第11話 精霊使い見習い

 その日のうちにゾラの家に私が暫く住む為に色々準備をする事になった。

 

「部屋は無いからね、外の納屋を好きに使いな。」

 

 家の直ぐ側に小さな納屋があり隣り合わせに厩がついている。馬はいなくて今は薪が置かれている。納屋の中は使わなくなった椅子やなんかが雑然と置いてあり片付けないと住めそうにない。

 

「簡単にベットを作ってやるからその間に片付けとけよ。」

 

 スペンサーが板を切ったり釘を打ったりしている間に納屋から要らない物を出し、椅子と衣装箱だけは置いて箱型に組み立てただけのベットを入れてもらった。藁を敷き詰めシーツを敷いて出来上がりだ。

 

「凄い、私のベットだ。スペンサーありがとう。」

 

 出来たてのベットが嬉しくてゴロンと寝転んだ。

 

「スペンサーはどこで眠るの? ここの下は板間だしもう一つベット作るの?」

 

 (お前ら一緒に寝るの? )

 

 いつの間にか様子を見に来ていたシリウスが聞いてきた。

 

「えぇ! い、一緒には寝ないよ!」

 

 私が慌てて言うと、

 

「何いってんだ、当たり前だろ。オレはこの外の厩で寝るよ、ここに来た時はいつもそうしてる、屋根があるから野宿よりマシだ。」

 

 スペンサーが変な物を見るような顔をして言ってきた。

 

「違うの、シリウスが変な事いうから。」

「あぁ、ゾラの精霊か。」

「そう。ねぇ、スペンサーはゾラが精霊使いを引退したって知ってたの?」

 

 彼はゾラの小屋の方を見ると、

 

「そうか、もう引退したか。前にそろそろ辞めるって言ってたから、じゃあ精霊はどうなった? シリウスはいるんだろ?」

「シリウスだけ残ったって。その…最期までいるって、ゾラの。」

「聞いたのか?」

「うん、スペンサーも知ってるの?」

「体の調子が悪いとは聞いていた。そうか…いよいよか。」

 

 そう言ったきり外へ出て荷物を片付けるとプイッと出ていった。

 

 夕方近くになってやっとスペンサーが帰ってきた。手には沢山の獲物と薪をひと抱え、それに私にポンと包をくれた。

 

「出掛ける時はそれを着ていけ。なるべく目立つなよ。」

 

 それはフード付きのマントだった。

 

「ありがとう。」

 

 そういえばいるって言ってたね。なんでか知らないけど、まぁ旅には必要か。

 

 

 

 

 夜もみんなで食卓を囲んだ。

 ゾラとスペンサーは結構長い付き合いらしい。

 

「最初にあった時は可愛い小僧だったのに。」

「うるさいな、大人になったんだよ。」

 

 ちょっと照れくさそうなスペンサーがカワイイ。

 

「兵士になるって言った時は驚いたよ。」

「余計な事をいうな、兵士になった事は後悔してない。お陰で少しは強くなった。」

 

 怖い顔をしてゾラを睨みつけ、席を立つと出ていった。

 

「スペンサーが兵士になるのが変なの?」

 

 私はゾラに尋ねた。

 

「あの子は辺鄙な村の普通の農家の息子さ。戦いとは縁が無かった。だけど魔王の出現で世が一変したからね。みんな戦士や兵士になって殺されたり殺したり。今でもそうだろ、まだまだ魔物はいるからね。」

「スペンサーの家族も魔物に殺されたの? 前に私が魔物に家族を殺されたって言ったら同じだって。」

 

 ゾラは短くため息をつくと、

 

「おまえ前世の記憶があるんだってね。魔物に家族を殺された人なんていくらでもいるさ。親がいなくなって孤児も増えた。」

「スペンサーが子供の頃に殺されたの?」

「魔王が出現して十数年、その前から魔物はいたさ。だが魔王によって魔物の力が増して人が沢山殺された。あいつも最初に父親が殺され、数年後に母親と妹が殺されたんだ。」

「妹がいたの…」

「魔王討伐に加わった平民の殆どが家族や大切な人を殺された者達だよ。中には褒賞目当ての奴もいたがな。」

 

 エルフのファロスやドワーフのアゥストリ達みたいな事かな。

 

「じゃあワイアットが魔王を倒したのはみんなにとって良い事だったんだよね。」

「勿論そうさ、大規模な戦闘が何度もあってみんな疲弊してたからね。」

「だったら何でスペンサーはワイアットが嫌いなの? ワイアットの話はするなって、」

「それは、」

「ゾラ、余計な事を言うなって言ったろ。」

 

 いつの間にかスペンサーが戻って来てゾラを遮った。

 

「エレノアも早く寝ろ。」

 

 怖い顔の彼が何だか少し悲しんでる様にも見えてそれ以上は何も言わず、自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日にはスペンサーはもう出発する準備をした。

 

「気をつけてね、怪我しないでね、早く帰ってきてね。」

 

 私は何だか心配になりソワソワした。スペンサーはそんな私を見て何を思ったか優しく髪を撫でると、

 

「大丈夫、心配するな。」

 

 そう言って笑った。その顔を見て少し安心するとスペンサーを見送った。

 

 (恋人みたいだな。)

 

「はぁ!? な、何いってんの! シリウスあっちいって!」

 

 顔が熱い。変なシリウスのせいだ。

 

 

 

 

 

 

 スペンサーがいなくなって、本格的に精霊使いになる為の話を聞く事になった。

 

「そもそもお前は人か精霊か、それが問題だよねぇ。」

 

 ゾラは見た目は人、気配は精霊の私をどう位置付けすればいいのか困ってるようだ。

 精霊なら誰か魔力がある人と契約すれば力が有効に使える。人なら精霊と契約して精霊使いになれるかも。

 

「でも、わたし他の精霊の力を借りてないのにスペンサーの残滓を払えたよ。これってどっちの力?」

 

 この前の事を思い出して聞いてみた。

 

「一人で残滓を? それは精霊の力だね。それで、何か変化は?」

「ちょっと、手が痛かった。」

 

 自分の手を見つめ感触を確かめる。

 

「痛かったか、って事は自分の生命力を利用してるって事だね。」

「ノアが残滓はいいけど魔傷は払うなって言ってた。」

 

 ゾラは眉間にシワをよせ、

 

「鼻たれノアか。一端の口を聞くじゃないか。そうだね、魔傷を払うのは止めたほうがいい。要するに相手の魔傷をお前が引き受ける事になる。それを浄化するまでお前自身が苦しむ事になるのさ。精霊と人が契約すれば相乗効果で直ぐ浄化できるが、どうもお前は精霊としての力も魔力も少ない気がするが何か感触が変だね。」

 

 えぇー! 私って魔力少ないのぉ。

 

「精霊使いにはなれないって事?!」

「そうじゃないが今の感じじゃ精々残滓を払う程度さね。それ以上は自身に負担が大きそうだ。だけど残滓を払えたんなら水の精霊としての加護はあるんだし、一度湖の精霊の祠に行ってみな。そこに昔から誰とも契約しない精霊がいる。精霊界でも変わり者みたいだがずいぶん古い精霊だから何か知ってるかもしれん。」

「湖の精霊の祠ってどこにあるの?」

 

 ゾラの家は村外れにあるがもっと奥地と言うか山の方へ行くと湖があるらしい。

 

「湖の中ほどに小さな島があって、そこに祠がある。行けばわかるさ。」

 

 そのあたりは滅多に魔物も出ないから一人で行って来いと言われかなりビビる。

 こんな事ならスペンサーがいる時に付いていって貰えばよかったよ。

 

「シリウス一緒に行ってよ、お願い。」

 

 (やだね、オレは祠の精霊が嫌いなんだ。偉そうなんだよ。)

 

 偉そうって怖いって事じゃない? そんな事聞いたら行きたくなくなるよ。だけど行かなきゃ何にも出来ない。

 

 私はスペンサーにもらったナイフを腰からぶら下げ、フード付きのマントを羽織ると湖目指して出発した。

 細い道をとにかく真っ直ぐ行けばいいと教えられ初めての独り歩きだ。

 

 泉を出る時はスペンサーがいてくれて本当に良かった。下手すれば怖くて泉を離れられなかったかも知れない。その時は人としての記憶が戻ってなかったから何もわからなかったし、何も知らなかった。泉から村へ来るのだって私が足を引っ張り2日と言われたところを結局4日かかったもんね。今は人としての記憶も多少はあるからある程度の知識があるがそれでも世間知らずだ。

 

 湖に向かい林の中を心細く歩いていると道が二手に別れていた。真っ直ぐって言ってたけどどっちが真っ直ぐなの? ちょうど左右に緩く別れていてどちらに行けばいいか分からない。

 いきなりのピンチ! どうしよう。どちらもしばらくは何も見えない普通の小道だ。あ、山の方へにあるって言ってたから山が見える方…どっちも見えるね。う〜ん、どっちにしようかなぁ。

 

「何やってんだ?」

「うわっ!」

 

 突然声をかけられ驚いた。振り返るとひとりの男の子が私を胡散臭そうに見ていた。

 

 

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