―77― 古い神と新しい神
「うーん、やっぱりわからない……」
一度理解することを諦めた〈魔導書〉を再び挑戦しようと開いてみたが、やっぱり理解できそうにない。
「んー、なにか方法があればいいんだろうけど」
とはいえ、家で考えていても思いつきそうにない。
「ダンジョンに行こうか……」
ぼーっとした頭でそう口にする。
理解できない〈魔導書〉を読んでいるよりはダンジョンを攻略しているほうが、いくらか生産的な活動といえよう。
「じゃあ、行ってくる」
と、隣で本を読みふけっている名称未定にそう伝える。彼女は「ん」と返事をするだけで、こっちには目もくれない。まぁ、伝わっているようなので、いいんだけど。
◆
冒険者ギルドに行く途中、ばったりと知っている顔と出くわした。
「き、奇遇ね、アンリ」
「うん、久しぶりオーロイアさん」
そう、出会ったのはオーロイアさんだった。そういえば、彼女は魔法の使い手だったはず。
これはいい機会だし、〈魔導書〉の読み方について彼女に聞いてみるのがいいのではないだろうか。
「その、聞きたいことがあるんだけど」
「なによ? 言ってみなさい」
「魔法について教えてほしいんだよね」
「魔法? 教えもらってどうするのよ?」
「えっと、実は魔法を覚えたくて〈魔導書〉を読んでいるんだけど、理解できなくて。オーロイアさんの力を借りれば、なんとかなるかなって思ったんだけど……。もちろん無理にとは言わないけど」
「魔法を覚えたいなら、スキル〈魔力操作〉を覚えていないと無理よ」
「それが実は覚えているんだよね、〈魔力操作〉」
そう言うと、彼女は目を見開いて「珍しいわね」と呟く。
「もしかして、あなたの両親、魔法使いだったりして?」
「いや、そんなことはないけど」
「〈魔力操作〉を持っている人は親も魔法使いの場合が多いんだけどね」
なぜ、僕が〈魔力操作〉のスキルを持っているのか? 疑問に持たれたら面倒だな、と思いながら話を聞く。もし、尋ねられたら、壁抜けのことまで話さなくてはいけなくなるかもだし……。
「まぁ、でも、珍しいとはいえ、あり得ないわけではないし」
と、彼女は勝手に納得したようだった。そのことに僕は安堵する。
「ともかく、そういうことなら、魔法についてご教授してあげてもいいわよ」
「ありがとう。後で、なにかお礼はするから」
そう言うと、彼女は目を半開きにして、
「もしかして私、お礼がないと、なにもしてあげない人だと思われているのかしら?」
「えっと、そんなつもりで言ったわけじゃ……」
「あなたがお礼なんて気にする必要ないの。私は一度、あなたに救われているんだし、あなたの頼みなら、応えられる限り応えるわよ」
と、そういうやり取りをした後、彼女による魔法のレッスンが始まった。
「実践しながら覚えたほうがわかりやすいし、ダンジョンに行きましょうか」
という提案により、二人でダンジョンに行くことになった。
「そもそも魔法がなにか、知っているの?」
と、ダンジョンの向かう最中、彼女がそう口にした。
「いや、わからないけど……」
「じゃあ、魔法はダンジョンやスキルより歴史が古いことは知っているの?」
「えっ、そうなの?」
僕は驚く。魔法がダンジョンやスキルより古いってどういうことだろうか? ダンジョンやスキルって最初からあったとばかり思っていたけど。
「そう、なら、そのことから説明が必要ね。この世界は神が創ったのは知っている?」
「それはなんとなく聞いたことがある」
「神はこの世界にたくさんのものをもたらしてくれたわ。私たち人間もそうだし、大地とか空とか星とか、たくさんの自然を創ったのよ。その中に魔法も含まれている」
「そうなんだ」
「魔法は自然の摂理を人為的に引き起こすもの。だから、この世界について詳しくないと、魔法を扱うことは難しいわ。そして、人類は魔法と共に発展していくんだけど、ある事件が起きるわけ」
「事件?」
不穏な単語の出現に首をかしげる。なにが起きたというのだろうか。
「神が殺されたのよ。後に魔王と呼ばれる者の手によって」
思わず僕はツバを飲み込んだ。神が死んだら、世界は終わりなのではないだろうか。
「神が死んだ後、魔王に従う魔族とそれに抗おうとする者たちによる大きな戦いが起きた。『最後の大戦』と呼ばれている世界中を巻き込んだ大きな戦争よ」
「それでどうなったの?」
「『最後の大戦』はある日、唐突に終わりを告げたわ。新しい神の出現によって」
「新しい神? それって何者なの?」
「さぁ? そこまで詳しいことはわかってないわ。ただ事実として、新しい神によって世界は平和になった。ただ、新しい神は世界を平和にするだけではなく、いくつかの
これでやっと、オーロイアさんが言った魔法がスキルやダンジョンより古いって意味を理解できた。
スキルやダンジョンは新しい神によってもたらされたものだけど、魔法に限っては古い神によってもたらされたものなんだ。
「つまり、魔法を覚えるには古い神に対する理解が必要なんだけど、理解できたかしら?」
「うん、十分伝わった。ありがとう」
「そう、それはよかったわ。それじゃ、次は実践ね」
オーロイアの目線の先にはダンジョンの入り口があった。
このダンジョンは僕もよく知るファッシルダンジョンと呼ばれる、この町で最も攻略するのが簡単なダンジョンだ。
魔法の練習するにはもってこいの場所といえよう。
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