一時の休息
辛くも勝利した二度目の防衛戦から、一夜が明けた。
「あっ……しまった! もうこんな時間!」
差し込んだ朝日でポロンは目を覚ます。
ポロンはベッドから飛び起きて、いそいそと着替え始める。
皆と同じ制服の上から最後にエプロンをつける。
髪を一つに束ねて……これでばっちり!
さあ、みんなのご飯を作らなきゃ!
みんなの朝食作りから始まるわたしの一日。
幾度となく繰り返してきたことだが、流石に今日は昨日の激戦もあって身体に疲れが出ているのを感じる。
ポロンは眠い目を擦りながら、まだ薄暗い厨房に入った。
「って、あれ? オットーちゃん? ヒメちゃんも!」
そこには、クラスメイトの女の子達がエプロン姿でいたのだ。
「おはよう! どうしたの? ご飯はもうちょっとかかりそうだけど」
「もちろん、ポロンちゃんを手伝いにきたんですよ~」
「むしろ本来関係ない戦闘を手伝ってもらってますからね、このくらい当然ですわ」
「二人とも……!」
そこに背後から気だるげな声がかかる。
「私もいるッスよぉ~……あー眠いー……」
「スウちゃん!」
彼女は司令班のスウ、昨日は女神様との連絡を橋渡ししていた縁の下の力持ちだ。
「みんな……ありがとう!! 大好きー!」
ガバっとみんなに抱き着くポロン。
朝食作りが始まった。
「エリト君なんかに声かけちゃったら『ふむ。では、皆でやろうじゃないか! 今からシフトを組むぞ!』なんて言い出しかねないから、今日は私達だけでこっそり計画したんですよー」
「あはは! めっちゃ似てるッス!」
「あとネイサさんは不眠不休でテントーを修理してるから、声をかけるのはやめときましたわ」
「整備班は今が一番大変だ。ヒメちゃんの機体もちょっと壊れて、ニックの機体なんかバラバラだし。ニックのはもう治らないんじゃないかなー」
朝食づくりもあらかた終わって、一足先に朝食をとる4人。
この後は配膳と片づけもあるから今のうちに食べてしまうのが楽なのだ。
和気あいあいとお喋りを楽しむ4人。
だがそれはポロンの一言ですぐに崩れ去った。
「そういえばニックと言えばさ……昨日のアレってどういう意味なのかな……?」
「アレって」
「もしかして」
「例の」
皆、同じことを思い浮かべているようだった。
――――『俺は命を懸けても、お前のことを守りたい』
そう、ニックが昨日の戦闘中に言った台詞のことだった。
ポロンは昨日の夜からこれがずっと頭の中でグルグルして安眠を妨害されていた。
いくら普段から御伽噺のことばかり考えてるわたしでも、その言葉の意味が分からないほどニブくはない。
「その……なんていうか……そういうことでいいのかなーって、どうかな? スウちゃん」
「私ッスか!? い、いやー……ニック君のことだしそれでいいんじゃないかなーって……ヒ、ヒメちゃんはどう思います!?」
「わたくしですか!? ……アレが
ヒメは顔を赤らめながら昨日の事を思い出してるようだった。
「だけど……間違いなくそういうことでいいと思います。だってニックさんですし」
やはりそうか。
わたしの早とちりではなさそうだ。
でもそうなると……どうしよう……。
「ポロンちゃん、
オットーが朗らかな笑顔でポロンの核心を突く。
「流石オットーちゃん……そうなの……私勇神様が好きだけど……でもニックのことも……」
「ポロンちゃん。『好き』にはね、色んな種類があるの。勇神様への気持ちとニック君への気持ち。どんな『好き』なのか、良く考えてみるといいですよ~」
オットーのゆったりと、だが、力強い言葉に場が支配された。
「オ、オットーちゃん……!?」
「お、大人ッス……!?」
「素晴らしいですわ……!?」
同年代とは思えない言葉に開いた口が塞がらない3人。
まあ……もしかするとわたし達3人がそういう経験に乏しすぎるだけかもしれないが……。
でもそっか、『好き』の種類か……。
「……うん! ありがと! オットーちゃん! わたし、卒業までには絶対に答えを見つけるよ!」
「ふふふ、ポロンちゃんなら絶対に大丈夫よ」
「よーし! 今日も頑張るぞー! じゃあ、皆一緒に!」
「ごちそうさまでした!!」
4人の元気な声が早朝の食堂に揃った。
「あら? こんな早朝に
女神ベルンは自身に満ちるエネルギーの高まりを感じた。
耳を澄ませてみると、食堂の方から笑い声が聞こえてくる。
「ふふっ、なるほど。青春してるじゃない」
激戦をかいくぐった昨日の今日で、本当に強い子達だ。
「あの子達の為に、あたしも頑張らないとね」
ベルンは思案する。
昨日のルーナはかなりの女神力を消費したはず。
そもそもあの子はまともに女神力を受け取れないんだから、元に戻すのも一苦労だ。
それに加えて自動操蟲は全て手作り。
再侵攻にはそれなりの時間がいるはず……。
「よし、今日から強化の時間ね!!……あ」
図らずもダジャレになってしまっていることに一人気付いた女神。
「女神様? 何つまんないこといってるんですか?」
いや、一人ではなかった。
もう一匹、カエルの響がいた。
「……女神ペナルティ1点」
「なんで!?」
「あんたこそ、こんな早朝に何やってんのよ」
「僕はニックの様子を見に行ってたんです。ぐっすり寝てましたよ。救護班の男の子曰く全然問題ないそうで」
響はカエルの顔でも分かるくらいには安心しきった表情を浮かべていた。
異世界に飛ばされて3日目、こいつも大概強いというか、生命力と順応力が高いというか……。
「……一応聞くけどあんたの方は大丈夫なの? 昨日スパスパ斬られてたじゃない?」
「僕の身体は頑丈だから平気だと思いますけど……あっ、でも学生服がもうボロボロだなぁ」
「そうね。そこも含めて強化が必要ね」
そのための時間なら、潤沢にあるはず。
「響、あんた整備班に色々と相談してみなさい。私は司令班と今後の作戦を練るわ」
「了解! さーて、頑張るぞぉ!」
ピョンコピョンコと去っていく響を見ながら、ベルンはそっと呟いた。
「……ま、転移させたのが、あんたで良かったかもね」
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