第9話 初バイト

 人生で初めて履歴書を書き、面接をパスして書店で時給八百六十円で働くことになった。土日祝も入れると言ったのがたぶん決め手だったと思う。

「霜月君は数少ない男性店員だから力仕事が多くなると思うけど大丈夫?」

「大丈夫です」

「その内レジ打ちも覚えてもらうからね」

「分かりました」

「じゃあ、今日はアニメ化する書籍を棚を開けてある場所に配置してくれる?」

「了解しました」

 アニメ化した書籍は売り上げが伸びる。アニメで描かれていない部分が多々あるから原作を読もうとする読者が増えるのだ。

「第二期やるんだコレ」

 見知った書籍を手に取って棚に並べる。

「孝一君。スマホを預かりに来たわよ」

「紬さん。バイト先に来ないでよ……」

「いやよ、ここ私も良く来るし」

「はい。スマホ」

「アルトの事は任せてお仕事頑張って」

「そう思うなら話しかけないで……」

「暁のヨナの最新刊はどこかしら店員さん。見当たらないんのだけれど?」

「話聞いてる? レジ前にあるよ」

「ありがとう」

 紬は買い物のついでに声を掛けてきたようだ。新刊はレジ前に有ると教えてもらっていて良かった。

「スマホは学校で渡そう……」

 それでも紬は話しかけてくるんだろうが……。

 他の店員の目も有るのでさっさと作業を済ませてしまおう。

 働く時間は午後五時から午後九時までの四時間。女子を一人で待たす事になるのかと思ったのだが、それは意外な形で裏切られた。

「孝一君。あなたのお母さまから家にお呼ばれしたから先に帰るわね夜道も女の子一人じゃ危ないし」

「え? 何故? ちょっと紬さん⁉」

「またね~」

 電話に出たな紬。確かに電話に出る出ないは取り決めがなされていない。だからって他人の携帯に出るか普通。

「女子って怖い」

 さっさと仕事を終わらせて帰りたい。でも、時間までは残っていないといけない。

「質問攻めにあうんだろうな」

 嬉々とした母親の顔を想像して気が重くなる。兄妹たちも美人の紬には興味津々だろう。



 

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