整備班の双子


 女神様から、整備班にパワーアップの相談をしなさいと言われた僕は、格納庫に向かう。


 中庭を抜けて、校舎からやや離れた場所にポツンと建っている真四角な建造物。

 そして、その横には僕達が倒した自動操蟲じどうそうちゅうの死骸が大量に転がっている。

 更にその横には僕のボディが鎮座している。


 昨日の戦闘後に、素材になるから死んでも持ち帰ってきて!!と整備班の班長、ネイサに頼まれて僕が運んだものだ。

 未だにバラバラの蟲達を手一杯に運ぶ光景を思い出すと、背筋がゾっとしてしまう。

 一体僕はこの異世界で何個トラウマが増えるんだろう……。



「ごめんくださーい! ヒビキです!」

 入口で大きな声で挨拶をする。


「今作業中だー! そのまま入りなー!!」

 同じくらいの大きな声が奥の方から響いてきた。

 ネイサの声だ。


「お邪魔します、……わぁ、すっごいな」


 格納庫の中の光景は中々に壮観そうかんだった。

 辺りには、何に使うのか良く分からない異世界の工具が所狭しと並んでいる。

 そして、これまた何を意味してるのか良く分からない設計図も壁に大量に張り出されていた。

 奥の方では、ニック達が乗っているテントウムシ型の飛行機がバラバラになって吊るされている。


 そこでは、ネイサがハンマーのような工具でそれらを叩いて、ひしゃげた装甲を直していた。


「へー、ああやって、メンテナンスしてるのかぁ」


 作業を食い入るように見つめる。

 僕は、工場見学で一日を余裕で潰せてしまうタイプの人間だ。

 こういう専門的な技術が集う場所にひどく弱いのだ。


「おはようさん! 昨日の疲れはとれたかい?」

 ネイサは作業を中断してこちらを振り返った。


「おはよう! うん、僕は大丈夫……ってネイサこそ目の隈ヤバいよ!? 大丈夫!?」


 振り返ったネイサの顔はいかにも徹夜しましたと言わんばかりだった。

 眼はギラついていてるが、確実に広がっている隈の大きさが作業の苛酷さを物語っていた。


「……うん? ああ、ついついやりすぎちまったね。恥ずかしいもん、見せちまった」


 磨かれた装甲に写る自分の顔をじっくり見たのだろう。

 ネイサは少し顔を赤らめてガシガシと頭を掻いていた。


「流石にちょっと水浴びして、睡眠でもとるかな……」


「そういうことなら、僕は出直すよ」


 また夕方にでも来ればいいだろう。

 この格納庫で暇を潰してもよいが、それじゃネイサの心が休まらないだろう。


「いや、なんか整備のことなんだろ? それならあのバカ達を呼ぶよ」


 バカ達? いや、そういえばこの学校でまだ話したこと人達がいたような……


「ギアーー!! ナットーー!! お客さんだよ! あんた達が相手しな!!」


 ネイサの声に反応して格納庫の奥から二人の男が飛び出してきた。


「姐さん! 只今ここに!」


 二人の声が綺麗なステレオ音声となって僕の耳に届く。

 もっと言えば、二人は同じ顔だった。


「え? 双子!?」


「お! 噂の勇神様、ヒビキだな! その通り! 俺達は整備班の双子のダブルエース!」


「ギアと!」

「ナット!」


「よろしくな!」


 阿吽の呼吸で喋りながらポーズをとる二人。

 自己紹介というより、芸でも見てるかのような気分だ。


「……まあ見ての通りのバカ達だけど、腕と発想は確かだ。あんた達、ヒビキの相談に乗ってあげな!」


「イエッサー! 姐さんは休んでてくだせえ!」


「姐さんはやめろって……三年間言い続けたんだがな……」


 頭を抑えてネイサは去っていった。



「さ、ヒビキ! 今日は何しにきたんだ!? なんか面白いもん作ろうぜ!!」


「うん。実はね……」






「なるほど! パワーアップの相談ってことだな!!」


「そうなんだ。服はまあいいとして、この先、相手の女神が何してくるか分からないからね。出来るだけ強くなっておきたいんだ」


「なるほど、なるほど」


 双子は二人で首をコクコクと頷ける。


「そういうことなら……服の修繕は姐さんに任せよう。ああいうのは姐さんが上手い。テントーの方もほとんど終わったしな」

「ニックの奴のは駄目だったけどな。ま、そっちも他のアイデアはあるからいいか」


「じゃあ俺達はパワーアップの方だ。素材なら入学以来の大豊作。これは絶対面白い奴だぞ、ナット」

「そうだな、ギア。しかも、大幅な加工はヒビキのあのボディでやってもらえばいい。最高の環境だ」


 双子は二人で喋り続ける。

 僕に蟲を解体させようとしてるらしいのが恐ろしいが……凄まじい熱意が伝わってくる。



「よっしゃ! やるぞヒビキ! 俺達で最高にクールで痺れる最強の専用武器を作ってやろうぜ!!」


「最強の……専用武器……!?」


 そんなことを言われたら僕だって黙ってられない。

 専用武器だなんて、男の子だったら誰だって憧れるやつだ!!


「それは……あれかい? 僕にしか使えなくて、決して効率的ではなくて、替えが効かないやつだよね……!」


「いいよな……試作品とか、ワンオフとか、実験機とか……!」


「……! ギア、ナット……! 僕、君たちと親友だった気がしてきたよ……!」


「俺達もだ、ヒビキ……! やってやろうぜ、敵さんの女神の度肝を抜かしてやろうぜ!」


 格納庫に響く三人の声。

 こうして僕達の武器造りが始まったのだった。

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