第5話 ボッチからリア充へ

「霜月君パソコン部入らない?」

 偶然隣の席になった女子生徒から声を掛けられた。名前は確か……。

「加藤さん、パソコン部なの?」

「ええ、廃部寸前のパソコン部に現れた救世主。それが私よ!」

 この子こんな仕上がりになってるのか。中学時代は浮いてただろうな。

「正直名前だけ、掛け持ちも可よ」

「ん~。部活かぁ考えた事も無かったよ。漫研にでも入ろうと思って」

「ああ、ジョジョアンパンね。この高校の伝説の同人誌!」

 ジョ〇ョの奇妙な冒険とアンパン〇ンを足した奇跡の一冊。どうやらこの高校のOBである父親の話してくれた同人誌の噂は本当らしい。

「漫研との掛け持ちでいいから入ってくれない? 部室が使える最後の年らしいの」

「名前だけで良いなら」

 用意しておきましたと言うように入部届とボールペンを渡された。シャーペンで良くないか?

「あの」

「大切な書類はボールペンで書く。婚姻届と一緒よ」

 その言葉にゾワリとしたものを一瞬感じたが気のせいと割り切って入部届に名前を書き込んだ。書き終わるとサッと奪い取られる。スカートのポケットの中に入れられてしまう。これではやっぱりなしとはならない。女子のスカートのポケットから物を取り出せる男子高校生は皆無。

「これからよろしくね、孝一君」

「距離感が一気に縮まったな、俺も紬さんと呼べば?」

「呼び捨てでもいいわよ?」

「紬」

「やっぱり無しで、想像以上に心臓に悪いわ」

 俺も少し頬が熱い。同年代の女子を呼び捨てにするのは腐れ縁のアイツだけだ。

「活動は放課後の他に昼休みもやるわ参加してくれる?」

「パソコン部の部室で何するんだよ昼休みに」

「テレビを見ます」

「は?」

「私、音が無いとご飯が食べられない体質なの」

「なんだそれ、聞いた事ないぞ」

「昨日の昼ご飯はスマホでラジオアプリを起動して、ワイヤレスイヤホンから聞こえるその音で食べたわ」

「デジタルなのかアナログなのか分からない。他のクラスメイトと食べれば良いじゃないか」

「私、JKの会話の話題が提供できないの……」

「致命的だな」

「だから部室でテレビを見ながら一緒にお昼ご飯を食べましょう!」

「分かったよ、難儀な体質だな」

「私テレビっ子なのよね」

「聞いてねぇよ」

 加藤紬は美少女である。それも学年一の、だ。口を開かなければ、だが……。

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