―65― パーティーとの遭遇

「これで、124個目だ……」


〈結晶のかけら〉を集め始めて、もう何日経っただろうか。

 僕はぐったりとした様子で、報酬エリアの宝箱を開けていた。

 今のところ〈もっと大きな結晶〉が4つ〈大きな結晶〉が4つ、さらには〈結晶のかけら〉はさっき手に入れた一つを合わせて、計4つある。

 流石に持ちきれないため、ほとんどを宿屋に置いてある。

 あと、一つ集めれば、〈もっと大きな結晶〉が5つになる。恐らく5つ集めれば、さらに大きな結晶になるはずだ。


「よしっ、ラスト一個だし、今日のうちに終わらせちゃおう!」


 僕はダンジョンの外に出ては、再びベネノダンジョンに入ろうとしていた。

 すでに、レベルは32に達していた。

 鶏蜥蜴コカドリーユが格上のモンスターだったときは、倒せば倒すほどレベルが簡単にあがったが、最近はいくら倒してもレベルがあがる気配がない。

 近い実力のモンスターを倒しても、手に入る経験値が少ないから仕方がないことなんだけど。

 なので、ここ最近は道中のモンスターを倒さずに初回クリア報酬だけを目当てに進んでいる。

 そのほうが、ずっと早くダンジョンを周回できる。

 早く、このダンジョンの周回を終わらせて、別のダンジョンに行きたい。

 そんなわけで、僕は道中に遭遇した鶏蜥蜴コカドリーユを全て無視して、奥へと進んでいった。


「おい、アンリじゃねぇか」

「えっ」


 進んでいたら、途中別のパーティーと遭遇した。

 僕に声をかけてきたのは、以前冒険者ギルドでも会った幼馴染のアルセーナくんだった。


「お前、一人なのか?」

「うん、そうだけど」


 そう答えつつ、内心まいったな、と思う。

『永遠のレベル1』と呼ばれている僕が一人でこのダンジョンのいるのは非常に不自然だからだ。

 かといって、すでにレベルが32になっていることを口にするのも気が引ける。

 レベルをあげられないはずの僕が、なんでレベルが32になったか説明を求められたら壁抜けのことまでしゃべる必要がでてくる。

 それは非常にリスクが高い。この治安の悪い町で壁抜けのことが広まったら、どんな目にあうかわかったもんじゃない。

 だから、ここはレベル1のフリをしておくべきだ。


「お前、なに考えてるんだよ! レベル1のお前が一人で来るようなとこじゃないだろ!」

「あ、はい……」


 だから、アルセーナくんが怒っても素直に頷くことにする。

 そういえば、以前オーロイアさんとダンジョンで会ったときも似たような反応されたっけ。


「おい、どうしたアルセーナ」


 と、僕のことまで一人の男がやってくる。確か、このパーティーのリーダーをやっている人だっけ。


「あん? なんで、てめぇがこんなところにいるんだよ」


 リーダーが僕を見てしかめっ面になる。


「まさか、てめぇ俺たちに寄生していたんじゃないだろうな!」


 寄生とは、低級冒険者が上級冒険者たちのパーティーについていくことだ。

 実力以上のパーティーに寄生することで、パーティーの倒したモンスターの余った素材なんか回収して、お金を儲けるっていう手口だ。

 もちろん寄生行為はマナー違反とされている。


「いえ、寄生なんてしていないですよ……」


 と、僕が弁明したところでリーダーの表情は変わらない。

 まぁ、レベル1だと思われている僕が、寄生以外の手段でどうやってここまで来たんだよってなるからな。


「でもリーダー、俺たち、倒したモンスターの素材は余らず回収していますし、寄生されたところで、こいつにはなんの利益になっていないはずですよ」


 アルセーナくんがリーダーをなだめるようにそう言う。


「まぁ、それもそうだな」


 納得してくれたようで、リーダーも落ち着きを取り戻す。

 よしっ、場も収まったことだし、僕はこのパーティーから離れて、ボスの部屋に行こう。


「あのっ、リーダー。お願いなんですけど、アンリも一時的にこのパーティーに入れてもらえないですか!」


 突然、アルセーナくんが土下座する勢いで頭をさげた。


「顔見知りを見捨てるのは、俺流石に我慢にならないんです! わがままなのは承知です。でも、そこをなんとかお願いします!」


 ど、どうしよう。アルセーナくんが僕のためを思って、やってくれているのはわかっているけど、すごい迷惑!

 しかもアルセーナくん、小声で「アンリ、お前も頭下げろ」って言ってくるし。


「お、お願いします……」


 思わず、僕も頭を下げちゃった。

 流石に、僕のために頭をさげてくれたアルセーナくんのことを無視なんてできないよ。


「ふげけんな! 寄生したやつをなんで俺たちが守らなきゃいけないんだよ!」


 いいぞ、リーダー。このまま僕を置いてけぼりにしてくれ。


「しかも、こいつは『永遠のレベル1』だろ! こんな足手まといをパーティーに入れてなんのメリットがあるんだよ!」


 よしっ、その調子だ、リーダー。僕をパーティーに入れるメリットなんて、全くないぞ。


「リーダー、少し熱くなりすぎ」


 この場に割って入る者がいた。冒険者ギルドでも会った女の剣士だ。


「アルセーナの言う通り、ここに置いていったら流石に寝覚め悪いわよ。寄生していたのはいけ好かないけど、一時的にパーティーにいれてあげるぐらいいいじゃん。ほら、荷物持ちでもやらせましょうよ」


 お前もか、女剣士。

 しかも、女剣士のせいかリーダも少し冷静を取り戻したようで「それもそうか」と頷き始めているし。


「よし、一時的に俺のパーティーに入れてやる。だが、いいか。てめぇは余計なことを一切するなよ」

「わ、わかりました……」


 どうやら僕の描いていた理想とは違う結果になってしまったようだ。


「ほら、荷物を担いで少しでも貢献しろ」


 恐らくモンスターの素材が入っているであろう大きな荷物を投げ渡される。


「よかったな、アンリ」


 横には笑顔のアルセーナくんがいた。


「う、うん……」


 対して僕は苦笑いをするしかなかった


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