新たなる






 四つのエンチャントの重ねがけはそれなりのデメリットを要する。


 この状態で普段と同じようには動けない。


 身体は空気の様に軽く星の様に速く動く。


 刀を振りプレイヤーのクリティカルを一人一人正確に狙うだけでも尋常じゃない精度の集中を要する。


 何人切った? 何十人? 何百人? 何万人?


 クラン戦以外でプレイヤーを倒す事はデメリットでしかなく犯罪者の烙印を押される。


 通報という手段を使われなければ犯罪者になる事はないがこれだけのプレイヤーを倒せば通報は免れないだろう。


 全ての行為にかかる金が何十倍にも膨れ上がる。


 武器を買う。飯を食べる。宿を取る。


 全部の国に情報は入り、ReLIFEで普通の暮らしは出来なくなるだろう。


 クラン戦で生計を立てている奴はスポンサーからも見放される。


 だがこの状態なら好ましい。


 プレイヤーから倒されたプレイヤーは通報という手段を使えば国から一時的に出られなくなり集中的に狙われる事を防がれる。


 犯罪者として知名度が上がる代わりに俺は魔物達に時間をあげれるとなれば願ったりなシステムだ。


 自分を倒したプレイヤーの名は直ぐに俺だと分かる。


 俺を目で追ってるプレイヤーはおらず一瞬で姿を消していく。


 一秒でも速く。


 連続して狩っていく手応えに罪悪感など一つもなくてただの作業として受け入れる。


 女の人、男の人、子供。どの年代のプレイヤーも居るが俺に躊躇いはない。


 どうせプレイヤーは死に戻りで生き返る。


 この力を制御する為に俺はもう考えるのをやめる。





 スローモーションの世界でどれだけの人を狩っただろうか。


 キンっと俺の刀が弾かれる。


 誰だ。


『シンもういい。止まれ!』


 初めて刀が止められた事に意識が浮上する。


 ロイヤルが剣を持ち俺の前に現れた。


「まだ終わってない……俺はまだ止まれない」


「周りを見ろ。もう人間は居ない」


 その声に周りを見渡せば俺を見ながら怯えている魔物の姿しか映らない。


「なんだ? もう終わっていたのか」


「シン、お前は自分が思っている以上に強い。お前が本気を出したらこの有様だからな」


 俺が強い? 四つのエンチャントを掛ければ誰でもこのぐらいは出来るだろ。


 攻めてきていた他の奴らは準備不足だっただけだ。


 ロイヤルは俺の身体をじっと見て声を出す。


「お前のそれはいつ見ても不思議だ。普通最上位魔法のエンチャントは限界を超える手段なのにそれを何重にもかけて最早どうやって制御してるのか私には想像もつかん」


 確かに俺以外に見た事はないがそんなに難しい事なのか?


「ジョーカーは無事なのか?」


「あぁ、城で休ませている。明日には元気になっているだろう」


 俺は安心するとふぅっと息を吐いて肩の力が抜ける。


 エンチャントを切ると身体がぐっと重く感じた。


「なぁロイヤル、この後どうするんだ?」


「話し合いをするに決まっているだろ」


「そうか」


「お前が作ってくれた時間だ。無謀に費やすことはしないよ」


 そうかと俺は刀をしまいロイヤルに背を向けて国に帰ることにする。


「また遊びに来いよ、待ってるからな」


 後ろで声をかけてくるロイヤルに手を振って俺は役目を終えた。






 アディショナルの攻略戦が失敗に終わり国同士の緊急会議が行われた。


「ミースティアこれはどういう事だ! ルールブレイカーが邪魔してきたぞ!」


「私の国もだ! これは大問題だぞ」


「ジョーカーを取り逃し国同士が協力しての未開の地攻略戦を無駄にした罪は重いぞ!」


 各国が大声を上げてヒカリに言葉を向ける。


 どうなっているのか把握していなかったヒカリはミリアに視線を仰ぐが「さぁ?」とミリアも手を挙げて何も分かっていなかった。


「この被害の全ての保証をミースティアが肩代わりしてくれるんでしょうね!」


 何故か強気な国々にヒカリは口を開く。


「何百万人ものプレイヤーが攻略戦という名の元に他の国を襲撃したのでしょ? それを守ったルールブレイカーを賞賛するならまだしも責めるなど私には出来ません」


「その通りだ」


 ギギィと開かずの扉が開きヒカリは二度目の登場に驚きはしなかったが他の国は何事だと視線を扉に向ける。


「私はロイヤル。お前達が攻めた国アディショナルのマスターだと言えばいいか?」


 優雅に席に腰を下ろすロイヤル。


「それではお前達が使う名で言うならルールブレイカーか? 私の国の人間だが文句があるなら私に言え」


 ピクンとヒカリがロイヤルの言葉に反応する。


「いえ、ルールブレイカーは私の国の人間ですが?」


「ほぅ、住処を提供してるにすぎん国がほざくか」


 ヒカリとロイヤルの視線がバチバチと火花を散らす。


 スっと視線を切るとロイヤルは口を開く。


「本題だがアディショナルに攻めてきた国の責任は負わなくていい。だが次からはクラン戦の承認もなく攻めることは許さない」


 ロイヤルの物言いにヒカリが口を挟む。


「それは国として認めろと言うことですか?」


「運営クランを置き魔物のクラン戦の承認とシステムの組み換えを行っている。もう時期にクランに入った魔物にも死に戻りの奇跡が付与されるようになる」


 運営クランとは話を付けているというロイヤル。



『次からは人間のルールが私達にも適応されると知れ。国に攻撃した輩は野良の魔物以下の扱いになると聞いたが? それでも良いと言うならまた私の国に攻めてこい』



 他の国を攻撃する手段はある。


 アフィリンスがジョーカーを召喚して起こした行為も国に攻撃をしたという一つの手段である。


 もし善意ある国への攻撃がなされたとすればクランの剥奪とアカウント権限の剥奪となりReLIFEを経由して行われる全てのサービスが使用不可能になる。


 固まった国々を置いて会議は終わりを迎えた。




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