第1話
この世界は間違っている。何か一つが間違っているのではない。何もかもが、全てが間違っているのだ。
生まれた瞬間からほぼ全てのことが決まってしまう。お金持ちの家に生まれれば将来は安泰だし、貧乏な家に生まれれば今日を生きていくために必死にならなければならない。
社会はお金持ちに迎合するように回っていて、貧しい人たちを表面上ですら心配しない人がほとんど。
貧しい人たちに声をかける人はいても、その大半は醜い物を貶すような下に見た言葉ばかりで数少ない助けになりたいと言う声も安全な場所から快適な生活を送っている人が言っていては説得力の欠片も無い。
僕は金銭の面だけで言えば中間くらいの家に生まれた。しかし、僕を産んだ直後母は亡くなってしまった。最愛の人を失った父はその後を追うように自ら命を絶った。
生まれてすぐ両親を亡くした僕は親戚に引き取られるはずだった。しかし災難は続いた。両親は駆け落ちをして僕を産んでいた。両家ともに結婚を認めていなかった為、僕を引き取ろうという親族は1人もおらず、施設に引き取られることになった。
引き取られた先の施設で僕は5歳になるまで育った。その間僕は友達を作ることが出来なかった。同じような境遇の子供達が集められたはずのその施設で僕は虐げられた。1番威張っていた男の子が僕を気に入らなかった。それは恐らく僕の容姿が整っていたから。赤ちゃんの頃は周りと大差は無かったはずだけど3歳になる頃にはその片鱗が覗いていた。
特殊な環境だからこそ精神の成熟が早かったことが災いし、施設内の女の子達がこぞって僕を可愛がった。それが気に食わなかった威張っていた男の子が僕と接することを許さなかった。その子は暴力でその施設を支配していた。自分の言うことを聞かない子にすぐに手を上げる。子供の世界はそれだけのことで十分に支配できてしまう。施設の大人たちも怒りはするけれど所詮は他人で親が向けるほどの愛情はなく、それゆえにその怒りも大して響きはしない。結果その男の子の思うように世界は回っていた。
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