第五話 訪問
会計を済ませて宇城の行く道をそのまま着いて行くと、たどり着いたのは駅から近所にあるマンションだった。思っていたよりも近所だった為に、僕はちょっと驚いた。宇城はこちらを振り返り、
「エレベーターで行こう、4階は高いから」
と言った。マンション自体5階建てなので、ほぼ最上階に住んでいる事になる。エレベーターを降り、宇城はひとつひとつ部屋の番号を確認しながら、404号室の前で足を止めた。ポケットから鍵を取り出し、扉を開けて僕を中に招き入れた。部屋の中は数々の新聞記事や小難しそうな本、伝承を記した本等様々な物で散乱していたが、不思議と汚さを感じず、むしろ一定に整頓されているようにも感じた。
「やぁ散らかっていてすまない、資料を探すから座れるところに適当に座ってくれ」
という宇城の言葉を受け、椅子らしき物も無いので「失礼します」と一言かけてから地面に座った。宇城はそこらじゅうに散らばった資料を無作為に取り、あれでもないこれでもないと某ネコ型ロボットのような事を呟きながら右往左往して、最終的に何かを思い出したかのように、あ~と何か納得をしたように本棚の上に積まれていた資料をまとめて持ち上げて、僕の座る場所の前にドンと置いた。
「これが俺が独自のルートから集めた狐面についての資料だ。中には関係の無い物もあるんだろうが、それはまだ調査中といった状況なんだ」
と言いながらその山から紙を一枚抜き取り、僕の前に置いた。その紙には、日本各地で取り扱われる狐面の事がまとめられており、それぞれにある特色もしっかりと書かれていた。
「まぁ一応聞いておきたいんだが、この中に狐面が付けてた物は無いか?」
と言われても…僕もお面が見えたのは一瞬の事だったしそんなにまじまじと見た訳でもないので、どのお面も同じにしか見えなかった。暫くまじまじと見ている僕に対して、
「まぁそうだよなぁ、そんな時に相手の顔、ましてやお面の詳細なんて逐一見て覚えたりはしないよなぁ」
と少し落胆しながら話す宇城は続けてこう質問した。
「ならば、せめてその形だけでも覚えてないか?お面とは言え、マスカレードにつけていくような目元を隠す物だったり、顔全体を隠したり、鼻先が尖ってたり、尖ってなかったりあるだろ?」
「それならまぁ少し覚えています、顔全体を覆い隠していて恐らく鼻先は尖っていたかと、この中だと…これが一番近かったかなぁ」
と言いながら京都稲荷神社の面を指さした。絶対にこれとは言い切れないが、他のものと比べると質感が近く感じたのだった。
「これか、質問だがなぜこれが一番近く感じた?」
「何と言うか、他に例で挙げられている物よりも暖かみと言うか、表面の凸凹感があったなぁと思って、すみませんこんなよくわからない感覚で語っちゃって」
「いや、案外いい情報かもしれないな…」
宇城の目は大きな獲物を目の前にした獣のように鋭くなっていた。
「このお面だが、張り子でできている。昔はもちろんこれが主流だったが、昨今ではプラスチック製がお土産で販売されているからそもそも頭数が減っているし、職人も確か少なくなっているはずだ。…ふむ…なるほど…張り子の面かぁ…」
そう言うと宇城は再び本棚に向かい、少し乱雑に資料を数枚引き抜き始めたのだった。
奇々怪々 五十嵐 雄魔 @tukiyoridanngo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。奇々怪々の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます