覚悟と告白


「あいたたたたたたた!!」


勇神ゆうじん様! ごめんね! 大丈夫!?」


 飛行カマキリによってスパスパと斬られていくひびき


 ポロンの高い技巧のお蔭で致命傷は避けているが、あの刃がポロンに当たった時点で終了だ。

 左手でコクピットをある程度覆ってはいるものの、視界確保の為の隙間は生まれる。

 そして、徐々にこの隙間に刃は近づいてきているのだ。


『ヒメ! ヒューイ! 俺達3機でコンビネーションAを仕掛ける! 羽根を狙って打ち落とすぞ!』


『『了解!』』


 空中で編隊を組んだテントー三機。


 ニック機が標的に向かって煙幕弾を放つ。

 空中で雲のように広がる灰色の煙。

 その煙を突き抜けるようにニック機が直進、ヒメ機・ヒューイ機はそれぞれ左右に迂回をした。

 さながらフォークの先端のような軌道で三機のテントーは魔法弾を打ち放った。


「おお、凄い! ポロン! 落っこちてきたのを殴ってやろう! 何だっけあの……空気弾を放つ奴」


「ブレイブナックルね! オーケー! 準備するよ!」


 肩・腰・脚に電気がチャージされていく。

 さあ、準備は万端だぞ!


『きゃあ!』

『ヒメ!?』


 しかし、出てきたのは悲鳴だった。

 カマキリは煙を切り分けて、むしろテントーに一太刀浴びせていたのだ。


『ぐっ……左翼を損傷いたしました……。戦闘続行不可能ですわ……』

『こちら司令班! ヒメ機はそのまま直進して撤退! 救護班の方が着陸ポイントに移動する! ヒューイ機は撤退の援護を!』


『了解!』


「駄目か……! ポロンこのまま撃とう! 当たればラッキーだし当たらなくても援護になる!」

「うん! 行くよ勇神様! 電流集中! ブレイブー……ナッコォォォォウ!!」


 超高速の掌打は空気を弾いて、圧縮された空気弾が飛行するカマキリに迫る!

 が……、僅かにかすっただけ。

 空中でひしゃげた羽根が徐々に再生していく。



「ぐぐぐ……! どうすればいいんだ」


 戻ってきたテントーから通信が入る。

『こいつはまずいかもな。俺の魔力ももう少ないから、そう長くは戦えないぞ』


 今度は司令班からの通信だ。

『撤退プランも考慮に入れよう。最悪の時は女神石を囮にして、一発で破壊するしか……』

『ええー! 囮とか無理よ! 私こんな石のまま神生じんせい終えたくないわ!』


「打つ手がないな……。どうしようかポロン……ポロン?」


 いざとなればコクピットだけでも遠くにぶん投げてやろうと響が思っている時だった。

 ポロンが何やらブツブツと呟いている。


御伽噺おとぎばなしの勇神様はこんな時……でも……これは……」


「もしかして……御伽噺の中に解決策があるの?」


「うん……。今みたいに空を駆ける自動操蟲を追い払った物語があるの……でも……」


 珍しく言い淀んでる。

 昨日から隙さえあれば御伽噺を語っていた彼女とは思えない。


『ポロン。今は何でもいいから手がかりが欲しい。言ってくれ』


「……。でも……これはニックが……危ないかも……」


 空のカマキリは徐々に羽根の再生をほとんど追えて紅い眼を光らせている。

 いつ襲ってきてもおかしくない。


『ポロン! 大丈夫だ! まずは言ってみてくれ! 駄目そうなら撤退すりゃ良い話だ』


「……分かった。御伽噺の勇神様は……」


 響とニックとそして魔声機を通してみんながポロンが語る物語を聞いた。

 なるほど、確かに不可能ではないかもしれない。

 だが……。


『確かに、それ通りにやると俺の命が危ないかもな』


 そう、ポロンの言う通り、ニックが危険すぎる作戦だったのだ。


「そうでしょ? やっぱり一回戻って……」


『いや、それで行く。エリト、準備を』


『……本当に良いのか?』


「ニック!? 駄目だよ!」


『客観的に判断して不可能ではないと感じた。リスクがあるとすれば俺の命くらいだ』


「だからそれが!!」


『俺は命を懸けても、お前のことを守りたい』


「えっ……ニック……?」


 全員が息を呑むのが魔声機ごしでも分かった。

 その言葉の意味を分かってないのは恐らく言った本人くらいだろう。


(何が告白の仕方を教えて欲しいだよ……。君のほうが僕なんかよりよっぽど漢だ)


 響は絶対にこの素敵な友人を死なせてなるものかと、聡明そうめいではない頭で必死に考える。

 ……あっ!


「女神様! 女神力めがみりょくは貯まった!?」

『まあ、そこそこね。大した加護は与えられないわ』


 いや、そんなに大がかりなことでもない。

 やれるはずだ。


「みんな聞いてくれ! 御伽噺にプラスアルファで皆ハッピーになってやろう!!」


 響は我ながらアホな言動と分かっていたが、それでも必死に説明した。


『……分かった。救護班! 推定墜落ポイントへ向かってくれ!』


 エリトの指示が飛ぶ。

 どうやら僕の案はそれなりに通ったようだ。


『ヒビキ……お前……』


「君のことは死なせないよ。『同盟』だからね」


「ニック……死んじゃったらわたし、やだよ……」



 空中のカマキリはとうとう羽根を再生させて紅い眼を光らせている。

 こちらも準備は完了だ。



 風そよぐ平原での戦いに決戦の時が訪れようとしていた。

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