初陣
勇神の力は凄まじかった。
あれだけ巨大な
「す、凄い……! 勇神様はほんっとーに凄い!!」
夢見ていた勇神様と本当に出会えた事実にポロンは興奮を隠しきれなかった。
それと同時に、希望を抱く。
「勇神様となら……あいつらを追い返せるかもしれない……!」
最初に襲われた巨大カマキリがまだあの場から動いてないのが遠目で見える。
ということは、ニックが未だに戦っているに違いない。
彼の性格上、全員の無事が確認できるまで命を懸けて粘り続けるからだ。
「そんなことはさせないよ。みんな揃って卒業するんだ! 勇神様、力を貸して……!」
ポロンは勇神の身体をよじ登り、どうにか勇神の肩まで辿り着く。
そこから見える景色はまさに戦火そのものだった。
校舎の一部の損壊、焼けた森、そして巨大カマキリ達とニックの駆るテントウムシ型の手動操蟲・テントーも見えた。
「良かった! まだ生きてる……! 今行くからね!」
ポロンは勇神にゆっくりと電気を通す。
――――今度は落ち着いて動きをコントロールするんだ……。電気で根を張り巡らせるイメージ……。わたしと勇神様を電気でシンクロさせる……。
右手……動いた……よし。左手……よし。右足……よし。左足……よし!
「ポロン・アポロン! 出撃します!」
自分を奮い立たせるようにいつもパイロット班のみんながやっていた号令を真似する。
そこに呼応するかのように、勇神の咆哮が響き渡る。
「勇神様……
一歩一歩確実に、大地を踏みしめて歩いていく。
歩く度に大地が揺れ、ポロンの身体につま先から頭のてっ辺まで振動が伝わる。
「せっかく出会えたのにいきなり戦いでごめんね……でも、今は力を貸して! わたしは皆を救うんだ!」
巨大カマキリ四匹がニックの駆るテントーに向けて鎌を振る。
だが、テントーは三次元の動きを巧みに活かして、ひらりひらりと躱している。
だがそれも限界に来ていた。
絶え間ない連撃に、一瞬テントーの動きが止まる。
そこに終止符を打つ大鎌が襲い掛かる……。
「させるかああああああああああああああああっ!!!!」
ポロンは走る勇神の勢いそのままに、一匹目のカマキリに蹴りを喰らわす。
圧倒的な破壊力にカマキリは身体をバラバラにして四方八方に飛び散っていった。
残った三匹は無残に散った味方を見て、素早く距離をとる。
「ニック!!! さっきは助けてくれてありがと!! 今度はわたしと勇神様が助けるよ!」
勇神の肩から渾身の大声でテントーに向かって叫ぶ。
どうやら声は届いたらしい。
テントーがこちらに近づいて、ハッチを開けた。
唖然とした顔をしたニックの顔が見える。
「お、お前……、このデカブツは!? 一体全体どうなってるんだ!?」
「いつも話してるでしょ! わたしの勇神様よ!」
「んなっ!? まさかそんなこと……!?」
「失礼な! この通り、以心伝心よ!」
ポロンは勇神に電気を流して、カマキリに向けてファイティングポーズをとる。
それだけで、カマキリ達はたじろいでいるようだった。
「お前……それ……カエル操ってるのと同じ……あばばばばばばば!!」
良く分からないことを言い出したニックを電気で黙らせる。
「で、電気はやめろって! ……それ、本当に動かせるんだな?」
ニックの表情がいつものクラスメイトから戦士の顔に変わる。
「うん!! バッチリ!」
「よし、分かった。護るぞ! 俺達の場所を!」
ニックはそう言うと、魔声機を取り出す。
魔声機は掌サイズの水晶石で、魔声機同士で通話したり、声を拡声したりと非常に便利な代物だ。
ちなみに入学の際に生徒に支給されるものなので、ベルンは持っていない。
『こちらニック! ポロンが勇神を操って参戦した!』
『ニ、ニック!? あのデカいのが勇神? ……被弾で錯乱してるかもしれん! 救護班! 避難先の湖で処置準備しておいてくれ!』
エリトの声がニックの魔声機から聞こえてきた。
結局、彼も避難せずに校舎に残っているようだ。
『俺は正気だ!! いいから聞け! 見た感じ、スペックはポロンの話す御伽噺の勇神とほぼ同じ。巨大カマキリを瞬殺出来た。で、残った敵はカマキリ三匹』
『つまり……?』
『勝てる。エリトは敵の後発隊が居た時に備えて、部隊を再編してくれ』
『……! ……分かった。 皆! 今の聞いてたな!? パイロット班! 司令班! 整備班! 救護班! 全員校舎の作戦準備室に集合だ!』
通信を切ったニックはこちらを見る。
「ポロン、俺とお前と勇神で全部倒すぞ」
ニックは普段はカッコつけてるわりに抜けてる所が多い憎めないタイプだが、こと戦闘に関しては学校設立以来の天才と呼ばれるほどだ。
そのニックがここまで言ったということは勝機が既に見えているのだ。
「まっかせて!!」
「間違いなくあのカマキリ共は、お前を狙ってくる。 俺がカバーするが、お前も比較的安全な場所から操縦するんだ」
言われてみれば、カマキリ達の視線がわたしに集まってるような気がする。
ここまでのやり取りを観察してポロンが勇神の操縦者と認識したのだろう。
ポロンは勇神の衣服と身体の隙間にスッポリと収まる。
おそらく勇神の胸のあたりのボタンを外してそこから顔と上半身を出す。
「あっ……。ここ、勇神様の鼓動が聞こえる……。やだ……全身に響いて……」
「ポ、ポロン!! 妙な事を言ってないで集中しろ! 来るぞ!」
ニックはテントーのハッチを閉めて急発進をする。
目の前のカマキリ二匹が左右に別れて襲い掛かってきたのだ。
俊敏な動きで、間合いを詰めてくる二匹。
振り上げた鎌が戦火の炎を受けて紅く煌めく。
「もっかい。蹴っ飛ばしてやるんだから!!」
勇神の脚に電気を流す。
左右から迫るカマキリを薙ぎ払うように身体を90°回転させて右足を振り抜く!
だが、はじけ飛んだのは右の一匹だけ。
左は躱して尚も迫っていた。
そして鎌を振り上げて勇神の左足を刈ろうとしていた。
軸足を刈り取られれば、勇神は転倒をしてベルンは放り出されるだろう。
思ったよりも自動操虫達は、戦略的に動ける個体らしい。
『させるかよっ!!』
そこに空高く飛んでいたニックが急降下してテントーによる射撃を加える。
魔法弾を集中的に与えられた鎌はグラついて、空を切った。
「ありがとニック! えいやー!!」
勇神の拳を地面に向けて降り放つ! 大地と拳に挟まれたカマキリは無残にぺしゃんこになった。
最後の一匹は敵わないと見るや、飛び去ろうとしている。
『ちっ、情報を持ち帰らせたくなかったが……。……ポロン? 何してるんだ?』
――――絶対護る! 皆を笑顔で卒業させる! 邪魔する奴は許さない!
御伽噺の勇神様はこんな時、どうしてたか、わたしには全部分かるんだから!!
「アレで行くよ勇神様!! 電流集中! ブレイブー……ナッコォォォォゥ!!!!」
電気を足・腰・腕に集中! 足で踏ん張り、腰を回転させ、右腕で
その掌は空気を弾き、飛び去ったカマキリにとんでもない圧力を加えて破壊した。
「やったーーーー!!!! 勇神様大好き! これでわたし達の」
『はは……は……。とんでもねえな……。だが……! これで俺達の』
「「勝ちだーーーーーーーーっ!!!!!」」
軽やかに空を飛ぶテントーのハッチを開けてこちらにサムズアップするニック。
ポロンはそれに渾身の笑顔とVサインで応える。
この後知ることになる戦争の始まり、初戦はわたし達の勝利だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます