第5話
そこからさらに一年、つまり働き始めて2年ほどしてついに限界を迎えることになった。心身ともに疲れ切りいつ倒れてもおかしく無いといったような状態になった僕はついに決断をした。終わらせようと。この不条理で不平等な世界で生きていても傷つくだけで、辛いだけで何一つ得るものなんてないのだとようやく見切りをつけて自ら命を絶つことにした。
僕が命を絶ったところで恐らく里親は何も思わないだろうし、一日のニュースのネタになるかすら分からない。強いていえば労働環境について勤めていた会社が調査されて困るかどうかと言ったところだろう。僕はそう思って、せめてそうあって欲しくて訴えかけるように工事現場で命を絶つことにした。
仕事中に自由に行動なんて出来ないから夜の内に決行することにした。幸いと言えるのか働いていたからこそ見つけられたような工事現場の穴をついて忍び込んだ。工事現場の一番高いところに登り、一度街を見回した。僕がいようがいまいが明日も変わらず世界は動いていくんだろうななんてことを思いながらついに死のうとした時、その声は空から降りてきた。
「やぁ、少年。酷い顔だな」
その人はどこか不気味でだけどどこか魅力的な笑みを湛えた不思議と目を奪われてしまうような女性だった。
「助けてやろうか。そのどん底のような人生からアタシが救いあげてやろうか。」
彼女は明るい大きな満月を背に高らかと僕に告げた。
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