目が覚めたら トモキ視点
意識が浮上する感覚と、鈍い頭の痛みを同時感じた。かすむ目をこすって次の瞬間飛び起きた。
ここはどこだ。
単身者向けのワンルームに布団が2枚敷かれていて、その片方にオレは寝ていた。隣の布団に人はいない。
周囲を見渡す。家具や置かれたものや服からこの部屋は男性が住んでいるように思われた。
痛む頭を抱えて昨夜を必死で思い出す。
メグミと別れたあと、メグミの姉らしき人についていって……飲みすぎたのだ。
「あ、起きたか」
声がした方を向く。整った顔立ちの男が、ソファーに座って本を読んでいた。サイドテーブルにはコーヒー。香ばしい香りがこちらに流れてくる。
昨日あった男だ。確か名前は、結城リュウタ。
「荷物、枕元においてある。なにも触ってないけど、一応確認してくれるか?」
リュウタの指差したほうを見ると、オレの鞄が少し寂しそうにこちらを見ていた。
慌てて中を確認する。カバンの中に入っていた物、財布の中身、スマートフォンでクレジットカードの利用履歴も一応確認する。
「大丈夫そうか?」
危機管理がしっかりしてるのかしてないのか、と笑いながらコーヒーを飲むリュウタ。いたたまれない気持ちで頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました」
「あぁ、問題ないよ。付き合ってもらったのは俺たちだし」
朗らかに笑うリュウタに恐縮しながら何度も頭を下げる。
「いいって、止められなかったのも俺たちだからな。さて、今は8時過ぎだけど、予定とかあるのか?」
「今日は大学だけです。時間も間に合います」
「じゃあ、軽く朝飯食べるか。そういえばここの最寄りは菖蒲名駅だけど、家はどの辺だ?」
「あ、え? 最寄り菖蒲名です。3丁目」
「あぁ、西口の向こうだな。こっちは東口の方だ、菖蒲病院の方」
「ご近所さんだったんですね」
頭に駅周辺の地図を思い浮かべながら答える。おそらく歩いて10分もかからないだろう。
「そうだな、よかった。遠かったりしたら申し訳なかったからな」
リュウタはそう言ってソファーから立ち上がった。
「朝飯、外に行ってもいいか? 近所のカフェのモーニング気になってたんだ」
そう言ってはにかむリュウタにうっかりキュンとしそうになって、あわてて首を縦に大きく振ることでごまかした。
「じゃあ、準備できたら行こう」
リュウタに連れていかれたのは駅前のパン屋に併設されたカフェだった。モーニングにパンの食べ放題をしているらしく、月曜の朝にもかかわらず学生や主婦で賑わっていた。白を基調とした女性向けの外観に男二人で入るのはすこし厳しくないかとリュウタさんをみる。リュウタさんは気にする様子もなく、ここ二人以上じゃないと入れないんだと笑っていて、オレは覚悟を決めた。
「うま……」
たくさんの種類のパンが並べられたワゴンから取ってきたクロワッサンを一口食べて、思わず言葉をこぼしたオレをみてリュウタさんが頷く。
「だろ? 隣の店舗で時々買うんだが、カフェだと焼きたて食べれるって聞いて来たかったんだよ。ミサト誘ったんだけどあいつ朝弱くてな」
「そうなんですか」
ミサト、昨日あったメグミの姉と言っていた人だ。顔も似ていたし、二人で撮った写真も見せてもらったから、間違いないとは思うが、リュウタを含めて余りにも怪しい人たちだ。
「怪しいよなー」
顔に出ていたらしい、リュウタが人の悪そうな顔でこちらを見ていた。
「いや……」
「俺らも怪しいよなって思ってるから大丈夫だ。ネタばらしはいつもオレの担当だから」
「ネタばらし?」
「そう、まずこの本知ってるか?」
怪訝な顔が隠せずにおそらく相当嫌な顔をしていたオレに、リュウタが一冊に本を手渡してきた。タイトルは「極彩色の感情と桜色の君」確か、去年に映画化された恋愛小説だ。作者はツジミ サト。
「ミサトはな、恋愛小説家なんだ」
何の話が始まるんだ。オレは本とリュウタを交互にみて首を傾げた。
周囲の声がやけに大きく聞こえる。
「すこし、俺の失恋話に付き合ってくれないか?」
リュウタがそういってティーポットできた紅茶のおかわりを注ぐ。
オレは黙って頷いた。
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