第10話 精霊使い見習い

 ゾラはじっと私を見てる。

 

「それで何しに来たんだい。」

 

 おぉ、わかってくれたの?

 

 (お前、人なの? )

 

 さっきの精霊が話しかけてくる。私はスペンサーに気づかれないように首を少し傾げ、肩をすくめた。

 

 (自分の事わかんないの? )

 

 微かに頷くと、ゾラが私達のやり取りを見て

 

「とにかく、暫くここに居るなら水でも汲んで薪でも拾ってきな。ここには何にも無いよ。獲物も取ってきな。」

「相変わらず人使いが荒いな、わかってるよ。この子を頼む、エレノアここで待ってろよ。」

 

 スペンサーは荷物を置くと早速狩りに出かけた。

 後ろ姿を見送っていると

 

「とにかく中にはいりな。お前は何者だい? 人の様だし精霊にも見える。」

 

 ゾラがしかめっ面でコッチを見てる。

 

 (変な奴だよ、スペンサーといるなんて。アイツは戦士じゃないか。)

 

「シリウスは黙っといで。エレノアといったかい、なんの目的があってスペンサーといるんだい。」

 

 椅子を勧められそこに座る。

 

「私はワイアットに会いにお城に行きたいの。」

「ワイアットって…まさか勇者ワイアットかい? 知り合いなのかい?」

 

 ゾラは意外そうな顔をして言った。

 

「泉であったの。それで家族になるって決めたの。」

「家族? ワイアットは戦士だ、契約は出来ないだろう?」

「契約じゃなくて家族になるの。ワイアットは独りぼっちだし…私もそうみたいだし…」

 

 ワイアットと話した時には自分の家族が殺され、自分も死んでいた事なんて忘れていたが思い出した今でも彼と家族になるという思いは変わらない。

 

「だけどそのままじゃ都に辿り着く前にどっかに売られちまうか死ぬのがオチだね。」

「でも、お婆さんが親切だから助けて貰えってワイアットが。」

「チッ、アイツ面倒だからってコッチに押し付けたな。お前は騙されたんだよ。私は別に親切なんかしない。」

 

 ゾラは苛立たしそうにテーブルを指でトントンと叩いて、

 

「それで、スペンサーを連れているのは何故だい。アイツに頼まれたのかい?」

「頼まれた? 違うよ、私がこの村に行きたいって言ったら連れて行ってやるって言ってくれて。」

 

 私の話を聞いてゾラは「アイツは一体何考えてるんだか。」ボソッとそういった後、

 

「それでお前はどうするつもりなんだい。そんな中途半端などっちつかず、なにしよってんだい!」

 

 眉間にシワをよせ凄まれた。

 

 話が違うよ、優しいって言ってたのに。めちゃめちゃ怖い。

 

 私は顔を引きつらせてビビっていた。

 

 (ゾラは口が悪いんだよ。)

 

「五月蝿いよシリウス! お前も早くどっかに行きな!」

 

 (命令しても無駄だね、契約は切れてる。)

 

「契約が切れてるってどういう事?」

 

 シリウスと呼ばれている精霊はゾラと契約しているからここにいるんだと思っていたので驚いた。

 

「私は精霊使いは引退したんだよ。だから精霊達はみんな契約解除したんだ。」

「契約解除なんて出来るの?」

 

 (そりゃ出来るよ。一方が死ぬかお互いに納得して解除にするか、もしくは酷く脅して解除を迫るか。)

 

 シリウスが苦い顔をしてゾラを見た。

 

「酷く脅すってなに?」

 

 (オレがやられた手だ。オレは契約解除しないって言ったのにゾラの奴が無理やり、)

 

「お黙り! それ以上言ったらここに居られなくしてやるよ!」

 

 (へ〜い、とにかくオレはゾラが死ぬまで側にいるって決めて契約無しでここにいるんだ。自由意志ってやつだな。)

 

「ゾラが死ぬまでって?」

「私はもう長くないんだよ。精霊使いが死ぬって噂が広まったら他の精霊使い達が近寄ってくる。私が死んで契約が切れた精霊を取り込む為にね。だから死ぬ前に契約を解除して、四人いた精霊達のうち三人は他の精霊使いについていったのにコイツだけは無理に居着いてしまって。」

 

 ため息をついてゾラは少し疲れた様子だ。

 

「大丈夫? お水飲む?」

 

 黙って頷くゾラに、シリウスに教えてもらって水を用意するとそっと差し出した。

 

「病気なの?」

「まぁ、寿命だね。若い頃は無茶したからね。」

「家族は?」

「ずっと一人さ、生きるのもひとり、死ぬのもひとり。気楽なもんだ。」

 

 (ゾラの最期はオレが看取るって決めたから。)

 

「余計な事を…」

 

 シリウスの言葉にゾラがちょっと照れたように見えた。

 

「シリウスが家族なんだね。」

「馬鹿な事言ってんじゃないよ! 私の事はもういい、お前はどうすんだい。」

 

 照れ隠しのように怒鳴りつけるゾラは可愛く見えた。

 

「スペンサーには私が精霊使いだと思われて、それでゾラに教えてもらえって。」

「教えるねぇ。そうは言ってもお前、エレノアだったか。エレノア…」

 

 ゾラは急に私の顔をジッと見て、

 

「ワイアットが名付けたのかい?」

「そうだよ! よくわかったね。」

「そうかい…皮肉なもんだねぇ。」

 

 そのまま少し黙り込むと意を決したように、

 

「わかった、私が知ってる事は教えてやる。だが、私は精霊使いでお前はどちらかと言えば精霊だ。だから私の言うようにしても同じ結果が得られるとは限らない。それでもいいなら、」

「お願いします!」

 

 嬉しくて張り切って返事をした。

 精霊使いのように力が使えればまた誰かに喜んでもらえる。ついでにお金も稼げれば旅費になるだろう。この先スペンサーはもういない。私には狩りは無理だろうから食べ物は買わなくちゃいけないだろうし。

 特にお肉。お肉食べたいもんね。

 

「いい返事だ、まずここの掃除。終わったら食事の用意だ、私は少し休むよ。」

 

 ゾラは奥の部屋に消えて行った。

 

 ひとり取り残された私は困った。

 

「シリウス、掃除ってどうやるんだっけ?」

 

 (そっからかよ〜。)

 

 道具のありかを聞いて水を汲みに行き、掃き掃除、拭き掃除、そろそろスペンサーが帰ってくるだろうから食事の用意。

 

「お鍋は?」

 

 (あっちの戸棚。エレノアは食事つくれるの? )

 

「多分、ちょっとずつ思い出してきてるから。」

 

 (思い出すって? )

 

「私、前は人だったの。魔物に殺されたみたい。」

 

 シリウスは嫌な物でも見たような顔で、

 

 (うわぁ、前世の記憶持ちかよ。厄介な奴だな。)

 

「他にもいるの? 私みたいな人。」

 

 (かなりレアケースだけどな。でも大概は精霊だぜ。)

 

「私も最初はそうなる予定だったみたい。でも人として未練があるだろって。」

 

 (なるほど、どんな未練なんだ? )

 

「わかんない。」

 

 (わかんないじゃ解決しないだろ。)

 

 シリウスは呆れてるけどこればっかりは私のせいじゃない。多分あのオジイがまたミスったんだ。

 

「とにかくワイアットの所に行かなきゃ。」

 

 (戦士なんかのどこがいいんだか。)

 

 それだけ言ってシリウスはどこかに行った。多分、ゾラの様子を見に行ったんだろう。

 

 私は鍋にお湯をわかし、そこら辺に置いてあった野菜を刻んでスープを作った。調味料を思い出すのが大変だったけど何とか出来た。

 味見をしているとスペンサーが帰ってきた。

 

「おかえりなさい。」

「…ただいま…」

 

 変な顔で私を見てる。

 

「どうしたの? 何かあった?」

 

 スペンサーはハッとすると慌てて

 

「いや、何でもない。…エレノアは料理が出来るんだな。」

「なんか作ってるうちに思い出してきた。味見してくれる?」

「あぁ…美味いよ。」

「良かった。」

 

 私が安心して笑うとスペンサーは体をかえし、サッサと獲物をもって外へ出ると竈で焼き始めた。

 家の前にも竈が用意してありそこでお肉を焼くようだ。

 

「うふふ、お肉〜。」

 

 肉を焼くスペンサーの隣で嬉しくて笑ってると、

 

「お前は本当に肉が好きだな。」

 

 そう言って笑われた。

 

 だってお肉って美味しくない? 美味しいよね。

 

 お肉も焼き上がり食卓に並べるとゾラを呼びに行った。

 

「ゾラ、支度が出来たよ。」

 

 ドアをノックして暫くするとゾラが起きたての顔で出てきた。

 

「いい匂いじゃないか、久しぶりの肉だね。」

 

 ほら、ゾラだって肉が好きそうじゃない。

 

 3人で食卓を囲み食べ始めた。

 

「ゾラが精霊使いになる方法を教えてくれるって。」

「そうか。」

「しばらくかかるよ。簡単じゃないからね。」

 

 ゾラの話にスペンサーは、

 

「わかった。オレは少しの間他所に行くよ、稼いでくる。」

「え! スペンサーどっかに行っちゃうの?」

 

 私は慌ててスープを溢しそうになりながら聞いた。

 

「あぁ、ここにいるなら安心だし。都に行くなら金がいる。今のままじゃ少し心許ないからな。」

「都にって…一緒に行ってくれるの?」

 

 スペンサーが都に行くと聞いて私は驚いた。

 

「あぁ。」

 

 彼はそれだけ答えて後は黙ったまま食事を終え部屋から出た。

 

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