第3話 初恋

「だいたい実体があるのに精霊ってどういう存在?」

 

 ファロスはまたノアと話しだした。私は精霊のままなのか、よくわからないから聞いておいた方が良さそうだ。

 

「そうですね、リリアナに聞いてみますか。リリアナ、ちょっとお願いします。」

 

 ノアがそう言うと何処からともなくふわっと子供のような姿の、しかし手のひらサイズのプカプカ浮いた状態の精霊が来た。

 

 これが精霊か初めて見たよ。私もこんなだったって事?

 

 ふよふよと近づいて来る。

 

 (なにコレ? 精霊…人…う〜ん、精霊よりか? どうしたのこれ。)

 

 リリアナと呼ばれた精霊は私を見て不思議そうに言った。

 

「リリアナにもわからない? さっきまではちゃんと精霊だったんだけど、急に実体化しちゃって。しかもワイアットに懐いちゃって。」

 

 ファロスがため息混じりに説明する。

 

 (え? ワイアットは戦士だよ。やっぱり精霊じゃないのかな。普通は精霊は戦士を好まないよ、血なまぐさいもん。なんでワイアットなの? )

 

 不思議そうに私の周りをくるっと回って問いかけてくる。

 

「そう言われても、何が問題なの? ワイアットと一緒にいては駄目なの?」

 

 (そこからか。生まれたてだからってかなり酷いね。)

 

 リリアナと呼ばれた精霊が呆れつつも色々教えてくれた。

 

 本来、精霊は普通の人には見えない。

 見える人の中から精霊と契約出来る人がいて、その人達が精霊使いとなるのが通常らしい。精霊には数種類の自然界における力が備わっているが精霊使いと契約する事によってその力がこの世界に大きく作用することが出来るようになる。

 精霊使いとは魔力が多い人である事が通常で、その魔力と精霊の力が合わさって魔術として使用出来るようになるらしい。精霊単独でも多少の力は使えるがその力は限定的だそうだ。

 

 私が戦士についていってもほとんど何の役にも立たないし、実体がありしかも契約出来ないから下手すれば途中でどっかのおかしな野郎に攫われる可能性があるらしい。

 

 (ここを出ればきっと実体のある精霊なんて直ぐに悪い野郎の餌食になるよ。ノアと契約すれば勝手に攫っていけなくなるからそうすれば? 契約者以外の言う事は聞けないから連れて行っても意味がないからね。逆に言えば攫われれば脅して言う事を聞かせられる危険があるってことだしね。本来は精霊使いくらいにしか人には見えないものなのに見えて触れちゃ欲しがる人がいっぱいいるよ。精霊は貴重だし、力になるもの。ワイアットは戦士だから精霊には好かれないのに。あなた変わってるわね。)

 

 変わってると言われてもよくわからない。ただワイアットと一緒にいちゃイケナイと言われたようで悲しくなった。

 

「あわわわ、泣いちゃったじゃないか。皆がそんなに責めるから。」

 

 ワイアットは私が涙をこぼすと近寄って来てそっと頬を拭ってくれた。

 

「エヘヘへ。」

 

 途端に私は嬉しくなって微笑んだ。

 

「大丈夫だよ、何とかするよ、ノアが。」

 

 ワイアットは私の頭をなでなでしながら笑いかけてくれた。

 

「もう! 止めなさいって。ますます懐いちゃうでしょ。」

 

 ファロスが止めに入る。

 

 ブー、なんでワイアットが優しいのが駄目なのよ。

 

 私がブーたれているとさっきいたドワーフが薪を持ってこちらに不機嫌そうにやって来た。

 

「そんな訳のわからん精霊はどうでもいいだろ。早く飯にしてくれ、腹が減って仕方がない。」

 

 ドワーフの言葉に皆が我に返り

 

「そうだね、アゥストリの言う通りね。先に食べよう。」

 

 ファロスはサッサと食事の支度を始めた。

 

 

 

 皆が食事をするなか、私はワイアットの隣で座っていた。

 

「君は食べないのかい? 実体があるならお腹が減るだろう?」

 

 ワイアットが私に自分のスープを食べさせようとスプーンを口に運んでくれる。

 

「あ〜ん、…味がしない、美味しくない。」

 

 そう言うと、

 

「それなら食べなくても平気ね。まだ人に成り切っていないのね。よく見ると少し透けてるし。」

 

 ファロスがジッと見つめていうので私も自分の手をジックリと見ると確かに指の縁が少し透けてる。

 

「透けてるのが治ったらワイアットと居てもいいの?」

「駄目よ、だいたいその状態じゃここから離れられないわよ。私達は先を急いでるから待ってあげられないし。」

「置いていかれるの?!」

 

 せっかくワイアットと話が出来る状態になったのにここから離れられないってどういう事だ。

 

「あなたは精霊としてここに生まれたのに実体持ちゃったからそのうち人のように生きる事になる。そうなればお腹も減るし、寒かったり暑かったりするわよ。でも今はまだ人としては生きるには体が出来てないようだから泉から力をもらわなきゃ存在が消えるかも。」

「えぇ〜、どうやって生きていけばいいの…」

「自分の面倒は自分で何とかしろ。うるさい奴だ。」

 

 アゥストリと呼ばれてたドワーフがイライラしながら私に言ってきた。

 

「そんなにキツく言わなくっても良いじゃないか、子供なんだから。」

 

 ワイアットが優しい。

 

「ワイアットと一緒がいい。」

「ホラ、駄目だって言ってるでしょ。」

 

 何が駄目なんだ、腹がたつな。

 

「だいたい子供じゃないわよ、体だって結構…」

「わあぁぁぁ、いいいよ、そんな事を言わなくても。」

 

 ワイアットは慌ててファロスを止める。

 

 そう、私けっこう大っきい、さっき見たよね。

 

「顔はちょっと幼いから14、15才、ってとこね。」

 

 ファロスは私のマントをチラッと広げながらフンフン言ってる。

 

「ファロス、早く閉じて下さい。ここからは見えてしまう。」

 

 ノアがちょっと顔を赤くして視線をそらした。

 

 見たな。

 

「あぁ、ごめん。待ってね、服あげるから。」

 

 ファロスは荷物の中から下着と靴とワンピースを取り出し私に着せてくれた。

 

「はい、いいわよ。フワフワくるくるの金髪にパッチリな瞳、あなた可愛いわね、よく似合ってる。」

 

 シンプルなワンピースはとても着心地がよく嬉しくなってきた。

 

「ありがとう、どうしてファロスは私にそんなに優しいの?」

「私は誓いを立ててるのよ。」

「誓いって?」

「私達エルフは里を出る時により大きな力を得る為に誓いをたてて、それを全うする事によってこの世界で生きやすくなるのよ。エルフは精霊と契約は出来ないからね。」

「なんの誓いなの? 聞いていいの?」

 

 誓いとか言われると神聖な気がして聞きづらい。

 

「あなたは精霊だからいいわよ。私は精霊が困っていたら必ず助けるって誓ったの、そうすればこの世界で精霊の助けが得られるからよ。だから出来るだけ精霊を助けるのよ。」

 

 そんなに精霊の力って必要なんだ。

 

「それって何が出来るの?」

「え? わからないの?」

 

 皆が私を変な目で見てるよ。

 

 だって知らないんだもん。

 

 ノアが説明してくれた。

 

「この世界には四大精霊というのがいます。火、水、風、地、それぞれを司る精霊がいる。私は水、それに地の精霊と契約しています。リリアナは水の精霊でその性質上、洗い流す浄化、水そのものを操っての攻撃、地の精霊は地面を操作して地震のような攻撃、飛礫つぶてを飛ばすなどが出来ますね。君は泉にいるのだからやはり水の精霊でしょうね、残滓も払えたようだし。」

「私は実体があって精霊の力が使えるの?」

「使えそうですね。」

 

 自分ではよくわからない。さっき精霊だった時にワイアットの残滓を払ったのも何となくパッと出来てしまっただけで、意識してやったことじゃない。

 

「誰かと契約するまでは無闇に力を使ってはいけませんよ。無理すれば自分に降りかかりますからね。」

 

 ノアが心配そうにこちらを見ている。

 

「自分に降りかかるって?」

「ワイアットの残滓を払った時に何かしら感じませんでしたか?」

「そういえば、ピリッとした。」

 

 私の言葉にノアは頷くと、

 

「やはりそうですか、精霊なら残滓程度なら大した事は無いのでそれくらいで済むでしょうが、人に近づいた今は魔傷は払ってはいけませんよ。反動が大きいでしょうから。」

「反動?」

「そうです、魔の力ですからね。浄化系は苦しみますよ。時間がたてばいずれ回復しますが大きければ大きい程苦しむ時間が長くなります。精霊使いと契約していれば我々の魔力との相乗効果で一瞬で回復するのですが、あなたは契約していませんから力を使う時はよく考えて下さい。」

 

 考えろって言われても良くわからない。

 

 

 

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