―23― 新しい盾を買いにいこう!

「エレレート、行ってくるよ」


 まだ昏睡状態のままの妹にそう声をかけて、家を出る。

 いつもならこのままダンジョンに直行するが、今日は盾を買いに行きたいため、武器屋に行く必要があった。


「今の僕、まるで不審者みたいだな……」


 服の中に大金を隠し持っているせいだろう。

 さっきから僕は挙動不審だった。右を見ては左を見て、という具合に周囲を確認しながら歩いていた。もし、この大金を盗まれたりしたら一貫の終わりだ。


「よし、着いた」


 最初に僕が向かったのは盾が売っている武器屋ではなかった。


「いらっしゃいませ」


 そう言って、店員が僕のことを出迎えてくれる。

 僕が向かったお店は仕立て屋だ。

 盾を買うまえに、この仕立て屋で手に入れておきたいものがあった。


「どうでしょう、お似合いだと思いますが……」


 店員が僕の格好を見て、そう口にする。

 僕も鏡に写った自分の姿を見ていい感じだと思った。


「これ、ください」

「着たままお出かけなさいますか? それとも、脱いだのをお渡ししましょうか?」

「いえ、このまま着ていこうと思います」


 僕が購入したのは全身を隠せるぐらいの大きさのマントだ。

 このマントに防御力をあげるような特別な効果は一切ない。

 じゃあ、なぜマントを買ったかというと、これから買うであろうと高い盾を人目につかないよう隠すため。

 冒険者というのは自分のレベルに見合った装備品を身につけなくてはいけない、という風潮がある。

 下手にレベルの低い冒険者が高価な装備品を身に着けていたらやっかみを買うのは必然。最悪なのは、目をつけられて装備品を奪われるなんて事件も起こりうる。

 だから、盾を持っていることを隠すためにマントを購入したのだ。

 それじぁ、マントを購入したことだし盾を買いに行こう。


「いらっしゃいませ」


 以前、〈岩の巨兵ゴーレムの小盾〉を買ったお店と同じとこに行く。

 一度、購入した経験があるお店のほうが買いやすいと思ったからだ。


「うーん、色んな種類があるなぁ」


 壁に立てかけられた盾を見ながらそう口にする。

 僕が盾の求める性能は、頑丈なのはもちろん重要として軽いという性能も同じくらい大事だ。

 モンスターを一体も倒さないで進むという戦法はステータスの敏捷が高いからできること。もし、重い盾を手にしてしまえば敏捷が下がってしまい、そういった戦法が難しくなる。


「うん、十分軽いし、これがいいかな……」


 試しに盾を手にとって性能を確認する。

 えっと、ステータスは――


 ◇◇◇◇◇◇


水晶亀クリスタルタートルの小盾〉

 防御力340上昇させる。


 ◇◇◇◇◇◇


 能力は十分すぎるぐらい高い。

 えっと値段は……。


「46万イェール!?」


 値札を見て、思わず叫んでしまう。

 た、高すぎる……。

 けど、今日持ってきた金額は全部で50万イェール。払えない値段ではない。

 どうしよう……。

 とりあえず、もう少し安い盾でもいいから探してみることに。

 探してみたけれど、軽くて丈夫という条件にあう盾は〈水晶亀クリスタルタートルの小盾〉の他には以前買った〈岩の巨兵ゴーレムの小盾〉か、もっと高価な盾しか見つからなかった。

岩の巨兵ゴーレムの小盾〉でもいいのだが、せっかくがんばってお金を貯めたんだし以前より高価な装備に身を包みたい。


「よし、これください」


 思い切って〈水晶亀クリスタルタートルの小盾〉を買うことにした。

 想像以上の出費ではあったが、後悔はしていない。

 冒険者たるもの装備品をケチってはいけない、とは誰かの言葉だ。

 僕は新しい盾を腕にはめてはウキウキな気分で店を出た。

 新しい盾の性能も見たいことだし、早速だがダンジョンに向かおうか。


「よぉ、アンリ。これから、どこに行くんだぁ?」


 ゾワッ、と背筋が凍る。


「ギ、ギジェルモ……」


 目の前に、以前所属していたパーティーのリーダー、ギジェルモがいた。


「キヒャヒャヒャヒャッッ」

「アンリちゃんよーっ、随分と嬉しそうな表情で武器屋から出てくるじゃんかーっ」


 気がつけば、ギジェルモの取り巻きたちが僕を取り囲むようにして佇んでいた。


 ま、まずいっ。

 マントの中にはさっきばかりの〈水晶亀クリスタルタートルの小盾〉がある。

 もし、これの存在がバレたら確実に奪われる。


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