二度目の防衛戦
『勝利条件は敵の殲滅、または撃退! 敗北は味方の全滅、または女神石の破損だ! 各自、健闘を祈る!』
エリトの激が飛ばされ、二度目の防衛戦が始まろうとしていた。
そして、校舎の南に位置する格納庫では響とポロンとニックが話し合っていた。
「ポロン、魔声機はちゃんと持ったな? 出張中の先生の奴だから壊すなよ?」
「もちろん! なんかあったらすぐ連絡するからね!」
ポロンはおもちゃを買ってもらったばかりの子供のように魔声機を振り回している。
「……本当に大丈夫だろうか……。 ヒビキ、ポロンのこと頼んだぜ」
「うん。正直なところ、虫が相手と思うと既に吐きそうだけど僕、めげないよ!」
「……本当に大丈夫だろうか……」
ニックは出撃前にも関わらず既に顔に疲れが出ていた。
そこに他のパイロット達から声がかかる。
「今回はわたくし達もいますわ。ポロンさんもヒビキさんも安心してくださいませ」
「とはいっても、決定打を与えられるのはヒビキ君だけではあるんだけどね? ま、そこまではしっかりサポートするさ」
テントー2番機と3番機のパイロットであるヒメとヒューイだ。
前回と違い、今度は彼らもいると思うと心強い。
布陣は僕とポロン、ニック・ヒメ・ヒューイのパイロット班3人で女神石を守り抜くことになる。
「さ、出撃だ。行くぜ」
パイロット班がそれぞれの機体の元に向かう。
「勇神様! 頑張ろうね!!」
「だね! 絶対守り抜こう!」
僕は自分の本来の身体にカエルの跳躍力で飛びつく。
服にペタっと張り付くと、魂が同化して、響の視界はいつもの数十倍高くなった。
その時、ある違和感に気付いた。
なんだか胸のあたりにベルトのようなものが付けられている。
ぐるっとたすき掛けされたそのベルトは、丁度心臓付近にカプセルトイの容器のようなクリアな球体が設置されていた。
「なんだ……これ?」
「そいつはね、ポロンを守るコックピットさ」
困惑する響の前に紅い髪の少女が現れた。
「あ! ネイサちゃん! 勇神様! ネイサちゃんは整備班の班長で凄く器用なの!」
「紹介ありがとね、ポロン。で、勇神様……いやヒビキでいいや。あんたも前の戦闘の時みたいに変な恰好で戦いたくはないだろう?」
そういえば、昨日の戦いではポロンにシャツのボタンを開けられてたっけな……。
「そうだね……、じゃあここにポロンが乗り込めるわけだ」
「そういうこと。さ、ポロン行ってきな。くれぐれも無茶はするんじゃないよ」
「ネイサちゃんありがとー! 行ってきまーす!」
ポロンはコックピットのハッチを開けてその中にスポッと入った。
これで準備は完了。
『テントー
『テントー
『テントー
『ポロン・アポロン!』
『カスガ・ヒビキ』
『出撃しますっ!!』
二人の声が重なる。
3匹のテントウムシと共に飛び出した響。
ポロンの巧みな電気捌きで早歩きのような速度を維持して前線へと向かう。
『ザザ……ザ……ザ……あーあー、あれ? これで聞こえているのですか?』
女神の声が魔声機から流れてくる。
しかし、どうやら使い慣れていないようだ。
『大丈夫ッスよ女神様! ちゃんと使えてるッス! いやーしかしこんなのに手間取るとは女神様も意外と遅れてるというか』
『あぁ? 今
『ひぃ!』
絶対にババアとは言ってないと思うが、恐らく本心では気にしてるので、ああやって被害妄想をしてしまうのだろう。
響はジジイになっても、ああはなりたくないなとしみじみと思った。
『コホン、女神ベルンです。戦士たちよ、世界を救うための戦いに身を投じてくれること、心より感謝いたします』
凄い変わり身だ。
電話をとった母さんレベルで声の質から変わっている。
『危険が迫ったときは私のことを想いなさい。必ずや女神の加護で助けようとチャレンジはしてみます』
あ、微妙に逃げ道を作ってる。
これ多分あんまり役に立たないやつだぞ!
『さあ、お行きなさい戦士たちよ! 私に逆らう愚か者の女神を追い払うのです!!』
「勇神様! 女神様の演説、最後ので一気に安っぽい悪者になっちゃったね!」
ポロンが身も蓋もないことを言う。
「うん、まあでもあの女神様、言うほど女神っぽくないから多分あの安っぽさが素なんだと思うよ」
『あと響、あんたの言動は全部把握してるわよ。何しろ私の創造物だからね。女神ペナルティ2点を課します』
「横暴だ!!」
僕のプライバシーがあったもんじゃないぞ!!
謎のペナルティを課されて士気も下がったところで、蟲達の群れが視界に入った。
ダンゴ虫にカマキリ達……昨日と同じ顔ぶれで数だけ増えたような形だ。
「うええ……またあいつらとやるのかぁ……」
虫嫌いの響は早速、士気が最低まで下がろうとしていた。
「大丈夫だよ勇神様! 私に任せて! 勇神様が目を瞑っちゃっても私が操ってその拳で粉砕してみせるから!!」
「それ解決になってなくない!? でも……そうだよね。僕も頑張るって決めたんだ! やるぞ!」
そして緑あふれる平原を舞台に二度目の防衛戦が始まったのだった。
「えいやー!!」
ポロンの電撃が電流となって響の腕から拳に伝わる。。
そのまま、空気を切り裂くようなストレートを目の前のカマキリにお見舞いした。
「ポロン! 左からダンゴ虫が突っ込んできてる! 右に退避しよう!」
「オーケー勇神様!」
『ヒビキさん! 背後からカマキリ二匹が機を狙っています! ここはわたくしとヒューイが引きつけます!』
『テントー3了解! ヒメ機と共に援護に入るよ!』
背後では魔法弾が炸裂する音が聞こえた。
ヒメとヒューイのテントーが囮となって時間を稼いでくれているのだ。
そこにエリトからの司令が飛ぶ。
『パイロット班各位! 救護班が戦場ギリギリで待機してる。魔力切れと機体損傷が起きた時は南南西の大岩に向かうように!』
『了解! テントー1、ニック機。魔力が1/3切った! 一旦補給に向かう!』
戦闘当初から一人で何匹もの蟲達を牽制し続けていたニックが戦線を離脱して補給に向かった。
かなりの数を減らしたので、離脱しても耐えられるという判断だろう。
今回の戦いは今の所間違いなく優勢だ。
昨日と違い、響とポロンが連携をとれているのが一つの要因だろう。
響が広い視界で戦場を俯瞰して情報を処理して、判断をポロンに伝える。
ポロンはそれを頼りに響の操縦に専念。
この役割分担が大成功していたのだ。
そこに味方のチャンスを作りピンチを潰すパイロット班の活躍も相まって、大きな被害もなく戦闘が進められていた。
――――これは結構楽勝なんじゃないか?
響はカマキリとダンゴ虫を粉砕する自分を見ながら思った。
その矢先だった。
「……なたが……ーナの……めちゃくちゃに……」
奥で構えてた他の個体より一回り大きいカマキリから何やら声が聞こえた。
「……勇神様? 今何か聞こえなかった?」
「うん……。女の人の声……かな?」
「あなたがルーナの自動操蟲ちゃん達をめちゃくちゃにしたんですね!!!って言ったんですよ!」
今度ははっきりと聞こえた。
カマキリの眼が紅く光り、そこからホログラムのように少女の姿が写された。
紫の美しい髪を携え、小柄ながら神秘的な雰囲気を持っている。
まさか……この子は……。
「初めまして。私は女神ルーナ。お姉さまの尖兵である貴方達を排除いたします。特にそこの大きい貴方を」
やはりそうだ。
この子は女神様の妹神ルーナ。
この世界を狙う敵の総大将だ。
「あの子、勇神様に凄い熱い視線を送ってる……。わたし、負けないよ。」
「うん。あれは殺気だから、そこは素直に負けておこう」
どうやら蟲達を破壊している僕に特別恨みを抱いているようだ。
姉妹揃って横暴な女神達だ。
『ルーナ!?』
こちらの女神、ベルンにも状況が伝わったようだ。
『ルーナ! 今すぐこんなことやめなさい! 今だったら肩パン一発で許してやるわ!』
「そう言いながら顔に一発ぶち込むのがお姉さまです。もう今更やめませんよ」
ルーナはそう言いながら手を上にかざした。
『この女神力は……! あんた達! 気をつけなさい! ルーナが仕掛けてくるわ!!』
「女神の試練を与えます!! 『
瞬間、紅い眼のカマキリが光に包まれた。
鎌に神通力でも宿ったのか、神秘的な光沢が生まれる。
そして羽根が巨大に、よりシャープとなり、なんと空を自在に飛び始めたのだ。
空でカマキリの刃が煌めいたと思った瞬間だった。
急降下してポロンが居るコクピット目掛けて刃を振り下ろしてきた!
「なっ、はやっ……!」
「きゃっ」
『あぶねえっ!』
横から魔法弾が飛んできてカマキリの刃を僅かに弾く。
「あ痛っ」
結果的には響の脇腹を軽く斬っただけであった。
『ニックさん!? 補給は!?』
『こんな状況だ。途中で戻ってきたに決まってるだろ』
ニックの機転で事なきを得たが、これは……ヤバい。
「勇神様……あのカマキリ、早すぎるかも……。電気が間に合わない」
「うん……。正直、僕も眼が追いついてない」
空を自在に飛び回る女神の加護を受けたカマキリ。
早速、試練の時が訪れようとしていた。
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