第9話 精霊使い見習い
食事も終え休む事になりスペンサーの隣で横になった。
何だか落ち着かない。昨日までくっついてたって平気だったのに緊張してしまう。
なんでだろう。
よく眠れないまま朝になって出発する事になった。
「ちょっと水が心許ないから村に行くには遠回りだけど川の方へ行くぞ。」
「う、うん。任せるよ。」
私の様子が何かおかしいのかスペンサーは変な顔して寄って来るとじっと見つめ、
「まだ調子が悪いのか?」
そう言って手を伸ばし頬に触れられそうになり慌てて払いのけてしまった。
払った私も払われたスペンサーも驚いて固まってしまう。
「あぁ、わぁ、あのごめんなさい、違うの、ビックリして、大丈夫だから。」
顔を熱くして動揺してしまうがそれがまた恥ずかしくてどうしようもなくなる。
「おかしな奴だな、大丈夫なら行くぞ。」
サッサと歩き出した彼の後をついて歩く。
何か調子が狂うな。
人だった時の記憶がちょっと戻って今までと色々な事が違う気がする。細かく思い出せる訳じゃないけど昨日までの自分とは何かが違うがとにかく行かなきゃ。
黙って後ろをついて歩く私を時々スペンサーが振り返る。
「今日は大人しいな。やっぱりまだ辛いか?」
「大丈夫だよ、体力温存してるだけ。」
少しずつ落ち着いてきて普通に話せるようになって来たけど、一人で後ろをついて歩く方が気が楽な感じがしていた。
「ねぇ、川はまだ先? お水飲んでもいい?」
「少しならいいぞ、もうすぐだ。」
手渡された水を飲んでいるとまた遠くから馬が駆けて来るのが見えた。スペンサーに手を引かれいつものように木陰に隠れる。
馬にはだいたい騎士が乗っていていつも急いで通り過ぎていく。
「騎士って忙しいの? いつも走ってる。」
私が疑問を口にすると
「一騎だけの時は伝令や偵察の場合が多いな、急いで情報を集めて本隊へ持ち帰るんだよ。」
「へぇ〜。」
「あんなに急いでる所をみると魔物でも出たんじゃないかな。」
魔物と聞いてゾッとした。
「また魔物にあう?」
「オレがいるから大丈夫だ。ゴブリンだってやっつけたろ?」
コックリ頷きながらゴブリンの死体を思い出し怖くなる。
「スペンサーは魔物に殺られたりしない?」
彼のマントをキツく掴み確かめる。スペンサーは私の髪を撫でながら、
「大丈夫だ。そう簡単に殺られたりしない。」
私にそう言った後、「今度こそ絶対に守るから。」誰に言うともなくそう呟いた。
騎士が乗った馬が去ったあとスペンサーはそのまま街道へは戻らず脇にそれ細い荒れた道を歩き出した。
「きっとこの後、軍の本隊が通る。今のうちにもう少し川の上流の方へ行く方が良いだろうこのままじゃ川でかち合う。」
「かち合っちゃいけないの?」
「アレコレ聞かれたくない。エレノアが精霊使いだとわかったら軍に連れて行かれるかもしれんし。」
え? 連れて行かれるって、
「どうして? 私、何も悪い事して無い。」
スペンサーはチョット笑うと
「捕まるわけじゃない、戦いの役に立つと思われたら助力要請という名の連行だ。生き残れば金はもらえるよ。」
お金か、必要だし欲しいけど私は精霊使いじゃないし。もし本物の精霊使いに会ったら多分、精霊っぽいものだとバレる。
「私は行きたくない。お金は違う方法でもらうよ。」
「そうだな、そうしろ。」
スペンサーはククっと笑って言った。
街道と違い脇道は細くデコボコとして歩きづらく時々転びそうになる。スペンサーが手を貸してくれるが握った手に汗をかくのが恥ずかしくて出来るだけ自力で歩いた。
夕方遅くに川についた。
「越えるのは明日にして今日はここで休もう。獲物を取ってくるからここにいろよ。」
「え? でも…」
私はまた魔物が出たらどうしようと思い怖くなった。顔に出ていたのか
「一緒に行くか?」
スペンサーについて行くことにした。
少し日が落ちかけ暗くなりつつあるので手早く捕まえ無ければならない。林の方へ行くと私と荷物を目の届く所に待機させ少し離れて獲物を探す。
彼が言うにはこの辺りは魔物が少なく狩りをするのは楽な方だそうだ。魔物が多くいる地域はやはり森が荒らされ狩りには適さない。魔物を狩って収入を得るには良いけど危険と隣り合わせだという。
そろそろと歩きながら獲物を探すスペンサーが何かを見つけたのか私にジッとするように合図すると姿が見えなくなった。
動いてはいけないと思うが静かな林の中で時折吹く風のざわめきが、何か近くにいるかもしれないという恐怖心をジワジワこみ上げさせる。
早く戻ってきて、スペンサー。
彼がいなくなった方向を見つめながら待っていると、何事も無かったかのように獲物を捕えたスペンサーが帰ってきた。荷物を掴み走って彼のもとへ行く。
「どうした…大丈夫か?」
涙目になっていた私にスペンサーは優しく気遣ってくれた。
私は黙ったまま頷き彼のマントを掴むと並んで歩き出した。一人がこんなに心細いと思わなかった。
川の側へ戻り火をおこすとスペンサーは獲物を捌きだした。
いつもは私のいない所で捌いているので見るのは初めてだ。
「怖くないのか?」
気持ち悪そうに捌く様子を見ている私に彼は尋ねた。
「ちょっと…でも大丈夫になりたい。狩りについていきたいから。」
ひとり取り残されるより捌くのを見る方が怖くない。スペンサーは肩をすくめると
「好きにしろ、どうせあと2日もすれば村につく。」
歩くのが遅い私がいるうえ、遠回りした為思ったより時間がかかったが何とか無事に村にたどり着いた。
村の入口でスペンサーは
「誰とも口を聞くなよ、話はオレがする。婆さんの所は村はずれにあるから。」
そう言われコックリ頷いた。村に入ってすぐ、畑の脇に腰掛け休憩してる数人の若者がいた。
「珍しいな、スペンサーじゃないか!」
その内の一人の男がこちらを見て声をかけてきた。スペンサーはチッと舌打ちして、
「あぁ、久しぶりだな。元気だったか?」
そう返事して私にその場にいるように言うと男の側へ寄って行った。挨拶を交わしあった後、
「誰だよあの子、お前の嫁か?」
男がそう言ってこちらをジロジロと見ている。
「そんなんじゃない、頼まれて連れているだけだ。」
スペンサーがムッとして男に言い返す。
「決まった相手がいないなら紹介しろよ。」
「駄目だ、ここに住むわけじゃない。行く所があるんだ。」
そう言って手を振りこちらに戻ると足を進めた。
「こうなると思ったよ。」
そう呟いて機嫌が悪い。
「怒ってるの?」
私が聞くと、
「怒ってる訳じゃないが君が目をつけられて、」
「目をつけられてって?」
スペンサーはチラッと私を見ると
「フード付きのマントがいるな。」
そう言って黙った。やっぱり機嫌が悪い。
精霊使いのお婆さんの家に行くまでに数人の人に声をかけられた。スペンサーの古い知り合いのようで、再会を喜んだり近況を尋ねたりしたあと必ず私の事を聞かれ増々機嫌が悪くなった。
黙り込んだまま村はずれまで来ると1軒だけポツンと立っている家があった。
他の人達の目には触れられない様に少し奥まっている所にあって本当に人が住んでいるのかという位古ぼけていた。
スペンサーは家の前まで来るとドンドンと戸を叩き、
「婆さん! 生きてるか!」
そう叫んだ。すると戸をすり抜け一人の精霊がスッと現れた。
(スペンサーだよ! ゾラ、精霊を連れてる。)
その声を聞いて焦った。
やばいよ、私が精霊だって事は内緒なのに! でも彼には聞こえていないはず。
私は前に立っているスペンサーには気づかれないように身振り手振りで内緒でお願いって頼んだ。
(何か言ってるよ、この精霊。変な奴。)
うわ〜ん、通じなかった、どうしよう。
「人の家の前でガタガタ五月蝿いよ! スペンサーならとっとと入っといで!」
大きな怒鳴り声を聞いて驚いた。
「ここの婆さんは口うるさいから気をつけろ。」
戸をガタガタ軋ませ開けるとひとりの老婆がコチラを睨んでいた。
うひぃ〜怖い、めっちゃ見てる。もう精霊ってバレてるよね。
「スペンサー、久しぶりじゃないか。で、何故お前が精霊なんか連れてるんだい?」
もう駄目だ、私どうなるんだろ。
「精霊? …あぁ、エレノアの精霊か、オレが連れてるんじゃなくてこの子が連れてるんだよ。婆さん
「あぁ? 何いってんだい! その後ろの子が…」
「そう! 私の精霊なんです! 私が
お願い! わかって!
私は必死にお婆さんを見つめ黙っていてくれるように願った。
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