身勝手な悪魔
身体は軽く水面を駆ける様に足を出す。
それだけの事なのに急激に加速する視界。
足を止める、手を止める。
その静止の瞬間は命取りだ。
目まぐるしく移り変わる視界の端を対となる剣が俺を襲う。
銀線が走り毛先を撫でる。
デタラメと思う剣筋は的確に急所を抉る。
【1】
刀を差し出せばロイヤルは腕を切らせながら俺の懐に剣を向ける。
刀の柄を押し手を離しながらポンっと浮かす。
軽く跳躍しながら刀を取り上げると通り過ぎた剣を真下に見下ろし刀を真上から振り下ろす。
キンっと剣と刀の鍔迫り合い。
ドンっと鈍い音を放ちながら押し負ける。
空をひるがえし地面を蹴るとロイヤルの首に刀を向ける。
一つの剣で刀を弾きもう一つの剣で俺の身体を切り裂く。
攻防の対の剣。
一歩下がり皮一枚という所で回避する。
これだけ打ち合えば魔物の剣とは違いプレイヤーの剣は破損する。
前にロイヤルと戦った時は剣は幾重にも破損し剣をアイテムボックスから出しながら戦っていた。
この刀はその心配がないだけマシかと思うが攻撃力が圧倒的に足りてない。
これだけの強者をクリティカル狙いで勝つ事は不可能だろう。
魔物の化け物じみた体力を考えれば【1】与え続けて勝つ方法も何日かかるか分からない。
四重奏のエンチャントを展開しながら何日も戦う集中力は俺にはない。
指先の神経だけでも疲労を見せればこの均衡状態は崩れかねないのだ。
俺の限界もそろそろ超え時かも知れない。
今のままではジリ貧だ。
絶対なる攻撃力が今の俺には必要で武器依存の抜け道は確かにある。
ただ失敗の二文字がチラつく。
一対一。
俺のこだわりをロイヤルは知ってはいないだろうが。
一対一ではどうしても俺は負けられない。
負ければ俺ではいられない。
ソロの誓いは胸に深く切り刻まれている。
トンっとロイヤルから距離を取る。
刀を地面に差し両手を刀の柄に置いた。
ロイヤルは驚きと共に笑みを見せる。
目を瞑りスゥハァと深呼吸をして理由を探す。
【なぜお前は負けられないんだ】
自問する声に耳を傾けるがこんなに必死になるほど俺は戦闘狂でもない。
だが明確に答えはある。
『誰であろうと俺より強い奴は気に食わない』
考えてみれば酷く身勝手な俺の極意だなと肩の力が抜けていく。
口角を歪ませロイヤルを見る。
踏みしめた地面の感触。
加速した世界で鬱陶しくもある空気を触れる感触。
研ぎ澄まされる程にスローモーションはより濃く、より深く。
より遅く。
息を吐く度に熱く鼓動が高鳴る。
羽のように軽い刀はシックリと手に馴染み、吸い付いているようにすら感じた。
先程までチラついた不安は消え去り。
今は失敗する気が起きない。
キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキン。
キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキン。
煩いぐらい鳴り響くキャンセル音は一度たりとも失敗はない。
耳に届いたキャンセルは一体いつのものなのか。
その場を一歩も動かずにキャンセル音だけ加速する。
「おい、ロイヤル。今倒しとかないと後悔するぞ?」
「私はシンの全力と戦いたいのだ。そんな無粋な真似が出来ると思うか?」
キンっと魔法が成立する。
『五重奏
纏う蒼い炎はより濃く、纏う風は濁り、纏う雷は黒く変貌し荒々しく駆け巡る。
魔法が成立した瞬間から俺の体力ゲージはガリガリと削れていく。
エンチャントの重ねがけの限界は超えている。
『ほら、来いよ』
地面に刀を突き刺したままロイヤルを挑発する。
ロイヤルの姿はブレる。
【1】
時間を置き去りにして言うなれば何時の間にか。
何時の間にかロイヤルの姿が消えていくのを見ながら当たり前のように告げる。
『悪いな、力加減は出来ないんだ』
赤く点滅し出した体力ゲージを見ながら俺はエンチャントを解いた。
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