第2話 初恋
私はウキウキした気持ちでワイアットの側をうろついていた。
誰かの役に立つのっていい気持ちだね。
ご機嫌でいるとさっきのエルフが他にも二人の男を連れてやって来た。
私を見るなり
「あぁ、知らないわよ。何したの?」
エルフが不機嫌にワイアットを睨みつけた。
後から来た二人の男も私達を見て、やらかしたなぁって顔で見てる。
何が駄目なの?
「どうした? 何が起きてるんだ。」
私とワイアットだけが置き去りで三人は苦い顔だ。三人とは言っているがその見た目は多彩だ。
一人はさっきの美しいエルフ、もう一人は人間で白っぽいローブを纏った落ち着いた感じの中年の男、最後はモジャ髭のドワーフだ。
「ワイアット、精霊に懐かれてるますよ。」
ローブをまとった男が困り顔で話す。
「あぁ、どうやら残滓を払ってくれたんだ。後でノアに頼むつもりだったやつ。」
「先に言ってくれてれば良かったのに。」
男はノアというらしく、私を見てため息をついた。
(あら? あなたは私が見えるのね、人なのに。)
「私は精霊使いですからね。君の事が見えますよ。どうしてワイアットの側にいるんですか? 彼は戦士ですよ。」
(戦士だから何? )
「戦士は君と契約出来ませんよ。…わからないのですか?」
ノアと呼ばれた男は困ったように私を見てる。そしてエルフの方を振り返り
「こんな事があるんですね、初めて見ました。ファロスは知ってましたか?」
ファロスと呼ばれたエルフは記憶を辿るように
「一度あったかな。でもすぐに違いに気づいて精霊使いに付いてったわよ。」
「そうですか…」
ノアは私をじっと見ている。
(何が言いたいの? )
「無理ですか? まぁ、時間はあります、取り敢えず食事にしましょう。」
ワイアットが食事と聞いて喜んだ。お腹が減っていたんだね。
皆がいそいそと準備をするなかワイアットは全く動かない。
(ワイアットは手伝わないの? )
私が尋ねたが彼には聞こえない。代わりにファロスが
「ワイアットは何にも出来ないよ、火をおこすくらいね。料理は食材を最悪な状態に持っていくのが天才的に凄いだけ。食べる専門ね。」
「酷いなぁ、狩りは出来るよ。」
ファロスに悲しそうな顔で言い返す。
(そうか料理は苦手か、仕方ないなぁ、よしよし。)
私がニコニコとしてワイアットの側をうろついていると、他の三人が苦虫を噛み潰したよう顔でこっちを見てる。
「なんだよ~。料理が出来ないのはわかってるだろ、今更責めるなよ。」
(すねた顔も可愛いねぇ。)
「違うわよ、精霊ちゃんがずっと側にいるのよ。」
(え? )
「え?」
(側にいちゃ駄目なの? )
「まだいるの!? なんで? オレ戦士だよ。」
ワイアットが見えない私を探すように辺りをぐるぐる見回した。
(ここだよ~。)
目の前でひらひら手を降るが全く気づかない。なんか悲しくなって来た。
「そのままでいいよ。きっと離れて行くから。」
私が悲しい思いをしているのに誰もワイアットと私の間を取り持ってくれない。
もう、酷いよ。
私はワイアットの側を離れ泉に戻るとザブンと飛び込んだ。
オイ! この前のオジイ! 出てこい! 私をどうしたいんだ、このままじゃワイアットに気づいてもらえないよ!
怒り満載で叫ぶと、意外とあっさりとオジイが出てきた。
「あぁ、そこにおったか。どこに行ったのかと思っておったが、さぁやり直すぞ。さっきは失敗したからの。」
失敗って?
「じゃから、人間にするつもりが中途半端な物になってしまい精霊とも人とも違う物になってしまっての。まぁ、誰にも見られて無いなら大丈夫じゃ。」
見られてるよ…エルフと人と多分ドワーフに。
「な! …なぜじゃ、すぐであったのに。」
オジイには直ぐでも結構漂っていたよ、私。
「存在を認められてしまったか。だがまだ望みはある、まさか話は…」
したよ、いっぱい。だからワイアットともっと話したいんだって。カッコイイの♪
「なんだと! もう妖精使いに目をつけられたのか。仕方ないのぉ。このままで行くかな。」
ワイアットは戦士だよ。
「は? 何をしておる。う〜ん、中途半端になってしまったゆえの弊害かのぉ。取り敢えずそのまま一定の期間過ごすがよい。…戻せんしな。」
戻せないってどういう事?
「誰かに見られたり、話をしたりしてお前と言う存在が認められてしまっては、ある一定の期間はその存在を全うせねば次へ生まれ変わることが出来ん。」
私は精霊なの? 人なの?
「ムムム、人よりかのぉ。」
でも実体が無いから人には私が見えないよ。
「あぁ、それは簡単じゃ。テイッとな。」
うわわわ〜、また急すぎる〜。
ゴボゴボゴボ…
わあ、ゲホッゲホッ。死ぬかと思ったわ。いきなり水中とか人は死ぬから。あのオジイめ!
私はどうやら泉にまたまた放りだされたらしい。
辺りを見回すと焚き火にあたっているワイアットがまたまたコックリ船をこいでる。
「ワイアット!」
私は水中を泳いで浅瀬からヨロヨロ地上へ上がっていった。
ワイアットは私が叫んだ声で気がついてこちらを見ると
「うわぁぁぁ! ファロス、早く来てくれ!」
そう言って座っていた石から転げ落ちた。
「もう! なんなの、あら…」
直ぐ側にいたのかファロスは私の側に来ると着ていたマントをサッと着せてくれた。
おっと、裸だったか。
「あなたさっきの精霊ちゃん? 実体化してる、なんで?」
「わかんない、けどオジイがテイッっていってここへ来たの。」
ファロスは私を焚き火の側に連れて行ってくれ座らせた。
「ワイアットだ!」
側に行こうとして止められた。
「駄目よ、ここにいて。いまノアを呼んでくるから。」
なんだか知らないが、とりあえず言うことを聞いておくか。
焚き火を挟んで向かいに座り直したワイアットは私を見て、
「さっきはありがとうな。こんなに可愛い精霊ちゃんだったのか。」
エヘヘ、可愛いだって。
「ワイアットは戦士なの?」
「そうだよ、精霊使いじゃないんだ。だから…」
「私、ワイアットと一緒に行きたい。」
「…いいいい、だだだだ駄目だよ。」
私は思いついたままを口にしたのだがワイアットはかなり驚いたようだ。
なんで?
「あぁ! もう〜遅かったか。油断もスキもない。」
ワイアットの慌てようと私が首を傾げている様子をみてファロスがガックリとした。
「あらら、やっぱりこうなりましたか。大丈夫…じゃないですよね。」
ファロスとノアがうんうん唸りながら話をしだした。
「戦士とかってそもそも魔力はそんなにないからね。」
「ワイアットはそこらの戦士にしては魔力が多いから間違いが起こったのでしょうか?」
「いや、それにしても色が違うはずよね。」
「そこは好みですから、一概には言えないのではないでしょうか。」
「ノアがもう一回試してみれば? 勘違いに気づくかも。」
「そうですね、やってみますか。」
そんなやり取りの後、ノアが私の方へ近づいてきた。
「改めて、こんにちは。私はノア、精霊使いです。」
「こんにちは、私は…誰だっけ?」
「私についてくれば名をあげますよ。一緒に来ますか?」
ノアはとっても優しい声で私の髪を撫でながら笑いかけてきた。
う〜ん、良い人だなぁ。
「ワイアットがいいの。」
あ、ガッカリした。
「そうですか、初恋は実らないと決まっているのですがね。」
なんだそれ。
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