恋心を聞いた

「メグミちゃんは、憧れだったんです」


 トモキはそう言って愛おしそうに笑う。


「オレの一歩先、二歩先を進んでて、追いつかないとって思っていたんです」


 ライバル意識がいつのまにか恋心に変わった。トモキは絵に対してとても貪欲らしい。その分、恋に関してはなかなかうまくできない、そういうタイプのようだった。


 酒をあおりながら思いを語るトモキはだんだんテンションが高くなっている。そろそろ止めるかと、リュウタと目を合わせるより早くトモキは床に伏せてしまった。


「やっぱり……好きなんですよ」


 酔っ払ったトモキが船をこぎながらうわごとのように繰り返す。飲みすぎだ。


「やっちまったな」


 おなじことを考えていたリュウタがお冷やの入ったグラスをトモキにわたす。語りに聞き入ってしまい止めに入るのが遅れてしまった。


「終電もうそろそろだぞ」


「そうね、お会計して来る」


 財布をもって席を立つ。こういうときのご飯代はいつも私が出していた。リュウタがすべて払わせるのは気持ちが悪いと言い張って、ターゲット接触前の必要経費はリュウタが持ってくれている。


 支払いを終えて席に戻ると、ほぼ眠ってしまっているトモキの肩を軽く叩いているリュウタに声をかける。


「トモキくんどう?」


「無理そうだな。うち連れていく」


「そうね、ここから近いし」


 私の返事を聞いてリュウタはトモキを担ぐ。私は二人分の荷物も持った。


 店を出てひんやりとした風で酔いを覚ましながら歩く。


「どうだ? 今回は」


 リュウタがこちらを見ずに言った。


「いいのがかけそうよ」


 私もリュウタの方を見ることなく答える。


「そうか」


 リュウタの家の最寄り駅はここから3駅、私はその一駅先だ。終電一本前に乗ることができて、トモキを座席に座らせる。


「いつ書き上がるんだ」


「来週にはあらかた書き上げたいわね」


 書き上がったらまた持っていく。そう続けると、リュウタは黙って頷いた。


 互いに黙ってしまって、何の気なしに外を見る。車窓が鏡の様になって私たちが写っていた。


 今日のトモキの話を振り返る。出会いから、好きになるまで。好きになってから初めて二人で出かけた時のこと。積み重ねていった思い。


 いいものがかけそうだ。


 電車内のアナウンスがリュウタの家の最寄り駅への到着を告げる。


「じゃあ、またな。下りそこねるなよ」


 リュウタはそう言って電車を下りていった。確かに、前に話を練るのに夢中になって3駅ほど乗り過ごしたことがあったが、そうなんども同じことを繰り返すわけがない。


 リュウタに背負われたトモキの後ろ姿を車窓越しに見た。彼にもし妹が恋に落ちたなら、どんなストーリーが待っていただろう。


 さぁ、今日も私は、妹のあるかもしれなかった未来を夢見て、小説を書くのだ。

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