第13話

紅茶の匂いに鼻腔をくすぐられ目を覚ますと、優雅に紅茶を嗜むアリアさんが視界に写った。ん?目を覚ました?僕は眠っていたのか?

「よう、少年。ようやく目が覚めたか。その感じだと昼間も目を覚ましてはいないみたいだな。」

混乱している僕を見てアリアさんが優しく微笑みかけた。昼間も目を覚ましていない?そんなに長く眠っていたのか?そもそも僕はいつ眠ったんだ?

「すみません。記憶が曖昧でアリアさん達から僕の過去を少し話してもらったところまでは覚えているんですが。」

「辛いことを思い出し、アタシの言葉を聞いた少年は泣き始めてしまった。アタシも爺さんも反省してとりあえず話を打ち切ることにした。しかし、少年にはまだ伝えたいこともあるし、このまま元の社会に戻っても辛いだろうからとアタシの持つ拠点の1つに隠れている。と言うのが今の状況だ。」

「?隠れているって何からですか?」

「1つは太陽から。アタシは日光には当たる訳には行かないし、少年も恐らくそろそろ吸血鬼としての特性が現れ出す頃だろうとおもってアタシと行動してもらうことにした。そして、もう1つは爺さん達亜人からだ。」

「亜人から身を隠してる?アリアさんも亜人でシャロンさんや他の亜人と行動してるんじゃないんですか?」

「少年に出会うまではそうだった。アタシも少年と同じように人生のドン底にいる時に爺さんが来てアタシの命を救った。アタシの辛さは亜人によって生み出された辛さだ。アタシが苦しむことじゃない。そう言ってアタシを掬いあげた爺さんに昨日まではついて行っていた。でも、事情が変わった。アタシが爺さんについて行き、爺さんに協力する理由が無くなった。昨日の今日で混乱するだろうが少年、君とアタシは亜人じゃない。」

「でも、人間でもないですよね。」

「あぁ。何となく感じていたか?」

「はい。シャロンさんはこれまで出逢ってきた人たちとは違う何かを感じました。人ではないナニカだと肌で感じました。そしてそれはアリアさんも同じだと思ってました。少し似てたから。個人差のようなものだと思ってましたけど、明確に違ったと今なら言えます。アリアさんは僕とほぼ同じ存在ですよね。」

「そこまで気づいていたのか。」

アリアさんが不敵に微笑んだ。

「生きている中で自分と他人が異なるものだと言うのは感じていました。でもそれは所詮自分ではない存在との差だと思っていました。でもそれが違うと昨日のシャロンさんを見て気づき、今の僕とアリアさんがほぼ同じ雰囲気であることからも、僕達はシャロンさん、つまり亜人とも、これまで出逢ってきた人間とも違う存在だと気づきました。」

「アタシも長年抱いていた疑問が少年に会って解決した。腐るほどいる人間とも、爺さんが保護していった亜人ともアタシは違う気がしてた。そしてそれが昨日の確信に変わった。アタシと少年は人間でも亜人でもない。正真正銘、純度100パーセントの妖だ。」

「やっぱりそうなんですね。」

「それを踏まえた上で今後少年はどうしたい?爺さん達のように亜人を人間の迫害から守りつつ共存していける社会を作るのか。アタシや少年と同じように虐げられてきた者たちの復讐として人間達に報復するのか。はたまた何か別の道をアタシ達の手で作り出していくのか。選択肢はいくらでもある。」

「アリアさんはどうしたいんですか?」

「アタシは少年の力になりたい。少年が選ぶ道を共に歩むよ。」

「...分かりました。ひとまず昨日?僕の意識が無くならなければ続けられていた話を聞かせて貰えますか?判断はその後下したいと思います。それと僕を後押ししてくれるのはとても嬉しいです。でも、僕はアリアさんの意思も知りたい。アリアさんが本当はどうしたいのか、知りたいです。昨日アリアさんは僕に自分の心に嘘をつくなと言ってくれました。僕の手助けをする事はアリアさんにとって嘘では無いのかもしれません。でも、アリアさん自身がどうしたいのかも教えて貰えませんか。」

「...分かったよ。だからその曇の無い目でアタシを見つめるのをやめてくれ。」

「照れてるんですか?」

「照れてないさ。慣れてないだけだ。」

「そういうことにしておきますよ。」

「急に偉そうになったな。そんな少年に恥ずかしい話をしてやるよ。昨日泣いてしまった少年はアタシの胸に縋り付いてきたんだぞ?そしてそのまま泣き疲れて眠ってしまった。あたしの胸の中でね。」

「なっ!?分かりました。すいませんでした。僕の負けです。」

「それでいい。では、話そうか少年の過去について。」

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