、ここから先が本当なんだ。

 よく聞いてくれ。

 私だけが知っているんだ。




「君さあ、そこで何をしてるの」

「いや、愚痴をこぼしてて」

「何の」

「いや、編集者と話した時に言われた言葉を」

「は。君に編集者がついた時なんか一度としてなかったじゃん。何を言ってるの」

「え」

「冷静になりなよ。君はそもそも小説なんて書いたこともないじゃないか。ずっと小説家志望者なんだと口から言葉を吐き出しながら、全く行動していないだろう」

「いや、頭の中には小説のアイディアがあって」

「で、書いたの」

「いや、それはまだで」

「ほら」

「で、でも」

「でももクソもないんだよ。なんだよこれ。編集者からこんなことを言われたって妄想を書いていたのか。バカじゃないのかお前」

「なんだよ、なんで見るんだよ」

「見るに決まってるだろ。こんなバカみたいなものを書いて、自分についたこともない架空の編集者を作って、それと話すのも大変なんだアピールをして。本当に気持ち悪い」

「うっ、うるさいっ」




 あぁ、二階の人ですか。

 小説家志望者みたいですけど。ねぇ、中々小説家になれなくて苛立っているみたいですよ。

 会話が聞こえてくる。あぁ、罵倒されて言い返してみたいなやつでしょう。ねぇ、ずっと聞こえてくるんです。朝も夜も、昼間だってそうですよ。

 前に覗いたことがあるんですけどね。えぇ、その小説家志望者の部屋をね、ちらっとですよ。本当にちょっとだけ。

 そうしたら一人で、二人分喋ってたんですよ。

 自分で自分を罵倒して、自分で言い返して。

 ねぇ、気持ち悪くって本当に。

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