第10話 EAST THUMB


『メイ=タウラス VS ゴーラ』


イチノクニ学院校舎「東の親」。

その屋上には、二人の漢の姿があった。


「俺は漢の中の漢、メイ=タウラス。お前は?」

「陸ノ国代表将、ゴーラだ」


漢たちは、互いに自分の名を名乗った。


ドゥオデキムの一人、メイ=タウラス。

彼は、ガラの悪い、ヤンキー風の見た目をしていた。


学ランに学生帽。ツバの付け根からは、ツノの様なモノが2本伸びている。

右手には金属バット。何に使用したのか、所々ボコボコにへこんでいる。


「俺はコイツを使わせて貰う。お前も武器があるなら好きに使え」


金属バットの先端をゴーラに向けて、タウラスが言う。


「いいや。クオンが来れないなら、俺は裸一貫でいく」


ゴーラは淡々と答えた。

彼の愛竜クオンは、この場に居合わせてはいなかった。


「気に入った」


タウラスはバットの先端を地につけ、無防備な構えをとった。


「一発受けてやる。遠慮せずにこい」

「いいねぇ、そういうの。嫌いじゃないぜ」


ゴーラは才を発動し、見た目を変化させた。

マウンテンゴリラを思わせる、巨大な図体だ。


太い腕をブンブンと回し、ゆっくりとタウラスに近づく。

タウラスは表情を変えず、堂々と仁王立ちしている。


「歯ぁ食いしばれよ。『ゴリラリアット』!!」


ゴーラのラリアットが炸裂。


「・・・良いパワーだ」


タウラスはその場に踏ん張り、『ゴリラリアット』を受けきった。

ぺっと口から血を吐き、ゴーラを睨む。


「いいねえ。俺も気に入ったぞ」


そんなタウラスの言動に、ゴーラは感銘を受けたように頷いた。


「次はお前の番だ。こい」


タウラスがそうしたように、ゴーラも無防備な構えをとる。


「後悔するんじゃねえぞ」


金属バットを手にし、タウラスが一歩ずつ近づく。

ゴーラの眼前まで来ると、金属バットを構えた。


「派手に吹っ飛べ!『満点肉肉(ジャストミート)』!!!」


フルスイングが、ゴーラの体にクリーンヒット。

ゴーラの巨大な図体は吹っ飛び、「サイゲン」に打ち付けられた。



『満点肉肉(ジャストミート)』。名前のセンスはさておき、その威力は抜群であった。


「これは想像以上だ・・」


起き上がったゴーラが、苦笑を漏らす。

彼の屈強な体は、至るところを負傷しているように見えた。


「さあ、次はお前だ。かかってこい」


金属バットを担ぎ、タウラスが煽る。


「いいだろう。とっておきを見せてやる」


ゴーラは答えると、体の力を一気に抜いた。

完全なる脱力。『ゴリラックス』だ。


「こいつはちとヤバいか・・」


ゼロからの急発進。

迫る爆発的なエネルギーに、タウラスは咄嗟に金属バットを両手で持ち、体の前に構えた。


「『ゴリラリアット』!!!」


先程よりも高威力なラリアットが、金属バットごとタウラスを吹き飛ばした。

ゴーラの時とは反対側の「サイゲン」に、タウラスの体が打ち付けられる。


「・・なっ!俺の『雑魚一掃(グランドスラム)』があぁ!!」


自分の事は他所に、タウラスが嘆く。

『雑魚一掃(グランドスラム)』なる名前らしい金属バットが、粉々に砕け散ったのだ。


「よくも『雑魚一掃』を・・」


タウラスはよろよろと立ち上がると、背負う刀を抜き取るような仕草をした。

そうして彼の手に握られたのは、今度は木製のバットであった。所々に釘が刺さっている。


「『雑魚一掃MAX』まで使うことになるとはな。もう加減はナシだ」


『雑魚一掃MAX』なる名前らしい木製バットを片手に、タウラスがゴーラに向かって走る。


「『満点肉肉(ジャストミート)』!!!」


これまたフルスイングを、ゴーラは両手を交差して受ける。

そのままの状態で数メートル後退するも、威力を殺すことに成功した。


「これでおあいこ。ここからが本当の勝負だ」


火傷したように焦げた両手を払い、ゴーラが口にする。


二発ずつの攻防を終え、二人の漢が向かい合う。

少しの沈黙の後。どちらからともなく走り、両者は距離を詰めた。



均衡した激しい攻防の中、先に有効打をかましたのはタウラスの方であった。


「こう見えて俺は器用でな──」


フルスイングでゴーラを右から打ち抜くと、タウラスは素早く先回りをした。

勢いを殺そうと踏ん張るゴーラが、遅れてタウラスのストライクゾーンにやってくる。


「スイッチヒッターなんだよ!」


タウラスは、先程とは逆の構えでゴーラを打ち返した。


逆方向からのエネルギー。ゴーラの位置は、最初の立ち位置へと戻る。


タウラスは続けて、ゴーラを下からアッパーするように木製バットを振った。

既にダメージを負っていたゴーラは、無抵抗に近い形で宙に浮いた。


「これで終わりだ!」


合わせてタウラスも跳ぶ。


「『全国統一(サイクルヒット)』!!!!」


振り上げられた木製バットが、ゴーラの頭部に直撃。

ゴーラの体は屋上に打ち付けられる結果となった。


その衝撃は凄まじく、一階分、校舎に穴が空いた。


「どうだ?くたばったか?」


ゴーラに続き、タウラスも校舎の最上階に当たる箇所に着地する。


「・・・今のは、効いたぞ」


砂埃が晴れる頃。瓦礫の山からゴーラが顔を見せた。体のあちこちに傷が目立つ。


「・・アレをやるしかないな。ここなら誰かしらに迷惑をかけることもないだろう」


辺りを見回し呟くと、ゴーラは大きく息を吸い込んだ。


「うほおおおおおお!!」


高らかな咆哮と共に、ゴーラは超高速のドラミングを始めた。


「なんだ!?」


ゴーラの奇行に、タウラスが耳を塞ぐ。

ドラミングによって、耳をつんざく爆音が発せられているのだ。


現実か、錯覚か。あまりに速い動きであるため、ゴーラの胸部では熱が発せられているように見えた。


そして、もう一つの変化。こちらは錯覚でもなんでもない。ゴーラの体は更に巨大化していた。

目は完全な黒目となり、開いた口から鋭い牙が覗く。その見た目は、ゴリラの王様。『キングコング』そのものであった。


「『キングゴング』。地獄の鐘が、いま鳴った」


ゴーラは、迫力満点の様子でタウラスに迫った。


「『満点肉肉』!!!!」


木製バットで迎え打つタウラス。


しかしゴーラは木製バットを片手で掴むと、


「うほおおおおおお!!」


握力だけで粉々にした。


「この化物が・・」


タウラスの声から覇気が消えていく。


「終いだ」


ドスの利いた声で短く放つと、ゴーラは大きな両手を体の前で握り合わせた。

そのまま振り上げ、タウラスに大きな影がかかる。


「『キングダンク』!!!!!!」


キングコングによるダンクシュートが、タウラスの脳天を撃ち抜いた。


「ぬおおおおぉぉぉ・・」


体の芯まで響くような鋭い衝撃。

学生帽のツバの付け根から伸びる2本のツノの内、片方が欠けた。


タウラス一人の体では抑えきれなかった衝撃が校舎に伝わり、倒壊していく。

タウラスとゴーラの二人も呑み込まれていった。



数刻後。

全壊したイチノクニ学院校舎「東の親」上空に、ゴーラの愛竜クオンがやってきた。


「クオン!」


瓦礫の山に主人の姿を見つけ、クオンが着陸する。


「・・おう、よく来たな」


ゴーラは元の姿に戻っていた。

『キングコング』の影響か、随分と弱っているように見える。


「・・とりあえず、無事でよかった」

「クオン!」


クオンは同意を示すように鳴くと、主人を慰るように傷痕を舐め始めた。

ゴーラは目を細め、誰よりも優しく笑った。



『ドゥオデキム』メイ=タウラス、攻略完了。

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