コーヒー牛乳






 国々は俺の読み通りに動きだし着々と国の名前を冠して行った。


 そしてどの国も打倒ジョーカーを掲げクラン戦をしながら魔物狩りを進めていく。


 武器や防具共に充実していきスタンピードロストが行われる前よりもプレイヤースキルは格段に上がる。


 これは他国戦のログを見てれば明らかに違いがある。


 ミースティアは国同士の会議の内容は公開していて調べればある程度は分かるようになっている。


 俺はロイヤルと話した後はちょくちょく未開の地に顔を見せ他の国が攻めてきた形跡がないかも調べていた。


 俺がこういう事をやっているのはアディショナルに仕出かしたスタンピードの真似事の罪滅ぼしかもしれない。


 俺一人がアディショナルに協力してもReLIFEをやっているプレイヤー全てが敵になれば一瞬と持たないだろう。


 だから危険をいち早く察知して魔物達が逃げる時間を稼げればそれでいい。


 俺にはそれしか出来ない。


 分身体のジョーカーを倒してもプレイヤー達はそのまま歓喜して終わらないだろう。


 門を潜れば城が見えるからだ。


 俺もそうだったように必ず攻め込むはずだ。



 俺の気苦労も知らずにジョーカーは毎日ミースティアに飽きもせずに来ている。


「今日はシンも一緒がいい」


 アカネとサクヤが出掛けると言うと俺はそれを見送っていた。


 いつもキャッキャと笑っているジョーカーが真剣な顔で俺とも遊びたいと言い出した。


「いいぞ」


「やったぁ〜」


「俺は女子の遊びの理解は薄いぞ」


 どうせ三人の後を着いていくだけになるんだろうが。


 それでも良いと言うジョーカー。


 物好きな奴だ。


 今日も未開の地に足を運ぶ予定だったがジョーカーの頼みなら仕方ない。


 俺達は四人で宿を出た。









 大きな門の前、プレイヤー達は大声で叫ぶ。


 ラクリガルドのマスターシオンは早速他の国にメッセージを送る。


 シオンは最上位クランのマスター権限を使い他の国と連携をして未開の地に続く門を探していた。


 確認を終え他の国と同時に門を潜れば。


 他の国のプレイヤー達と一緒に未開の地を踏みしめる。


 門を潜ればどの国のプレイヤーでも一緒のエリアに入る。


 他国戦でしか会えない他の国のプレイヤー達と言葉を交わしながら目の前にいる魔物に目線が集まった。



『やぁ、僕に会いに来たのかい?』



 ロイヤルから話を聞いているジョーカーは大勢のプレイヤーを前にしてその意味を察していた。


「お前のせいで!」


「金返せ!」


「魔物の癖に!」


「お前許さねぇぞ!」


 プレイヤー達はジョーカーに向かって気持ちをぶつけていくがそれなりの実力者が揃った場だからか一切の油断もない。


 ジョーカーの強さは皆が知っていて最上位クランマスター達が一斉に合図を送ると攻撃を仕掛けていった。



『こんなもんかな』



 ジョーカーは一息着きながら全プレイヤーの殲滅が終わる。





 シオンは最上位クランのホームに転移させられ回復薬を大量に飲みながらホームを出る。


「ジョーカーの後ろに城が見えたな」


 他の国からもメッセージが飛んでくるが一言返す。


「次だ」






 ジョーカーが一息着くとすぐさま門から入ってきたプレイヤー達。


「また来るの?」


 ジョーカーが何度も殲滅をするがその度に門から姿を表すプレイヤー。


「流石の僕もキツイかな」


 魔物でも体力の上限はあり大勢のプレイヤーを相手取って連戦ともなれば疲労が蓄積していく。


 第一陣に居たシオンの番が来て門に入る。


 大量のプレイヤーの協力で第十陣まで区切って展開されるジョーカー殲滅の為に組まれた部隊。


 この戦略を成立させているのはジョーカーに対して怒りを持っているプレイヤー達の団結力にあるだろう。


 ジョーカーは肩で息をして所々だがダメージを受けて来ている。


 最初は怒りで顔を歪ませていたプレイヤー達はもう少しで倒せると息巻くと表情はジョーカーを狩ることを何かのイベントのように捉え楽しんでる者も少なからず出てき始めた。


 ジョーカーも既に本気で相手をしている。


 出てきては一瞬で姿を蹴散らすプレイヤー達。


 それでも前もって詠唱していたプレイヤーの余韻で放たれた魔法がジョーカーを貫く。


 ズザズサと的確に当たった魔法は致命的でジョーカーはペタンとその場に座り込む。


「美味しいの食べたらキツくない」


 腕に刺さった氷の矢を引き抜いて捨てると空中からポンっと一つの瓶を出現させる。


「コーヒー牛乳」


 蓋を取るとパリンと弾ける。


「あっ」


 瓶からは液体が零れ顔を上げると大勢のプレイヤーがまた出現していた。


 その中の何人かが放った魔法が運悪くジョーカーの手に持った瓶を叩き割る。


「シンから貰った僕の」


 ジョーカーは雨のように振る魔法を見ながら呟く。



『コーヒー牛乳飲みたかったな』









「あっ、雨だ」


 ポツポツと降る雨に俺は足を止める。


「ねぇ、シン」


 ん?


「ここに来て凄く楽しい、私と一緒に遊んでくれてありがとう」


 なんだ? 女同士で遊んでるからかジョーカーにも女らしさというかしおらしさが出てきたのか! 無邪気に笑うジョーカーも可愛いがこれはこれでアリだな。


「少し身体を保つのがキツくなって来ちゃった」


 ふらっと倒れそうになるジョーカーに手を差し伸べる。


 俺はジョーカーの違和感を口に出す。


「お前、本体じゃないのか!」


 ジョーカーの身体にザッザッとノイズが走る。


 じゃあ本体は何処だ?


 俺を今日連れ出したのには理由があるのか?



『サクヤ、アカネ。悪いが少し用事が出来た』



 ジョーカーの姿を見て心配しているアカネとサクヤに言葉を投げ俺は全速力でその場を去った。




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