本物の殺意






 サリナに連れられて来た場所はだだっ広いだけの場所だった。


 周りを見れば数十人が剣を合わせ戦闘をしていた。


 ずっと握られていた腕を離しサリナは俺に向き合う。


「私ね、ロイヤル様から力を貰った後にクラン戦を10回やったんだけど全勝なの」


 サリナは剣を出すと続ける。


「今の私なら悪魔を倒せるんじゃないかと思ってるのよ」


 俺を見つけて礼なんて言ってたがこれが狙いか。


『償ってくれるわよね』


 償い。その言葉に込められた意味は俺が女の子を助けただけではなく。


 奪った物も含まれてるように感じる。


 あの一件で俺のしたことがチャラになった訳じゃないという事だ。


 俺には謝罪の言葉なんて無い。


 答えは決まってると刀を抜く。


 




 カウントダウンは無く。


 キンっキンっと響く剣の打ち合う音が周りで聞こえている。


 サリナはただ俺を見つめていた。


 一呼吸置いて目を瞑る。


 再度目を開く頃には既に眼前まで振られた剣。


 トットットと足を交互に後ろに退くと剣先は顔を通り過ぎ俺は通り過ぎた剣に沿わせるように刀を滑らせる。


 呆気なく首筋に置かれた刀に目を見張るサリナ。


「人間の初級クランに勝ったからって挑むのは早すぎたかしら?」


「俺と本気でやりたいならロイヤルでも呼んでこい」


「私じゃ役不足ってこと?」


「戦闘経験が浅いやつに負ける程俺は弱くないからな」


 俺にも今までプレイヤースキルを磨いてきた自負がある。


 それを最近戦い始めた奴に負ける方がどうかしている。


 サリナは剣を下ろす。


「強くない私は相応しくないと」


 俺も刀を下ろす。


 サリナは考え込むと決意の瞳で俺を貫く。


「悪魔より強くなれば付き合ってくれるという事よね」


 ん?


「償いどこに行った?」


 俺と同じ様に疑問顔を見せるサリナ。


「最初から言ってるじゃない。国を守った英雄が一人の少女を誑かした罪は重いんですよ」


 俺が目を背け逃げた答え。


 答えを出して目の前のサリナは受け入れている。


「俺はお前から奪った物の方が多いはずだ!」


 声を張る。


 自分でも信じられないくらいの声にハッとなる。


 悪い。そんな言葉が喉から出そうになる。


『あらあら、シンは勘違いをしていますね』


 コツコツと靴を鳴らして俺とサリナに向かってくる人物。


「ロイヤル」


「シンが救った物はそれ以上に多いはずですが? そこに居るサリナもサリナの大切な人も含めて」


 ロイヤルはサリナの肩に手を置く。


「何でお前がここに」


「シンが言ったんじゃないんですか? 本気にさせたいなら私を呼べと」


 言ったが聞いてたのか!


「サリナは魔物側の有望株ですので最上位の戦闘を近くで見てもらおうと思いまして貴方をここに連れてくるように頼んでおいたのです」


 ロイヤルはサリナに「ありがとう」と言うと指を指してそこで見るように指示を出した。


 サリナは指示に従い駆け出す。


「悪魔は約束を守ってくれました。次は私が守る番です! 貴方より強くなって私に惚れさせてやります!」


 べーっと舌を出したサリナは振り返らずに遠くへ行ってしまった。


 約束の強制権は有効なようだ。


 俺は拒否する言葉すら持っていない。


「なんですか、その顔は?」


 俺は変な顔でもしてただろうか?


 はぁっと俺の顔を見ながらため息を吐くロイヤル。


「償いが欲しいんですよね? 私から無様に負かされれば少しは分かるんじゃないか?」


「俺を負かしてくれるって言うのかお前が?」


「先程の呆けた顔以外にもマシな顔が出来るんですね」


 明らかな挑発だが俺にも譲れない。


「綺麗な顔に傷が付いても知らないからな?」


「あら? そんなに褒めるな。シンとの久しぶりの殺し合いなのに剣がブレて一撃で沈めたらどうするんだ」


 クールタイム終了。


炎奏えんそう・エース・エンチャント』


 炎が俺に纏うように現れる。


「戯言を言うなよ。お前が俺に勝てた試しがあるのか?」


「おい人間。私に勝てた試しが無いのも覚えてるだろうな」


 俺とロイヤルは刀と剣を構える。


 ロイヤルはスっと手を胸から腰にかけて撫でると豪華なドレスがジョーカーのような軽装な鎧に姿が変わる。


 ロイヤルの姿がブレる。


 キンっと一太刀の斬撃。


 相打った刀は弾かれ足が地面を連れて後ろに下がる。



『良かった鈍ってはないようだな? これで私も心置き無く本気が出せそうだ』


『こっちはまだ様子見のつもりだが、もう戦ってる気になってるのか?』



 片手から剣を両の手に持ち替えたロイヤル。



『シン、減らず口はもういいのか?』


『どの口が言うんだ?』



 俺はトットットとつま先で地面を叩いた。






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