第4話 WEST MIDDLE


イチノクニ学院校舎「西の中」屋上。


みちるとジェミニが顔を合わした「西の人」の隣に当たるこの場所に、「ジショウマニアオタク」こと伊藤卓男の姿はあった。


しかし、この場所から「西の人」屋上の様子は見えない。

イチノクニ学院の校舎は非常に大きく、間隔も広い。校舎はどれも平屋建てで高低差もないため、すぐ隣の屋上とはいえ、視界に映すことは叶わないわけだ。


「何がどうなってるんでござる・・・」


卓男もまた、みちると同様に、気づくとこの場所に移動させられていた。

怒涛の展開に処理が全く追いついておらず、すっかり目を回している。


「・・・・はっ!」


何とか状況を整理しようと、こんがらがった頭を回す途中で、卓男は思い出した。

陸獣戦に向けて一緒に待機していた、愛竜のムルムルの姿がないことに。


「な、なんでござる!?」


と、同時に異変が起きた。

脳内の霧が晴れたかと思うと、屋上を「霧」が包んだのだ。


濃度はさして高くないが、うっすらと視界を覆うその霧は、何とも言えない不気味さを演出していた。


「おいおい。僕の相手は随分と貧弱そうだな」


霧の奥から、ゆっくりと人影が近づいてくる。


段々と鮮明になった人物は、白衣を纏っていた。

猫背気味の姿勢と相まって、如何にも科学者といった見た目の男である。


男を科学者と思わせる要素は他にもあった。

男の身体を囲むようにして、試験管らしきモノが浮いているのだ。


その数、およそ10本ほど。

試験管にはそれぞれ色の違う液体が入っており、ゆっくりとした動きで男の周りを回っている。


それともう一つ。

試験管と男の間。男の眼前に当たる場所には、一つのビーカーらしきモノが浮いていた。


「おっと。見た目で判断するのは良くないな。ひとつ実験をすることにしよう」


そう言うと、男は自身の周りに浮かぶ試験管の内、2本をそれぞれの手で掴んだ。

そのまま中に入った液体を、眼前のビーカーに注ぐ。


赤と青。二色の液体は、ビーカーの中で紫色に変化した。


「なんの真似で・・ござっ!」


紫の液体は、ビーカーを満たすように膨張したかと思うと、次の瞬間には「突風」へと変化して、一直線に卓男を襲った。


その風は卓男の身体を宙に浮かし、いとも簡単に後方へ運んだ。


「グハッ!」


そのまま屋上の枠を出て地上に落ちるのではないかと思われたが、見えざるナニカに打ち付けられるようにして、卓男の体は既のところで急停止した。


「おいおい。『突風線(スコールライン)』如きも躱せないのか?『サイゲン』が無かったら死んでたぞ」


科学者風の男。その正体を、弐ノ国『信の王』。ジュライ=キャンサーが、呆れたように溜息を溢す。

キャンサーが「サイゲン」と呼ぶ、見えざる壁に従い、卓男は不格好な形で着地。蹲るようにして咳き込んでいる。


「こんな雑魚を寄越しやがって。カプリコーンの奴。一体、何を考えているんだ」


キャンサーは冷たい目で卓男を睨み、文句を垂れた。




───その頃。「央」跡地付近には、「陸獣」攻略に携わった人物達の姿があった。


「山で蓋とは。恐れ入ったな」


セウズの『完全能』による『クニオトシ』。「フリダシ」を沈めたこの技により、央跡地には「死山」がそびえたっていた。

頂上が針のように尖った、標高の高い山を見上げ、六下がポツリと呟く。


彼の周りには、壱ノ国を代表して闘った者達の姿が多くあった。

サイストラグル部の部員に、三上や翼。七菜と美波の姿もある。


「むう!」


陸獣を完全攻略し、喧騒が止んだ地に、一匹の鳴き声が響く。

その主。卓男の愛竜ムルムルは、何かを察知したように喚いた。


「どうしたの──」

「むう!」


異変を察知した美波が声をかけるも、ムルムルは慌てたように飛び立った。

巻き起こる風に、周囲の人間が目を細める。


「あっちに何かあるのかな・・」


ムルムルが飛んでいった方角を眺め、美波は心配そうに呟いた。




『ジュライ=キャンサー VS 伊藤卓男』


イチノクニ学院校舎「西の中」屋上では、卓男が謎の「光線」から逃げ惑っている様があった。


「く、来るなでござるううう!!」


二色の光が螺旋状に絡むように伸びるその「光線」は、まるで意思が介在するように、卓男の背中を追い回している。

スピードはさほどなく、卓男を弄んでいるようにも感じられた。


「『巻巻光線(シーラスストリーク)』からいつまで逃げられるか。見ものだな」


対するキャンサーは、涼しい顔でその光景を眺めている。


さて、キャサー曰く「巻巻光線(シーラスストリーク)」なる名前らしいこの光線であるが、「突風線(スコールライン)」の時と同様、試験管の中身を混ぜた結果、出力されたモノであった。

黄と緑の二色が螺旋状に絡んだ形状は、DNAの二重らせんを連想させる。


「・・・ん?今、何か聞こえたような気が──」


全速力で逃げる卓男が、何かに気づいたように顔を上げる。

「突風線(スコールライン)」によって霧が晴れた方向。「サイゲン」なるモノに打ち付けられ、卓男が死を免れたその場所に、その者は姿を見せた。


「ムルムル!!」


感極まった卓男が、涙混じりに声を張り上げる。

その視線の先。屋上から一歩出た空中に、卓男の愛竜ムルムルが姿を見せたのだ。


「むう!!」


主人の存在を認識し、進行するムルムル。

が、そこには見えざる壁。「サイゲン」が。思い切り体をぶつけ、一体何が起きたのかと困惑の表情を浮かべる。


「ござっ!!」


と、ムルムルに気を取られた卓男が、「巻巻光線(シーラスストリーク)」の餌食に。電気が流れたような衝撃が、卓男の全身を駆け巡る。


「一瞬見えた可能性に希望でも抱いたか」


一部始終を観察していたキャンサーが、呆れたように溜息を溢す。


「可能性に夢を見るのは弱者の証拠だ。頭が弱い者ほど可能性に縋る」


背中越しに投げかけられたキャンサーの言葉は、果たして卓男の耳に届いたのか。

卓男は膝をつき、焦げたようになった全身からは煙が昇る。


「・・ムルムル。立派な翼が生えてるでござるな」


が、彼の目は死んではいなかった。

視線の先のムルムルが、主人を心配するように「むう!」と鳴く。


「・・きっと、誰かの才のおかげでござるな」


力を振り絞るように、ゆっくりとした動きで立ち上がる卓男。


「そうでござる。才とは本来、そういうモノでござる・・」


次いで卓男は服を脱いだ。勝負服として着てきた、卓男の推しキャラであるリムちゃんがプリントされたシャツだ。

そのまま脱いだシャツを空中に放った。


「才とは誰かを救い。大切な人や物を守る為のモノだ!!」


と、次の瞬間には、その場所には別の存在があった。


「むう!むう!」


「サイゲン」を超え、屋上の中に移動したムルムルは、主人の叫びを肯定するように鳴き声を上げた。



さて、屋上を囲むように存在する「サイゲン」であるが、これは『真』の制約であり、各屋上にも同じように発動されている。

その目的は、闘いの場である屋上と外の世界とを乖離する為。本来は、内側から逃げることも、外側から侵攻することも叶わない。


して、今回ムルムルが屋上に侵入できた理由だが、他の誰でもない卓男の才、『スイッチ』の効果によるものだ。

この才の能力は、対象を逆にすること。『TEENAGE STRUGGLE』の決勝で李空がセウズに勝利を収めた時にも活躍したこの才で、卓男は愛竜を呼び寄せたのだ。


その方法とは、ムルムルと卓男のシャツの位置を逆にするというもの。

これにより、ムルムルは「サイゲン」の内へ、シャツは「サイゲン」の外へ。それぞれ移動したというわけだ。


「これは一時の別れだ。必ず迎えにいくから、待っていてくれ」


ひらひらと落下していくシャツ。そこにプリントされたリムちゃんを目に焼き付け、卓男が振り返る。


「むう!」


それに合わせ、卓男の頭上を飛ぶムルムルが、二つの翼で風を起こした。

優しさを纏ったその風は、屋上を覆っていた薄い霧を、綺麗さっぱり取り除いた。


「お前は、僕を見て貧弱と。そして雑魚だと言ったな」


振り返った先。霧が晴れた屋上に佇むキャンサーに向け、卓男が言う。


「その印象。僕とムルムルの二人で、180度、真逆にしてやる!!」

「むう!むう!」


主人の意気込みに合わせ、ムルムルが高度を下げる。

そのまま卓男を背に乗せると、キャンサーに向かって飛行を開始した。


「あまり甘く見るなよ。竜如きが一匹増えたところで、お前が勝つ可能性はゼロのままだ」


迎え撃つキャンサーは、体を囲む試験管の内、両手に2本ずつ。計4本の試験管の中身をビーカーに注いだ。

と、そこから白銀の「風」が生まれ、とある形状を織り成した。


「『暴風大型車(ストームトラック)』」


それは、「車」であった。

「風」が型どる「車」は、卓男を乗せたムルムルを、真正面から受け止めた。


「むう!」


「竜」と「車」が正面衝突。


「後ろがガラ空きだぞ。『渦巻雨帯(スパイラルレインバンド)』」


その裏で、キャンサーはまたしても調合をしていた。


そこから生み出されるは、「竜巻」。

雨を含んだ巨大な渦巻が、弧を描くようにして、卓男とムルムルの後方に回る。そのまま「暴風大型車(ストームトラック)」と挟み込むようにして、卓男とムルムルに迫った。


「一旦、退くぞ」

「むう!」


後方に視線を送り、卓男は『スイッチ』を発動した。

卓男を乗せたムルムルと、「渦巻雨帯(スパイラルレインバンド)」の位置が逆に。「竜巻」と「車」が衝突し、相殺した。



「なるほどね」


クリアになった視界で、キャンサーは含みのある笑みを浮かべた。


「君の才は一見使い勝手が良さそうだが、発動には制約がある。大方、対象を視認する、といった具合かな」

「・・・・」


キャンサーの呟きに、卓男は何も答えない。


さて、調査班の初期メンバーでありながら、陸ノ国に残りムルムルと修行を行っていた卓男。その成果もあり、彼の才『スイッチ』は精度を増していた。

少し前までは、サイコロの向きを変えるくらいの効力しかなかったが、今ではある程度自在に扱える程に成長し、実践レベルに達していた。


が、キャンサーが言うように制約もある。

先ほどのケースで言えば、「渦巻雨帯(スパイラルレインバンド)」と自分達を入れ替えるよりも、自分達とキャンサーを入れ替えた方が効果的であった。そうすれば、キャンサーが「車」と「竜巻」に挟まれる形になるからだ。


しかし、それは制約により叶わなかった。

『スイッチ』の能力は強力であるが、その分制御は困難だ。比較的扱いが難しい才だといえるだろう。


それに加え、卓男は実戦経験が乏しい。

慣れない戦闘の中で、『スイッチ』の可能性をどれだけ引き出せるか。これが、この闘いの勝敗を分ける鍵だといえるだろう。


「それにしても、ちょこまかと飛び回られるのは、少々目障りだな」


ムルムルに視線を寄越して呟くと、キャンサーは両手に3本ずつ、計6本の試験管を手に取った。

6本の中には、これまでに使用したはずの色も混ざっていた。どうやら、使用する度に中身が補充される仕組みのようだ。


「『降下爆弾(ダウンバースト)』」


キャンサーの言葉と共に、もくもくとビーカーから湧き出るは、白い「雲」。

その雲は、卓男を乗せたムルムルの頭上を覆った。


「むう!?」


素早く身を翻し、ムルムルが鳴き声を上げる。

というのも、頭上の雲から「爆弾」が降ってきたのだ。


「助かったよ。ムルムル」


元居た場所に起こった爆発に目を細め、卓男が呟く。


「爆弾の雨は初めてか?」


ニヤリと口角を上げるキャンサー。


その視線の先で、ムルムルの頭上に浮かぶ雲は、次々と爆弾の雨を降らせた。



「むう!」


降り注ぐ爆弾の雨を、ムルムルは旋回して避け続ける。

なんとか雲の外側に移動しようとするも、爆弾はそれを阻止するように降ってくる。


「そうだ。アイツと位置を入れ替えて──」


ムルムルの背上で、雲の外側に居るキャンサーに『スイッチ』を発動しようと、卓男が試みる。

が、キャンサーが居るはずの場所には、その姿を隠すように「霞」がかかっていた。


「残念だったな。竜もろとも爆破するといい」


「霞」越しに、キャンサーが嘲笑うように言葉を吐く。


「くそっ」


正確に認識できないからか。卓男の『スイッチ』がキャンサーに働くことはなかった。


「ここまで、か・・・」


思わず弱音を吐く卓男。


キャンサーを視界に収めることは叶わず、爆弾の雨が降り止む気配は無い。

ムルムルは爆弾を避け続けているが、それもいつまでもつか分からない。


ムリ。卓男の脳裏に諦めの二文字が過ぎった。


「──リム、ちゃん──」


と同時に、記憶がフラッシュバックした。


その記憶は、幾度となくインプットしてきた映像。

卓男が愛してやまないアニメ。「2。振り出しに戻るスゴロク生活」の第13話の映像であった。


最終回に当たるこの回で、強敵を前に勝利を諦めかけた主人公に対して、ヒロインのリムはこんな台詞を口にしていた。


"ムリって言葉は口にしちゃダメだよ。可能性は否定した瞬間にゼロになるから。だから、逆。ムリだったかどうかを決める権利があるのは、挑戦した未来の自分だけだから"


「そう、だった・・」


ムルムルの背上で、上裸の卓男は口を結んだ。

頭上に浮かぶ、爆弾を降らせる雲を見上げる。それからゆっくりと口を開いた。


「ムルムル。僕を信じられるか?」


問いかける主人の言葉に、ムルムルは迷いを一切見せず、力強く頷き、「むう!」と鳴いた。


「よし!カラムフライングだ!」

「むう!」


卓男が言えば、ムルムルは垂直に、真上に向かって翔んだ。

段々と近づく雲。当然、卓男とムルムルにも爆弾の雨が降り注ぐ。


自ら爆弾を迎えにいく形となったムルムルの背上で、


「還ろ」


卓男は短く言い放った。


瞬間。目と鼻の先まで迫っていた爆弾は、恐れをなしたように、戻っていった。

すなわち、逆。他の爆弾も道連れに、雨は一斉に雲へと還っていった。


ボンッ。


次いで響くは、重たい破裂音。雲へと還った爆弾は一斉に爆発し、頭上を覆っていた雲を煙で上書きした。


卓男を乗せたムルムルは、爆弾が進行方向を上に変えると同時に、垂直に急降下。爆発の頃には、既に着地していた。

その格好は、二つの大翼で卓男を覆い隠す形。爆発の衝撃から主人を守るという、ムルムルの愛が伝わってくる。


二つの大翼が開き、視界が開けた卓男が、ニヤリと口角を上げた。


「さあ、反撃開始だ」


爆発による風により、キャンサーを隠すように存在していた「霞」は霧散。

露わとなった敵に向かって、卓男は形勢が逆転したことを宣言した。



「なんなんだ!突然、人が変わったみたいになりやがって!」


キャンサーは、取り乱したように喚いた。どこか怯えの色も含まれているように感じられる。

と、キャンサーは雑な動きで試験管を次々と手に取り、ビーカーに注ぎ始めた。やけくそ気味に注がれた異なる色の液体は、ビーカーの中で黒色に。


して、そのビーカーは、内側からのエネルギーに耐えきれなくなったように、破裂した。


全ての試験管の調合結果は、「暗雲」という形で屋上全体を覆い尽くした。

薄気味悪さを演出するその「暗雲」からは、雨や風といった悪天候を連想をさせるモノが次々と発生した。


「『テンコウ』の終末。『超・枡(スーパーセル)』だ。死に晒せ!!」


恐怖を具現化したような嵐は、キャンサーを含め、卓男やムルムルを容赦なく襲った。


「むう!」


が、ムルムルは嵐を物ともせず、一直線にキャンサーに迫る。


「うそ、だろ・・・」


嵐の恐怖を上書きする恐怖に、キャンサーが目を見開く。


「本当だ!」


と、キャンサーの目前で、ムルムルは卓男に変化した。

といっても化けたのではない。『スイッチ』で立ち位置を入れ替えたのだ。


「それと、お前の技名、いちいちダサいんだよ!!」

「っ!」


勢いそのまま、卓男はキャンサーに一撃を食らわした。

膝をつくキャンサー。卓男の拳には、果たしてそこまでの威力はないように思われたが、不意打ちの一発であったこともあり、キャンサーは相応のダメージを負ったようだ。


「ムルムル!」


悪天候の中。後方に居るであろう愛竜に向けて、卓男が叫ぶ。


「これからコイツとケジメをつける。そこで見守っていてくれ」

「むう!」


視界の悪い環境の中、遠くからムルムルの鳴き声が聞こえた。


「舐めやがって───」


ふらふらと立ち上がったキャンサーは、少し余裕を取り戻した表情で、卓男を見据えた。


「なっ・・」


しかし、その余裕はすぐに失われた。

キャンサーは、どうやら卓男に向かって一歩踏み出した気であったようだが、その足は全くの逆を向いていたのだ。


「『RIM』。世界を180度変える、新たな次元への招待券だ」


戸惑うキャスターに向け、卓男が告げる。


Reverse In Middle、『RIM』。

それは、卓男の才『スイッチ』の能力と、リムちゃんへの愛情が掛け合わさった技。


その効力は、発動対象の世界の全てを「逆」にする、というモノだ。

視覚、聴覚、嗅覚・・その他様々な全てが「逆」となった世界。突然そんな制約を押し付けられて、すぐに順応できる者など、限りなく少ないに違いないであろう。


して、今回の発動対象、ジュライ=キャンサーにしても、数少ない者の一人ではなかったようだ。


「食らえ!」

「っ!・・っ!・・」


続く卓男の拳に全く対応できておらず、不格好なパンチが連続でヒットする。


「いいか、よく聞け」


ふらふらとなったキャンサーに向け、卓男が改めて口を開く。


「可能性を嗤う者は、可能性に泣くんだよ!」


言葉と同時。卓男の渾身のアッパーが、キャンサーの顎に直撃した。


少し浮いたキャンサーの体は、そのまま「超・枡(スーパーセル)」の風に乗って、大きく上昇。

主の敗北を察してか。キャンサーの体が「暗雲」に到達するかと思われた頃、天候は一変。好転した。


「うっ!」


背中から打ち付けられるようにして、着地したキャスターが、呻き声を漏らす。

すっかり雲が晴れた頭上からは、太陽が覗いた。


「むう!」


主人の勝利を確信したムルムルが、卓男の側に寄る。


仰向けのキャンサーは、首だけを動かして卓男を睨んだ。


「・・まさか。この僕が、こんなオタクに負けるとは──」

「オタクじゃない!」


キャンサーの言葉を遮るようにして、卓男が声を張り上げる。


「僕たちは、鏡合わせのコンビ。マニアとアニマだ!!」

「むう!むう!」


まるで上手いことを言ってやったとばかりに、卓男は絵に描いたようなドヤ顔を浮かべた。



『ドゥオデキム』ジュライ=キャンサー、攻略完了。

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