同盟結成
「しっかし、女神様同士の世界を賭けた戦争だなんてとんでもねえことに巻き込まれちまったな。ヒビキさんだっけ? あんたも大変だな」
「ヒビキでいいよ。どうも僕たち、年齢的には同じくらいっぽいし。これから宜しくね、ニック」
太陽の光を受けて、青空をバックに軽快に飛翔するテントウムシ。
響とニックは偵察兼交流として、共に手動操蟲テントーに乗り込んで学校周辺を飛び回っていた。
――――僕と女神と妖精が出会った運命の日から一日が経った。
次にまた蟲の化け物達がいつ襲い掛かってくるかは分からない。
今、学校では大急ぎで防衛の準備と作戦の立案を進めている。
その間、僕はこうして女神力を得るためにも交流を深めているというわけだ。
ただ、それを抜きにしても、ニックのことは昨日から親近感を抱いていた。
その理由は……。
「ヒビキはその……大丈夫か? 昨日ポロンの奴が沢山電気浴びせてたろ? あいつは基本良い奴なんだがエキセントリックな所があってな……」
「うん、大丈夫だよ。僕は丈夫な体とめげないハートがセールスポイントなのさ」
「昨日カエルになったばかりなのに平然としてるもんな……。朝飯のときもポロンがべったりで電気漏れてたのに普通に飯食ってたし……」
ニックの言う通り、電撃少女ことポロンは僕に異常な執着を見せていた。
ついでに、あの子は感情が高ぶると電気が漏れはじめるのだ。
僕は朝からほとんどずっと電気を浴びていたが、すっかり慣れてしまっていた。
なんなら微弱な電気なら当たるとちょっと気持ちいいくらいだ。
「ポロンはさぁ」
尚もポロンのことを語ろうとするニック。
うん、これはもう間違いないだろう。
「ニックはさ、ポロンのこと好きでしょ?」
「んなっ!?」
「うわっ! 怖い怖い!! ニック! 落ちてる落ちてる!!」
ニックは動揺したのかテントーの軌道が不規則になり、操縦席がひどく揺れた。
『こちら、テントー
『こちら、テントー
パイロット班の二人から通信が入る。
『こ、こちら、テントー
ニックが膝の上にいる響に釈明するかのような言葉を投げる。
『ヒ、ヒビキ!? な、なんでまた俺がポポポ、ポロンのことをすすすす、好きだなんて!?』
『……通信、つけっぱなしですわよ? というかそんなこと誰でも分か……』
『うわあ! しまった! うるさいぞヒメ! 通信切るぞ!』
テントー2番機のパイロット、ヒメはすっかりと呆れた声だ。
『いやいや、たっだ半日の付き合いで気付いたんだからヒビキは凄いよ。どうだろう? これに関しては面白いエピソードが沢山あるから帰ったら僕と共有しよ……』
『ヒューイ!? お前まじではっ倒すぞ! 通信切るからな!』
テントー3番機のパイロット、ヒューイは面白くて仕方ないといった調子だ。
はぁはぁと息を切らせて通信を切り、高度をどうにか戻したニック。
顔は真っ赤で視線が泳ぎまくっている。
そう、僕が親近感を抱いていたのはこれだ。
昨日からずっと思っていたが、ニックは隙あらば、視線がポロンに移るのだ。
それはまるで如月さんに対する自分を見ているようで……。
勝手ながら、似た者同士と認識していたのだ。
「ご、ごめんごめん! こんなに動揺するとは思わなくて……」
さらっと墜落の危機に瀕してしまったので、謝罪をする。
「いや、俺も取り乱してすまん……。だが何故急に……」
「あ、いやその……何ていうか異世界の住人も僕と同じ悩みを持ってるのかな? って思ったらなんだか嬉しくなっちゃってさ」
「ヒビキと俺が同じ……?」
「うん……実は僕も元の世界ではさ……」
響はニックに元の世界の恋愛事情を話した。
如月という好きな子がいること。
三年間告白し続けようとしてもことごとく邪魔が入ること。
そして、とうとう現世と異世界で離ればなれになってしまったこと。
「……ってわけでさ、僕は絶対にこの戦争を勝ちたいんだ。帰ったら今度こそ告白を成功させる……! そういうわけで、ニックも似たような気持ちがあるのかなって思ったんだけど……ニック……?」
(あんまりこういう話は好きじゃなかったかな……?)
不安になり、ニックの顔を見上げる。
ニックはポロポロと涙を流していた。
「ニ、ニック!?」
「何も言うな!! ……うっ……ひっく……お前さぁ……そんなに好きな子と離ればなれなんてさ……そんなん残酷すぎんだろ……女神よ、彼らに加護を」
「いや、その女神が半分くらいは原因な気もするけど……いや、命の恩人? 恩神ではあるけどさ」
「しかもお前……女神様の加護をその子の為に全部使ったとか……お前は漢だよ……ぐすっ……」
涙を腕で拭ったニックが僕の背中を片手で叩く。
「よし! ヒビキ、俺がお前を元の世界に帰してやるからな!! この天才パイロットに任せとけ!」
たかだか数時間の会話でもう分かってしまった。
ニックはどうしようもないくらいめちゃくちゃ良いヤツだってことが。
「……でさ、告白ってどうやってやるかも教えてくれねえか? その……俺も……卒業前に気持ちを伝えたくて……」
そして、めちゃくちゃ奥手で結構乙女ちっくなヤツだってことも。
「うん! そっちは僕に任せろ! 三年間チャレンジし続けた無敗の極意を伝えるさ!」
「よっしゃ! 同盟成立だな!」
こうして、人間と妖精の不思議な同盟が春の青い空のもとで成立したのだった。
偵察任務もそろそろ終わりかという時間帯、ニックが神妙な声で切り出した。
「そういえばさ……ヒビキは元の世界があるってことは勇神様ってやつではないんだろ?」
勇神様……たしかポロンが事あるごとに僕をそう呼んでいたな。
「もちろん。神でもないし、様付けされるような人間でもないよ」
「そっか……そうだよな。そのこと、ポロンには黙っててやってくれないか?」
「それは構わないけど……どうして?」
「実はな……ポロンが言うあの勇神と勇者の御伽噺……あれはポロンしか知らない物語なんだ。誰も聞いたことがない」
「それはポロンオリジナルの作り話ってこと?」
「いや、どうもポロン本人は昔から知ってるみたいでそれを本気で信じてるんだ。実際あいつだけは電気魔法が使えるみたいだし……」
そういえば、女神様もポロンが放つあの電気のことは知らなかったみたいだったな。
「俺もそれについて軽口くらいは叩くが、昔、本気で否定してあいつを傷つけてしまったことがあってさ……もうあの時みたいな悲しい顔をさせたくないんだ」
どうやら過去に何やらひと悶着あったらしい。
ニックはそれを思い出したのか、軽く溜息をついている。
「分かった。そのくらいはお安い御用さ」
「……ありがとう、ヒビキ」
そろそろ帰ろうと思った矢先、緊急通信が飛んできた。
『こちら、テントー3! 自動操蟲の群れを発見! このペースだと2時間後には学校に辿り着くよ!』
「昨日の今日で、もう来たか……!」
僕は昨日の蟲の化け物を思い出して、背筋が震える。
またあの蟲達と戦わなくちゃいけないのか……。
……でも、今度は『同盟』もいる。
それを思うと力が湧いてくる。
『テントー1! 了解! 全機学校に帰還! 司令班に報告して戦闘に備えろ!』
『『了解!!』』
ニックがそれを告げた瞬間、テントーは高速飛行に入った。
そのスピードに、辺りの景色が溶けてまるで色だけになっているかのような錯覚すら受ける。
「さあ、ヒビキ。俺達『同盟』で勝利を掴むぞ。お互いの大事な人のために……な」
「……! もちろん! 僕も頑張るよ!」
そうして、戦争二日目の戦いが始まろうとしていた。
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