第8話

この人話長いな!

ここまで聞いた率直な感想だった。僕に理解させるためだろうけど順を追って全て説明しているせいで話がごちゃごちゃしていた。後半は話が右から入って左から抜けていくように頭に入ってこなかった。

「ん、理解が追いつかんと言う顔をしているね。」

感情がそのまま顔に出てしまっていたようでシャロンさんが少し微笑んだ。

「確かに亜人の歴史の様なものを丸々君に話しても混乱させてしまうだけだね。私の長い話を整理しておくと、亜人が生まれてしばらくして亜人の総数が増えて行った。同時に亜人の特殊な出生のメカニズムによって亜人を産んだ母親が死に、子を残した亜人もまた命を落としている。それによって現在の人口に対する亜人の割合が高くなった、ということだ。」

要約してくれたおかげで理解が追いついた。読書を続けていたことで文章の理解力は高まっていると思っていたけど、口頭で伝えられると存外頭に入らないのだなと改めて感じさせられた。

「亜人が生まれたこと、その亜人が増えたことで僕に何か影響があるんですか?まぁ、あるから話したんでしょうけれど。」

長い話の中で全然僕の話題にならないことでついにしびれを切らして聞いてしまった。

「当然辿り着く疑問だね。君の想像通り君と亜人は深く関わっている。しかし、もう少しだけ亜人について語らせて貰えないか?」

「…わかりました。亜人について知ることが僕自身を知ることに繋がると思っていていいんですよね?」

「あぁ、そうだ。話が長くなってしまってすまないね。だがもう少しで君についても話せる。」

「なら聞かせてください。」

「ありがとう。アリアも悪いな。もう少しの辛抱だ。」

話を振られたアリアさんは渋々と言った感じで頷きながら話の続きを促すようにシャロンさんを見た。

「さて、では再開しよう。ここまで聞いて君は疑問を持たなかったか?亜人が生まれることは予測できない。前兆は無いからね。しかし、亜人が子を残すことはリスクのある事だと分かっているにもかかわらず子を産む亜人がいるのは何故なのかとね。」

言われてみれば確かにそうだった。

「もちろん私のようにみんなが皆何百年も生きられる存在ではないけれど、それでも亜人は人間と比べれば長い寿命を持っている。にもかかわらず子孫を残していくのはもうひとつの亜人の特性にある。それは相手の感情を強くするという特性だ。プラスの感情もマイナスの感情も人が人に抱くものよりも強いものが亜人には向けられるし、亜人自身も人に強い感情を持つ。それは対人間にもそうだが、対亜人にも同じように起こる。これが子を残すこととなんの関わりがあるかと言うと、簡単に言えば物凄い勢いの一目惚れが起きるということだ。初めに強い感情を抱いてしまうとなかなかその気持ちが変わらないのは人間も、亜人も同じ。もちろん反りが合わない人間とはとことん合わないが、その分好き合う気持ちが強くなることも起こる。結果亜人も子を残すのは昔から変わらず今も起きていると言うことだ。一目惚れごときで大袈裟なと思うかもしれないがそれほどまでに強い感情が起こるのだということを今は理解して欲しい。そしてここから一気に君の話になる。500年ほどというそこそこ長い歴史の中で亜人同士が子を残した例が2回だけある。亜人同士の契りが起きづらいのは互いに同情し合い、助け合おうという仲間意識が強くなりやすかったからだ。それでも例外はある。その2回、つまり生まれた2人は少々特殊なことになっている。その2人というのが君とそこのアリアだ。」

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