死闘の末の死闘






 向かい合う。


 それだけの事なのに刀の握りを何度も確認する。


 ガッと地面が爆ぜる。


 ロイヤルの姿は確認出来ず俺は横にキンっとキャンセル音を鳴らしながらズレる。


 振りかぶられた剣を前にロイヤルと目が合う。


 俺の立つ地面に抉るような剣、その剣は下からも殺意を持って振られる。


 キャンセルを駆使し後ろに下がる。


 ロイヤルは剣を下に構え、ガガっと剣先で地面を割りながら俺との距離を詰めてくる。


 プレイヤーならキャンセルで瞬間的な速さを手に入れるが、ロイヤルは身体能力だけでそれを可能にする。


 キン、キン。


 キャンセルの時間がここまで待ち遠しいと感じる事はない。


 クールタイムのような静止の時間。


 ロイヤルの剣は俺の胸を掠め通り過ぎる。


 だがそれでも止まらない。


 スキルを使わない魔物にはクールタイムが存在しない。


 乱舞のように振り続けられる絶対の攻撃。


 キャンセルを駆使しギリギリの所で躱すのが精一杯だ。


 だがコチラも攻撃しないと終わらない。


 刀を差し出すとロイヤルはそれを剣で弾く。


 力負けしている俺は弾かれた衝撃で止まることなく地面を滑る。


 衝撃を吸収しきれなくなり軽く跳ねてクルンと片手をつき後ろに回転すると獣のように手を地面に置きながらやっとの事で静止する。


 ガクガクと刀が受けた衝撃が手や腕に伝わり痺れる。


 ピキンと詠唱が完了して目を見張るのは既に振り下ろされる剣。


 俺の纏う炎にビリビリと電撃が走り、周りの景色は一段と加速する。


 キンっと音だけを残しロイヤルの剣を横に避け体制を立て直す。


 先程まで見えなかったロイヤルの姿はボヤけ徐々に追いついている自覚をしながら刀をロイヤルの首に目掛けて振ると幻影のように消える。


 まだ捉えきれては無いのかと不意に視界の端から現れた剣を見ながら寸前でキャンセルをして後方に緊急回避。


 エンチャントを二回付与しても追い付かないのはどういうパワーバランスをしてるんだと悪態を付かずにはいられない。


 プレイヤーの攻撃力は武器依存。


 俺にロイヤルの剣と真っ向から撃ち合う力は存在しない。


 剣を避け刀を振り抜く。


 俺とロイヤルの剣はどちらも空を切るが風圧だけで圧倒される。


 重力を生むように剣に吸い込まれる感覚は何度体験しても奇妙な物だ。


 ロイヤルの剣を避けた瞬間にキンキンとキャンセル音が止まる。


 突如として俺の不可解な行動に一瞬ロイヤルが立ち止まった。


 刀をゆっくりと動かすとロイヤルが刀を見つめるのを確認しながらパッと真上に放り投げた。


 ロイヤルの驚愕とは裏腹に俺はニヤリと口角を歪ませる。


 三重奏のクールタイムが成立する。


 風が俺の身体を通り過ぎ纏う炎は巻き上がる。


 ロイヤルはハッとなり剣を振り抜くと俺は一歩後ろに下がり構える。


 通り過ぎていく剣を目で追いながら手を差し出すように振るう。


 何事も無く手元に戻った刀は既に力を持った形でロイヤルに向かった。


 初めてロイヤルが回避の姿勢を見せる。


 両手の剣を片手に持ち変えて仰け反る形で刀を回避する。


 刀がロイヤルの懐を掠ると片手の剣を振り抜き距離を取った。


 やっと追い付いた。


 ブレていたロイヤルの身体は今では鮮明に追える。


 だが油断ならない相手だと気を抜かず一息で距離を詰めた。


 刀を振るう速度も尋常ではなく、キャンセルのタイミングもそれに伴い難易度が上がっていく。


 足が止まれば致命的でそんなミスは許されない。


 キキキンと折り重なるキャンセル。


 ロイヤルの剣を受け流すように刀を振るう。


 後退などせずにその場に留まりながら剣と刀が交差する。


 刺し合う至近距離の攻防は俺が優勢なようで距離を取ろうとロイヤルが後退するタイミングでキャンセルをしながら間合いを詰める。


 俺はこの戦いを早く決めたかった。


 三重奏のエンチャントを成功した瞬間に見せたロイヤルの最大の隙をつけなかったのが物凄く痛い。


 両手剣を片手で余裕に振り回すロイヤル。


『アディショナルタイム』


 ロイヤルが呟くと両手剣が俺の真上から刺すように降ってきた。


 俺がそれを避ける頃にはロイヤルは降ってきた両手剣を片手で持ちそれを俺に向けて振り下ろす。


 回避行動に移っていた俺に追い討ちのように振られた剣を刀で受け止める。


 ザザァーと地面を引き連れ停止する。


 両手剣を左右の手で持つロイヤル。


 この状態では凌ぎきれるのか不安になるほどに今のロイヤルは本気で俺を相手している。


 距離が空いてもロイヤルが詰めて来ない事に疑問を覚えるが。



『何をしている? 早くあと1段限界を超えて見せろ』



 痺れた手を見下ろしながら刀を地面に刺す。


 直立した刀を前に静止する俺の姿は斬って下さいと言ってるような物だがロイヤルは黙って俺を見ていた。


 ロイヤルは俺がエンチャントを四重に掛けて未開の地で戦っているのを知っていた人物だ。


 しかも俺の全力で一度も負けた事がないが勝てた事もない。


 その決着を今つけようとしている。


 お互いの本気をぶつけ、立っていた方が強い。


 実にシンプルで分かりやすい。


 静寂が包みキャンセル分と合わさって数秒のクールタイムで最上位魔法が成立する。


『四重奏歌風かふう・エース・エンチャント』


 炎が、雷が、風が、三重奏にも重ねられたエンチャントが混ざり合い静かに溶け合う。


 時が止まったようにゆっくりと流れ始めた時間。


 それに逆らう人物は俺と目の前の人物。




『待たせたな』


『あぁ、待ちわびたぞ』



 静かに蹴られた地面とドゴンと破裂した地面。


 再度ロイヤルとの死闘が幕を開けた。

 




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