―79― 三大巨頭会議
三大巨頭会議。
このガラボゾの町において、月一度の頻度で行われる3つのクランが集まって会議する場だ。
この町において、三大巨頭が実質的な町の支配者なため、三人が一堂に会するこの場は非常に重要といえた。
「遅いな」
三大巨頭の一人、〈緋色の旅団〉のボス、ゲオルグがそう口にした。
他の2つの席は未だ空白。1つは最近リーダーが失踪したため仕方がないんだろうけど。
「すみません、準備に少々手間取っていまして」
と、この町のもう一つのクラン〈ディネロ組合〉に所属する冒険者が頭を下げる。
「いや、別に気にしていないからいいんだけどね」
ゲオルグは大声でそう言いながら考える。〈ディネロ組合〉のリーダーがこうして遅れるのは珍しいな、と。もしかすると、なにかしら意図してのことだろうか。例えば、遅れることで会話の主導権を握ろうといった作戦であるとか。
そんなことを考えていると、後ろから足音が聞こえる。
「いやー、ゲオルグ、遅れてすまない。お客様のお相手をしていてね、それで遅れてしまったのだよ」
見ると、そこには一人の男が立っていた。
痩せ型で背が高く、冒険者であるはずなのに、スーツなんかに身を包んでいる。顔は悪くないんだろうけど、どこか胡散臭い雰囲気を漂わせている。
「別にこのぐらいの遅れ、構わないよ、エックハルト君」
エックハルト。これが〈ディネロ組合〉のリーダーをやっている男だ。
エックハルトはこの場に現れたのはいいが、奇妙なことに席に座ろうとしなかった。
そのことを不思議に思っていると、
「あぁ、今日は、この席に座るのは僕じゃないんだよ」
どういうことだ? と、ゲオルグが眉をひそめていると、少女が現れた。
「ゲオルグさんでしたっけ。遅れたのは私のせいなんです。大変、申し訳ございません」
そう言って少女が本来なら三大巨頭が座るはずの席に腰掛けた。
「オーロイア・シュミケットと申します。シュミケット家の長女をやっているわ」
シュミケット家と言われたら、流石に目の前の少女が何者かピンとくる。
シュミケット家はこのガラボゾの町を名目上支配している貴族だ。名目上とつくのは、実質的にはこの町を支配している冒険者だからだ。
なぜ、そのような事態になっているかといえば、色々と複雑な要因があってのことだが、最も大きな理由はこの町にダンジョンが多いせいで、強い冒険者が多く、貴族たちに対抗できるだけの戦力を有しているからだ。
「ふむ、なぜ貴族がこのような場所に?」
ゲオルグはエックハルトの方を見ながらそう言った。エックハルトも反貴族側に属する冒険者だとゲオルグは思っていた。この場に貴族を連れてくるとはどういうつもりだ? と暗に批判したつもりである。
エックハルトもそれを察してか、説明を始める。
「我々〈ディネロ組合〉は貴族様相手に様々な商売をやらしてもらってますのでね。特にシュミケット家とは良好な関係を築かせてもらっています。今日はオーロイア様がどうしても出席したいとのことでお連れしたのです」
確かに〈ディネロ組合〉は商売人が冒険者に護衛してもらおうという理由で結束したクランなため、貴族とのつながりもあるのだろう。しかし、どんな理由で貴族が直々に出席をしたのか想像もつかない。
「どうしても、お話ししたいことがあって無理を言ってこの場に来たのです。それで、もう一方はいらっしゃらないようですし、始めてしまってもいいかしら」
と、オーロイアがまだ空席のままの席を見てそう言う。
その席はもう一人の三大巨頭、ギジェルモが座る席だが、最近失踪したため、恐らくやってくることはないだろう。
そう思った矢先、一人の男がこの場にやってきた。
「よぉ、久しぶりだな」
その男は無礼な態度でそういうと、乱暴に席に腰掛ける。
ギジェルモがリーダーだったクランは正式にクランとして発足したわけではないので、クランとしての名前がない。
なので、そのクランの名前を呼ぶさい、便宜上、リーダーの名前を冠してギジェルモのクランと呼ばれていた。だが、ギジェルモがいなくなった今、そう呼ぶのもおかしいということで、時として〈名もなきクラン〉と呼ばれることがある。
であれば、この場にやってきた男を表すなら、こう表現するのが最も適切なはずだ。
先代〈名もなきクラン〉リーダー、ワルデマール、と。
そう、この場にやってきたのは、ギジェルモがリーダーを務める以前にリーダーをやっていた男だった。
「久しぶりじゃないか、ワルデマール。てっきり、この町にはもう来ないもんだと思っていたよ」
そうゲオルグが挨拶をすると、ワルデマールは「少し野暮用があってな」と苛ついた表情でそう口にする。
オーロイアだけが、ワルデマールのことを知らなかったようで、エックハルトがこっそり耳打ちをして彼が何者なのか伝えていた。そして、先代のリーダーであることを知ると、この場に座る権利があると判断したようで、彼が座ることに対し納得した表情をする。
「それじぁ、早速本題に入りたいのだけど」
と、オーロイアが主導権を握るようにそう言う。最も年下の彼女が進行するのは気に食わない、と他の者たちは思ったが、態度に表すのはその本題を聞いてからでもいいだろう。
「私がここに来た理由は、トランパダンジョンの隠しボスを倒すことで得られる初回クリア報酬が、この町の未来を揺るがす物だったので、その報告と対策をするためよ」
どういうことだろう? と、ゲオルグは思った。
確かに、トランパダンジョンに隠しボスがいることが最近見つかったことはゲオルグも聞いていた。
だが、恐ろしく強いボスだと聞いていたため、討伐はためらっていたゆえに、初回クリア報酬がなんなのかまでは把握していない。
「ちっ、すでに知っていたか。情報料を高く売るために、ここに来たのに無駄足だったじゃねぇかよ!」
ワルデマールが舌打ちをする。どうやら彼も隠しボスの討伐で得られる初回クリア報酬を知っているようだ。
だとすれば、それを知らないのはこの場でゲオルグただ一人ということになる。
「それじゃ、もったいぶっても仕方がないからいうけど、トランパダンジョンの初回クリア報酬は、ずばり情報だったわ」
「情報?」
ゲオルグが顔をしかめる。
情報が報酬だったなんて、未だかつて聞いたことがない。
「そう、情報。近々、この町にレイドモンスターが出現するっていうね」
レイドモンスター。
その恐ろしい単語に、ゲオルグは絶句した。
◆
同時刻。
宿屋にいた名称未定は本をちょうど良いとこまで読み終え、そろそろ料理の準備にとりかかろうとしていたところだった。
「名称未定ちゃんは没になったレイドモンスターですからね。つまり、名称未定ちゃんと違って没にならなかった、つまり正式に実装されるレイドモンスターがいるってことです。きひっ、そろそろお目覚めのようですね」
彼女はまだ遠くにいる同胞の気配を感じながら、そう独り言を口にしていた。
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