第三話 釈義
その後の授業はまるで身につかなかった。朝の経験はもしかすると夢で今も僕は自室のベッドで眠っているんじゃなかろうか、そう考えては自分の手の甲をつまんでその痛みを感じた。
名刺から宇城の事もネットで調べてみたが、出てくるのは宇城の名義で書かれた数々のうさん臭い記事であり、どうやら雑誌に掲載されているのも本当らしい。記事の内容は、メジャーな花子さんなどに混ざって聞いたことがないような妖怪の名前まで見受けられた。記事の内容自体は作り物のような感じがするのだが、その内容は様々な文献を参照し、時に科学的に、時にこじつけ臭くまとめられており、ライターとしての手腕がうかがい知れた。
今朝の体験の話は元々するつもりではあったが、相手がこういう物を調べている人であるなら、あの影が一体何なのかやあの狐面の女性は何者なのかも少しばかりならわかるのではないかと思い、講義が終わると僕の足はいの一番に喫茶店へと向かっていた。
授業が一時間目しか無かった為、喫茶店には仕事の休憩中のサラリーマンが多く居た。ウっと周りを見渡すと、宇城は窓際の入り口から一番奥のテーブル席に座りアイスコーヒー片手にパソコンに何かを猛烈な勢いで打ち込んでいた。入ってきたときのドアベルの音に気が付いていたのか少しの間タイピングを続けた後にふと顔を上げてこちらの存在に気が付いたようだった。手を挙げて存在をアピールする宇城の元へ向かい、宇城の対面となる位置に座った。
「来てくれてありがとう、まぁなんだここは奢るから何でも頼んでくれ」
そう言うとメニュー表をこちらに差し出してきた。僕が店員にアイスコーヒーをオーダーした後、宇城は続けて質問を始めた。
「さて、まずは今朝の事をできるだけ細かく教えてくれるかな」
その質問に対して、僕はできるだけ覚えている事、感じた事を説明した。宇城はその話を聞きながら恐らくその内容をパソコンでまとめている様だった。一通り話し終わると、途中で届いたアイスコーヒーを一口含んで一息ついた。
「なるほどね…」
宇城はこの話を聞き終わると、少し納得したような表情を見せ、幾つかの新聞記事を取り出した。内容は、最近よくあった行方不明事件のものだった。一体何だと考えていると。
「これは、君が出会った「影」と同じ奴が関係している事件だと俺は考えている」
そう言うと、新たに一つ資料を取り出し、その資料を指しながら説明を始める。
「これはこの辺一帯の地図だ。赤くマルを着けたところがさっきの新聞に書かれていた行方不明事件の被害者が最後に目撃された場所になる」
あまり気にしていなかったが、赤丸は僕の住んでいる地域からそう遠くない地域で頻発していたらしい。
「更に、その失踪事件が起こる数日前に君の言う「影」の目撃情報が半径2kmで起こっている、一部事件ではその目撃情報が無いのだが、その周囲が元々人通りの少ない道路であるから、実際には出現していたのではないかと俺は考えている」
うんうんと聞く僕に宇城は続けて言う。
「2日前、君の学校の校門で「影」を見たというネット投稿があった。その投稿を見かけたから、俺は近く影が出るのではないかと考えあの辺りで張っていたんだ。でも君は運が良かった。もしあの狐面が来ていなければ君はもう少しでこの世から消えていたかもしれないという事だ」
背筋が凍った確かにあの影には明確に僕を取り込もうとする動きがあった。まるで捕食者が獲物を狩るように、またその肉をじっくりと味わうようにゆっくりじっくりと僕の事をあの「影」は取り込んでいたのだと納得ができたからだった。
「ちなみにあの狐面は何か言っていたか?」
宇城はそう聞いてきた。僕はその時のことをできるだけ思い出しながら
「あの時は動揺していたのもあってあまり記憶が残ってないんですが、恐らく一言も言葉は発していなかったと思います」
と答えた。宇城もそう答えが飛んでくるのは分かっていたように両手を机の上で組んだ。
「そうか、じゃあ彼女の事も話していくとしようか」
宇城はまた更に厚い紙の束を取り出して、狐面の女性の話を始めた。
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