嘘と真実

真実からの逃亡

僕たちは雑談をしながら花火を見終わった。僕はふと思い出した。時間という存在に。現在は21時30分完全にオーバーしていた。…いや朱芳理は真夏の夜の蒸し暑い空気を覆すような冷気を出していない。しかし…時間はしっかりと終わっている。

「どうしたの一希。なんか不思議そうにして。」

本来ならば絶対存在しない朱芳理がいた。…どういう事。いつもの朱芳理じゃない事を証明しよう。そのために僕はこんな事を聞いた。

「朱芳理は僕をどんな風に感じている。」

此処で僕が言ってほしい事を言えば証明完了である。朱芳理は顔を赤らめて口にした。

「好きだよ。大好き。」

…僕は一つ確信を持てた。僕がどうなってもこの先の朱芳理との縁が完全に切れても確認したかったから強く言った。

「なあ朱芳理。もう時効だぞ。…演じなくても大丈夫だ。今は21時30分を過ぎたぞ。」

一瞬朱芳理の顔が氷になった。そしてゆっくりと話した。

「…えっ。何のこと。」

明らかに動揺していた。

「薬くれたのは朱芳理だよな。」

「薬。何のこと。」

「じゃあ質問を変える。どっちが本当の朱芳理なんだ。」

「一希ちょっと意味が分からない。何で。昔のように振る舞っているんだけど。」

「それだったら表現が違くないか。朱芳理答えてくれよ。あんな薬に縋った僕を内心蔑ろにして笑っていたのかよ。それとも好きって言って喜ぶのをこいつ馬鹿だなって見下した。もう何でもいいから本当の事を言ってよ。」

朱芳理は下駄を脱いで裸足で逃げていった。

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