―64― もっと大きな結晶

「よしっ、これで25個目だ!」


 僕は報酬エリアにてそう叫んでいた。

〈結晶のかけら〉の回収を初めて25日目。

〈大きな結晶〉を手に入れるには〈結晶のかけら〉が5つ必要だから、これで〈大きな結晶〉が5つ揃ったことになる。

 僕の予想では、〈結晶のかけら〉と同じく〈大きな結晶〉が5つ集まればなにかが起きると踏んだわけだが。


 ◇◇◇◇◇◇


 5つ目の〈大きな結晶〉の入手を確認しました。

 5つの〈大きな結晶〉は合成され、〈もっと大きな結晶〉になりました。


 ◇◇◇◇◇◇


〈もっと大きな結晶〉って、流石に名前が安易すぎるような気もしないでもないが、ともかくこれで目標を達成したわけだ。


「やったぁー!」


 両手を掲げ、喜ぶ。

 結構長いことがんばったよね、僕。

 鶏蜥蜴コカドリーユを倒しまくったおかげで、レベルも27に到達したし。

 喜びつつ、〈もっと大きな結晶〉の情報を閲覧する。


 ◇◇◇◇◇◇


〈もっと大きな結晶〉

 使用すると、すごくいいことが起きる。

 集めると、もっともっといいことが起きる(譲渡不可)。


 ◇◇◇◇◇◇


「は……?」


 僕は呆然としていた。

 一行目はまだいい。どうせ、なにが起きるかなんて書いていないと思っていたから。

 問題は二行目。


「もっともっといいことが起きるって、なんなのさー!?」


 叫ばずにはいられなかった。


「もう使っちゃおうかな……」


〈もっと大きな結晶〉を手に持ちながら、そんなことを考える。流石に、何度も同じダンジョンを潜ると気が滅入ってくる。

 だけど、気になる!

『もっともっといいこと』がなんなのか、すごく気になる。

 もし、ここで使っちゃえば、『もっともっといいこと』がなんだったのか一生に気になるんだろうなー。


「よし、周回するか……」


 過去にはパイラルダンジョンを100周したこともあるんだし、自分にはまだまだ余力は残っているはずだ。


「だけど、少しだけ休ませてー」


 ぐったり、と僕は報酬エリアで仰向けに転がった。





「えっと、なにしてんの……?」


 宿屋に戻るとおかしな光景があった。


「見てわからねーですか。料理というのをやっているんですよ」


 確かに、名称未定が本を片手に台所に立っていた。

 あの本は、他の本にこっそり混ぜて渡した料理のレシピ本だったはず。あわよくば、名称未定が料理に興味を持ってくれたな、と思って渡したが、まさかこうもうまくいってしまうとは。

 意外と好奇心旺盛なのかも……。


「なにか手伝おうか?」

「お前が手伝うと飯がまずくなるから、余計なことはしないでほしーのです」

「わ、わかった」


 事実、僕は料理がうまいわけではないので、言われた通り大人しく見ているだけにする。

 ただ、料理ってのは包丁を使うときなど、怪我をする可能性があるから、不安ではある。

 あっ、自分の触手を刃物の形状にして、それで食材を切るんだ。まぁ、包丁を使おうが触手を使おうが味は変わらないと思うので、別にいいんだけど。


「ほら、ありがたく召し上がってください」


 数時間後、テーブルに料理を並べた名称未定がそう言っていた。


「いただきます」


 そう言って、僕は料理に手をのばす。

 見た目は普通だし、僕の作る料理に比べたら色彩が豊かだし悪くなさそうだ。


「どうですか?」


 料理を口にした僕に対し、名称未定がそう問いかける。


「……うん、おいしいよ」

「ふんっ、おいしくて当たり前なんです。なにせ名称未定ちゃんが作った料理なんですから」


 そう言って、彼女は自分の分の料理を口にいれた。


「まっずい!!」


 名称未定はそう叫びながら、自分の料理を投げ飛ばしていた。


「お前、よくも嘘をつきやがりましたねっ!」


 彼女はつり上げた目で僕のことを睨む。

 うん、確かに彼女の作った料理はまずかった。とはいえ、作ってもらった手前、まずいなんて言えないのでおいしいと言っわけだが……。


「まぁ、でも食べられないほどではないし」


 そう言って、僕は料理を再び口にいれる。

 まずくなってしまったのは、焼き加減が甘いせいなのかなぁ。


「こんなまずいもの食べないでください!」


 だけど、名称未定が僕の料理を取り上げて食べることを許さない。


「けど、今日のご飯はどうするの……?」


 今から用意しようしても、もう時間は遅いし。


「今日のご飯はなしなんです」


 えぇ、嘘でしょう……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る