―78― 魔法の習得
「ダンジョンに入る前に、あなたの〈魔導書〉を見せなさい」
と、オーロイアさんが手を伸ばしてくる。
「あっ」
と、僕が口する。〈魔導書〉なら〈アイテムボックス〉の中に入っている。取り出すには一度、〈アイテムボックス〉を開かないといけない。
「もしかして、家に置いていったの? なら、そう言いなさいよ。まぁ、確認しなかった私も悪いけど。仕方ないけど、一度、あなたのお家に戻るしかないわね」
「いやっ、〈魔導書〉ならちゃんと持ってきている」
慌てて僕はそう言った。
一度、僕に家に戻れば〈アイテムボックス〉を見られずに、〈魔導書〉を見せることは可能なんだろうけど、そんなことのために、家まで歩くなんて労力をかけさせるのは、流石に悪い。
今まで、〈アイテムボックス〉は他人に見せないようにしていた。珍しいスキルを『永遠のレベル1』と呼ばれていた僕なんかが持っていたら、流石におかしいだろう、と突っ込まれそうな気がして。
だが、オーロイアさん相手ならそういう心配もないだろうし、僕は〈アイテムボックス〉を展開することにする。
そして、魔導書を中から取り出した。
「……あなた、そんなスキルまで持っていたわけ?」
「えっと、そうなんだよね」
そう言いながら、笑ってごまかそうとする。そのかいあって、というわけでもないんだろうけど、オーロイアさんは「あなたには驚かされてばっかりね」と言うだけで、それ以上、詮索してくることはなかった。
「それじゃあ、魔法について教えようと思うけど、魔力を感知することはできるの?」
「えっと、できないと思う」
「そう、ならまずそこから。魔法を扱うには、いくつかの工程があって、まずMPを消費して、魔力を生成する」
そう言いながら、オーロイアさんは右手を開いた状態で伸ばす。恐らく、魔力を生成しているんだろうけど、傍から見ている僕からは、なにも起こっていないように見える。
「魔法は基本的に4つの種類に分けることができる。火、風、水、土の4種類に。これら4つは四大元素と呼ばれていて、あらゆる物質は四大元素の組み合わせ方や状態などで決まっているの。だから、4つの元素、全てを生成できれば理論上はこの世の全ての物を作り出すことができるの。と、わからないことがあったら、気兼ねなく質問してもいいわよ」
「いえ、大丈夫です」
と、言いながら、首を振る。
「そう、なら続けるわ。つまり魔法っていうのは、簡単に言えば、魔力で物質を生成することを言うわ。こんな風にね」
というとオーロイアさんの右手から火の塊が出現した。
「これは火の元素を生成したのよ」
そう言って、彼女は力を抜くと火の塊は消えてなくなる。
「他には、風、水、土の元素なら、簡単に作れるわ」
と言って、オーロイアさんは風、水、土の順に次々と生成していく。
「ただ、これでは魔法を戦闘に活かせない。例えば、火をモンスターに飛ばす必要があるでしょ。それには生成した物体と自身、どちらにも反発という属性を与えることで物体は勢いよく飛んでいくわけ」
と説明をしながら、彼女は生成した火の塊を前に飛ばす。
「すごい」と僕は思わず感心の声をあげていた。
「あとは詠唱をしたり、魔法陣を展開したほうが威力があがったりするけど、そんなことよりもまずは、魔力を操作することを覚えないとね」
そう言うと、オーロイアさんは僕のところまで寄ってきて両手をそれぞれ握る。
「えっと……」
唐突に手を握られたので、緊張してしまう。指先から伝わる体温がなんだかこそばゆい。
「手を繋ぐぐらいで恥ずかしがらないでよ。こっちまで恥ずかしくなってくるじゃない」
どうやら僕が照れくさく思っていることが伝わってしまったようで、彼女は頬をかすかに赤くしていた。
「ご、ごめん……」
「別に謝らなくてもいいわよ」
オーロイアさん口を尖らせながらそう言うと、「ふぅ」と気持ちを切り替えるように息を吐く。
「今から両手に魔力を集めるから、それを感じる努力をして」
どうやらそのために手を握ったらしい。
それから目を閉じて、魔力を感じる努力を始めた。最初はピンとこなかったが、集中していくうちに魔力の存在を微かに感じ取れるようになってくる。
「できた!」
両手の指先に集まっている魔力を感じながら、僕はそう口にする。
「中々習得するのが早いじゃない」
と、彼女が僕のことを褒めてくれる。
「次は火を作る練習をすればいいの?」
「そんな必要ないわよ?」
「えっ?」
「なんのために〈魔導書〉があると思っているのよ」
そういえば、まだ〈魔導書〉を活用していなかった。
「〈魔導書〉に魔力を流してみなさい」
「は、はい」
そんなことをする理由がわからないけど、ひとまず返事をして言われた通りにしてみる。
〈魔導書〉を両手で持ち、魔力を流すことを意識する。
「あっ」
と、声を出したのにはわけがあった。
魔力を流した途端、〈魔導書〉が光を放ち始めた。瞬間、膨大な情報が頭の中に流れる。
「〈魔導書〉は本来なら何年もかけて覚えなくてはいけない魔法を一瞬で覚えさせる最高峰の魔道具よ」
言葉通り魔法に関する知識が頭に流れていく。
そして、気がついたときには〈魔導書〉は消え失せていた。
「どう? 魔法を使えるようになった?」
「多分だけど」
そう言って、僕は右手の平を前に伸ばす。
瞬間、水の塊が発生する。
「おめでとう。水魔法を取得できたみたいね」
「ありがとう、色々と教えてくれて」
と、お礼を言いつつ気がつく。
「あっ、でも、火とか風の魔法を覚えることはできなかったみたいなんだけど」
それと、土魔法も覚えることができなかった。そう、僕は水の魔法しか習得できなかったのだ。
「〈魔導書〉で覚えることができる魔法は一種類のみよ。4つ全ての魔法を覚えられるほど、都合よくできていないわ。あとの魔法は努力して自分で覚えることね」
「そうなんだ……」
てっきり〈魔導書〉を使えば、4種類全ての魔法を覚えることができると思っていたが、世の中そう都合よくないようだ。
「しかし、水魔法ね。正直、戦闘じゃあまり使い物にならないわね」
「そうなの?」
「実際、水をかけられても平気でしょ。まぁ、魔法の威力に関係する知性の数値が高いなら、それでもダメージを与えられるんだけどね」
確かに、火だったら、どんな小さな火でも火傷をするけど、水は当たっても濡れるだけで、大した影響はない。
ちなみに、僕の知性の数値は115と決して高いわけではない。
◆
それからオーロイアさんと一緒にファッシルダンジョンに入っては
「〈
と口にすると、右手から水の塊が勢いよく
けれど、それでダメージを与えられるかというそういうわけでないようで、
しかし、せっかく水魔法を覚えたのに、これでは現状目くらましにしか使えない。
「あと、他に聞きたいことある?」
一通り、魔法を扱えるようになった僕を見て、オーロイアさんがそう口にした。
「いや、もうないよ。今日は色々と教えてくれてありがとう」
「別に、このぐらい大したことないわよ。それじゃあ、私はこの後、約束があるからこのへんで」
オーロイアさんがいなくなった後も、僕はダンジョンで水魔法の練習をした。そして、満足すると家に帰ることにした。
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