第6話 お弁当協奏曲

 加茂農林高校は学食がある。一番人気は百円で買える揚げたてのフライドポテトだ。これは早い者勝ちで食べられない日もある。パシリで買いに行かされるのもフライドポテトだ。弁当組もとりあえず学食に通う一番人気の商品だ。ケチャップを学校に置いている強者もいる様だ。

「ほら、買って来たぞ」

 加藤紬のお願い(命令)でフライドポテトを買いに行かされた。紬の友達の分も含めて三人分。

「ありがとう孝一君」

「ありがとう霜月君」

 紬の友人は俺達とクラスは違うが同じ一年の佐々木望。見た目は文学少女だが理系らしい。紬とはタイプの違う美人だ。

「部室にテレビが有るのはいいな」

「でしょう? ヒルナン〇ス観ながらご飯を食べてる高校生なんて私達くらいよ」

「くあ、左様で」

「霜月君、寝不足ですか?」

「弁当作るのに早起きした。ユーチューブでアストロアークの実況やってたからついつい夜更かししてしまった。めっちゃ眠い」

「ほんと孝一君はアストロアーク信者ね。何が楽しいの?」

「全て」

「私もアストロアークのフィールドBGM好きです。霜月君のユーザー歴は?」

「俺はパッケージ買うほどのヘビーユーザだよ」

「パッケージ?」

「いい、望。今、アストロアークはパソコンに最初からインストールされてるけど。古いパソコンには入っていないの。だからパッケージ様は製品版のアストロアークが必要なのよ」

「父親のデスクトップパソコンは骨董品でな今時OSがWindowsXPなんだ」

「何よWindows史上最高傑作に何か文句でも?」

「文句なんて無いよWindows10より安定してるし、ただ父親のパソコンがちょっと特殊でな……」

「アストロアークが起動しなかった?」

「いや、ヌルヌル動くよ。今売られてるパソコンより性能良いんじゃないかな?」

「魔改造でもしたの?」

「父親が勝手にしたんです。俺のせいじゃないBIOSまで弄ってるとは思わんだろ」

「孝一君のお父様お仕事は?」

「最近長距離トラックの運転手に転職した。その前は調理師」

「複雑な家庭事情なんですね」

 佐々木に同情されてしまった。圧倒的に慢性金欠なだけなんだけど……。

「それにしても霜月君、料理出来たのね」

「まあ両親は共働きだし、一通りは出来る」

「羨ましいです。私家庭科の成績悪かったんで……」

「佐々木さんは料理できるイメージが勝手に出来てた」

「両親が過保護なんです」

「そうよ。望は箱入りなんだから」

「そおいう紬さんは自前の弁当か?」

「……。母親作よ。朝は弱いの」

「さいですか」

「一瞬憐れんだわね。上等よ廊下に出なさい!」

「好きなだけ殴れ。俺はキレでもしない限り女子に手はあげん」

「むう、良いじゃない私に弁当作らせたら大したもんよ」

「なんなら作ろうか? 別に手間じゃないし」

「それ男女逆じゃない?」

「令和超えて桜花時代に何言ってんだ?」

「それもそうね。嫌いなものだけ書くから作ってくれる?」

「分かった」

「あ、あの。霜月君、良かったら私の分も……」

「三つ作るも五つ作るも一緒だから構わんよ」

「五つって、霜月君まさかご両親の分も?」

「うん」

 女子二人は女子力というか主婦力で霜月孝一に完敗した。





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