半色のソナタ

Manon

序奏「ようこそピンクハウスへ」


体育館の裏に残る雪山から、黒い土がぽろぽろと顔を出す。ハァ、と吐く息がまだほんのり白く染まる。


糊のきいた、紺色一色の制服に少し緊張しながら袖を通した私は、春らしいピンク色の建物の前に立っていた。


三角屋根がオシャレなその建物は、建物と呼ぶには少し小さくて、小屋と呼ぶのが相応しい...そんな見た目をしていた。まだ冬が似合う空気の中で、キラキラと色んな音を響かせている。




『初心者大歓迎』

可愛らしい音符の絵と共に書かれたその文字を私はもう何度もみていた。



手元のしわくちゃの紙と、扉に貼られたまっさらな紙を交互に見ていると、


ーーーガチャ。

「新入生?見学に来たの?」

大きなガラス張りの窓が開いて話しかけられた。


「あ...はい!入学前の見学会に来ました!」

緊張で声が上ずってしまう。



先輩はカチカチ鳴るメトロノームを止めながら、

「おおおお!背中に背負ってるのは〜...?ペット(※1:トランペットのこと)だねぇ!今、ペットの先輩を呼んでくるから、その扉から入っておいで!」

とにこやかに案内してくれた。


すると、先輩が言い終わると同時に勢いよく扉が開いた。



ガチャン!



「ピンクハウスへようこそ!って君かぁ!ついに来たね。」

「ついに来ました。空先輩。」


少し他人行儀な先輩に、私はニッと笑うのが精一杯だった。





「おーい!ペット経験者が来たぞ〜」

その言葉でピンクハウス内の視線がバッと集まる。


ピンクハウスの中は、六十人が入るには少し狭いながらも、ひな壇が組まれ、ちいさなホールの様になっていた。


(三角屋根には天窓あり...)

私は集まる視線に耐えきれず、辺りを見渡していた。




「あ!奈緒ちゃん!久しぶり〜!」

「あ...!明日香さん!お久しぶりです!またよろしくお願いします!」


顔馴染みの先輩達が、代わる代わる声をかけてくれる。そんな中私服の男の人がひとり、私の座る席の隣りに座っていた。


(なんで私服....?卒業生...?)

そう思いながらも、

「初めまして。新入生の奈緒です。先輩、よろしくお願いします。」


と、恐る恐る挨拶をした。




先輩は私をじっと見つめて、

「....知ってる。」

そう一言だけ呟いて、


「ねぇ〜明日香ちゃ〜ん」

...と去ってしまった。


「知ってる...?」

意味の分からない返答に私は頭を傾げた。




ほんの少しだけ大人に見えた先輩は新学期の1限目、不機嫌そうな顔で教壇に立っていた。


「佐矢野 康明です。よろしく。」


驚いた私に気付いて、「先生」はフッと笑った。

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半色のソナタ Manon @manon_roman

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