―106― 隠しボス

 開かずの扉の先は奥へと続く通路になっていた。

 魔物がいつ現れてもいいように、警戒しながら名称未定と共に進む。

 だか、一向に魔物が現れる気配はなかった。

 そして——


「扉だ」


 そう、目の前には扉があった。

 こういった扉はダンジョンで数多く見てきた。そう、ダンジョンなら、必ずあるボスエリアへと続く扉だ。


「隠しボスか」


 恐らく、この先に隠しボスがいるんだろう。

 もちろん、隠しダンジョンを潜れば、隠しボスがいる可能性は考慮していた。

 だが、いざに目の前に現れると入るのに躊躇してしまう。

 それに今は名称未定もいることだし。


「それじぁ、入りましょうか」

「おい!」


 名称未定が勝手に扉を開けてしまった。

 こうなってしまったら、今更なにを言ってももう遅い。

 覚悟を決めて、中に入るしかない。


「グゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 入った瞬間、魔物の慟哭が鳴り響いた。

 思わず、耳を塞いでしまうほど、それは大きかった。


 ◇◇◇◇◇◇


黒龍ネグロ・ドラゴン

 討伐推奨レベル:210

 黒い鱗に包まれたドラゴン。口から黒い炎のブレスを吐く。


 ◇◇◇◇◇◇


 討伐推奨レベルが210!!

 今まで、見たこともないレベルだ。


「きひひっ、大きすぎて捕食するのは難しそうですね」


 そんな呑気なことを言っている場合じゃないだろ!

 すかさず、俺は短剣を手に、突撃をする。


「〈必絶ひつぜつつるぎ〉」


 そして、スキルを使用しながら、短剣を突き刺す。

 ガキンッ! と弾かれる音がする。

必絶ひつぜつつるぎ〉は対象の耐久力の5%をMPとして消費することで、耐久力を無視して攻撃ができるスキル。

 ゆえに、高すぎる耐久力が相手だと、MPが足りず発動しないことがある。

 例えば、水晶亀クリスタルタートルなんかも耐久力が高すぎて倒すことができなかった。


 このモンスターは僕の手に負えない。

 そのことを寸時に判断した僕はもう1つのプランへと切り替える。

 それは壁抜けを使って、報酬エリアへと行くことだ。

 壁抜けを使えば、ボスを倒さずとも報酬エリアに行くことができる。


「なにをしているんですか? 人間」


 名称未定と共に壁抜けをするために彼女を抱えると、文句を言われる。


「あのモンスターを倒すことは諦める。壁抜けを使って、報酬エリアへと行く」

「ふざけないでください! 名称未定ちゃんなら、あの程度のモンスター余裕です」

「一撃で倒せるのか?」

「……それは流石に無理ですが」

「だったら、ダメだ」

「ですが、名称未定ちゃんなら、あの程度のモンスター頑張れば倒せます」

「僕は……っ、お前が傷つく可能性があるってだけで耐えられない。だから、言うことを聞いてくれ」


 懇願するように僕はそう口にした。

 すると、名称未定は諦めた表情をして、ボソッと、


「ホント過保護なんですから」


 と、口にした。

 これで、名称未定を説得することはできた。

 だが、まだ終わりではない。

 うまくあのモンスターを誘導して、報酬エリアへと続く壁に吹き飛ばされたないと。

 それに、名称未定を守りながら、という条件も加わる。


 それから僕はうまいこと立ち回り、〈黒龍ネグロ・ドラゴン〉のしっぽをなぎ払う攻撃を誘導させた。

 それを小盾で受け止める。

 バリッ、と小盾が砕け散る音が聞こえた。

 まずいっ、このままだと名称未定に攻撃が当たる……!

 だから、攻撃を僕の体で受け止めるように体を反転させる。


「ぐはッ!」


 攻撃があたった瞬間、痛みで全身が震え上がるが、それでもなんとか意識を保ち、最後の仕上げを行う。


「〈回避〉!!」


 報酬エリアへと続く壁に体当たりする瞬間、そう口にする。

 その瞬間、体は壁をすり抜けていった。


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