第10話 友達以上恋人未満

 自宅に戻ると満面の笑みの母親に迎えられた。嫌な予感しかしない。

「孝一。貴方もやる時はやるのね」

「なに、いきなり」

「スマホを預けられる女の子をゲットするなんて凄いじゃない。しかも凄い美人だし」

 遠慮なく肩を叩いて来る。

「まあ、隣の席だし同じ部活だから」

「私が高校生だった時は……」

「聞きたくない」

 靴を脱いで二階に上がる。腹は減っているが母親がウザ過ぎる。

「加藤さんは二階よ~」

「……分かった」

 勝手に人の部屋に案内した訳じゃないだろうな……。

 ドアを開けると紬がベットの下を覗ぎこんでいた。

「そんなところにお宝は無いぞ?」

「お、お帰りなさい孝一君」

 令和の時代にエロ本をベットの下に隠すわけないだろうに……。無言でデスクトップパソコンのメイン電源を入れる。カリカリと動き出すパソコン、三十秒よりも早くトップ画面が表示される。スペックを表示する画面でF1ボタンを押さないとこれ以上進まない。

「起動めっちゃ早くない⁉」

「だから、魔改造されてるって言ってるだろ」

 F1ボタンを押してOSを走らせる。今日も最速で立ち上がった。

「いやいや、早過ぎでしょ!」

「親父から引き継いだ時にはもうこの速度だから、最新のパソコンも遅く感じる」

 椅子に座り、マウスでアストロアークのショートカットアイコンをダブルクリックする。

「このパソコン幾ら?」

「親父が当時五十万で買って色々メモリー増設したり、グラフィックボード交換したり。エロゲーに特化したパソコンだよ、コレ」

「お父様のエロさは孝一君にも継承されていたり?」

「息子だからな、それなりに」

 アストロアークのOPを流しながら紬に向き直る。

「で、男の部屋に無警戒で入って来た女子がどうなるかは分かるよね?」

「優しく追い返される?」

「その通り。一階に行こう。さすがに腹減って性欲湧かんわ」

「満腹だったら私どうなってたの?」

「さあね、試せばいいじゃない」

 ちょっと意地悪な笑みを浮かべて紬を部屋から連れ出す。

「紬さんや、飯は食ったのか?」

「いいえ。ずっと……。何でも無いわ」

「お宝探しをしていたと、プライバシー無視だな」

「異性の部屋に入ったらやるでしょ普通!」

「しないと思う。佐々木さんとか大人しく座ってそう」

「そうね」

「とりま、飯食おう」

「家にはご飯どこで食べたんだって聞かれそうで嫌ね」

「それ位自分で説明できるだろ」

「お父さんに友達以上恋人未満の異性って言ったら孝一君殺されそう」

「勝手に死亡フラグ立てないで、ってもう遅いか」

「死ねばもろともよ」

「それはこっちのセリフ……。はあ、バイトで疲れてるのにこれ以上疲れさせないで」

「今日はぐっすり寝れそうね」

「いい根性してるな紬さん」

 その後兄妹達と一緒に夕飯を食べたが味は覚えていない。紬を家まで送ってアストロアークのタクスを終わらせるとその日は夢も見ずにぐっすり寝られた。

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