リアルへの脱出
ロイヤルを倒した後、俺はサリナに城に連れてこられた。
扉を潜ればパチパチと拍手で迎え入れられる。
「流石だ」
ロイヤルは椅子に座りながら告げる。
ロイヤルは既に軽装な鎧ではなくドレスで自分を着飾っている。
「俺に負けたって言うのに随分とご機嫌だな」
「私は全力のシンに勝てるだなんて最初から思っていない」
笑みを深めるロイヤルに俺はそうかと相槌を打つ。
死に戻りの概念が魔物達に付与されていない状態では俺は全力を出す機会も無かっただろう。
最後のエンチャント付与はどう考えても成功する確率の方が低いが成功してしまえば相手は為す術もなく葬られる。
攻撃力は武器依存だがクリティカルを確実に当てられるとなればどうしようもないだろう。
どんな強固な守りやどんな優れた剣の使い手だったとしても意味をなさない次元。
ロイヤルと俺の間にスクリーンが展開された。
「これで魔物達がプレイヤーに持っている嫌悪感をさらに取り除ける」
スクリーンに映っているのは俺とロイヤルの戦闘。
「これをどうするんだ?」
「もちろん全世界に公開する」
「……俺の切り札がバレるんだが?」
俺も男の子だから隠し技の一つは持っておきたいのだ。
「エンチャントの付与やキャンセルも修練を積めば誰にでも出来るだろうな」
そうだ、俺のやっている事はレアスキルを探すよりも簡単な事だ。
「だが5重にもエンチャントをかける奴はシン以外存在しないし、2重すらも危ういだろうな」
確かに見たことは無い。
「クラン戦なら余裕に使えるだろ」
「無理だ」
断言するロイヤル。
「力に圧倒されるだけで使う事と扱える事は違う」
俺を高く評価してるということで良いのだろうか。
「タダでとはもちろん言う気は無い。私も出来るなら思い出として密かに楽しみたいが今は利用出来るものは全て利用せねばならない時なのだ」
ロイヤルは椅子から立ち上がり俺の傍まで来ると膝立ちの様に足を折り屈む。
『ダメか?』
コ、コイツ! 自分の可愛さを分かってやがる。
上目遣いで頼まれたら断れる男はいるのか。
コホンっと真横で咳払いが聞こえ目線をロイヤルから変える。
サリナがジト目で俺を見ていた。
危ない! だらしない顔になっていたかもしれない。
俺はロイヤルに立つように促した。
「勝手にしろ」
律儀に俺からこの言葉を聞きたかったのだろう。
もしもプレイヤー同士ならこんな相手の意見を伺う事はしない。
正直、俺はどっちでも良かったが何かくれると言うのなら貰う主義ではある。
「なぜこうなった?」
「今アディショナルでは金目の物は無い。だからこうするしかあるまい」
俺は両手に華を侍らせアディショナルの街並みを見回っていた。
俺とロイヤルを見かけると屋台を開いている魔物から少しづつおすそ分けを貰っていく。
サリナは腕を組んでいるのが恥ずかしいのかずっと下を向いていた。
照れている姿を見てたらコッチまで恥ずかしくなってくる。
「自分の国に帰るからもういい」
「なんだ? 私といたくはないか?」
いたくないというか……真上に視線をやれば俺がこの国を救った姿が毎度流れていて、それに加えロイヤルとの戦いも放送され始めた。
「いや、もう貰う物は貰ったし本当に遅くなったから帰るわ」
凄く恥ずかしい。
「そうか。また近い内に来てくれるか?」
「あぁ、また来るよ」
俺は早くこの国を離れて自分の国へ帰りたかった。
この状況は嫌な予感がする。
「その時は私と二人でデートでもするか?」
「ロイヤル様ズルいです!」
下を向いていたサリナが顔を上げてロイヤルに視線を送る。
両腕は掴まれているが締め付けられるような痛みを感じる。
興味本位で来たら濃密な一日をここで過ごしてしまったなと思う。
ゴフッと正面から衝撃が走る。
「わぁ、シンだ! なんで私の国にいるの?」
ジョーカーが俺に抱きつき頬を胸に押し付けてくる。
そして殺意のある二つの視線。
「ジョーカーちゃんを送りに来たら、なんでシン兄がいるのかな?」
「シン君?」
アカネとサヤカが居た。
俺の両腕はロイヤルとサリナに掴まれている。
変な汗が出ているようで背中から寒気が襲ってくる。
……。
『ログアウト!』
俺はすぐさまリアルに逃げた。
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